70 / 204
ブラックサンタクロース
第4話『クリームシチューでドリア』①
しおりを挟む
火坑に連れられ、彼の店である楽庵の二階にある河童の水藻の『水端診療所』にゆっくり……けど、急いで手を引かれて行く。
好きな相手に手を握られるだなんて思わなかったが、肉球のない手は猫のような毛に覆われているせいか温かかった。
そして、水藻に診察してもらうと。
「精神的なストレスによる、一時的な過呼吸ですね?」
火坑の前で、元彼の事を話すのは正直言って苦痛でしかなかった。しかし、あんな症状は二度と起こしたくないので、水藻にもきちんと話した。ブラックサンタクロースと真穂は美兎が話し終えた後にやってきた。
「……先程、美兎さんが話していただいた昔の恋人が原因でですか?」
「ええ。我々あやかしでもありますが、人間は短命ですから特に……好きでも嫌いでも相手の事に固執する傾向があります。湖沼さんの場合は、トラウマを植え付けられた相手。まだ数年前とは言え、女性の心には重い症状となったのでしょう」
「わかりました。処方などは……?」
「見える外傷がないので、下手に秘薬などの薬はやめておきましょうか? 代わりに、僕から大将さんにお願いがあります」
「僕に……ですか?」
「はい。湖沼さんは昼食を食べていないようですし……僕の診断書を渡すので、彼女の会社には提出出来るようにします。湖沼さんに美味しいお料理を食べさせてやってください」
「え」
「わかりました。僕で出来るのであれば」
「なので、真穂様には湖沼さんの付き添い。それとブラックサンタクロースさんには人化していただき、事情説明を湖沼さんの会社にしてくださいませんか?」
「了解したよ」
などと、あれよあれよと今日の予定が立てられてしまい。
火坑以外の面々で、西創に真穂の妖術でひとっ飛びして行った。ブラックサンタクロースは、人間用の名刺を美兎の上司に渡して事情説明を代わりにしてくれて……今日の美兎の仕事は無理に続けられない理由を明確に話してくれたのだ。
水藻の人間用の診断書にも、きちんと詳細が記されていたお陰か……精神科にかかる事態にならなくて済んでほっとしたのか、上司は美兎のところに来ると肩を軽く叩いてくれた。
「昨夜も頑張ってくれたんだ。今日の仕事は無理に急ぐものはない。有給にはまだ一年目だもんで出来ないが、休暇届にしておくよ。ゆっくり休みなさい?」
「……はい」
まだまだ新人なので、自分で仕事を続けるだなんて言えない。美兎は頷いてから、ブラックサンタクロース達と界隈に戻って楽庵へと戻って行く。
扉を開ければ、とてもいい香りがした。
「おかえりなさい、皆さん」
いつもの『いらっしゃい』ではない、温かい言葉に。
美兎は、またこの猫人が好きなんだなと実感出来た。
「……ただ、いまです。会社には休暇届にしていただきました」
「それなら良かったです。寒いですし、刺激物はやめておいたほうがいいかと思って……クリームシチューを作ってみました」
「! あ、心の欠片」
「いいんですよ。美兎さんの治療も兼ねてなんですから、代金はお気になさらず。水藻さんの指示もありましたが、僕からのお節介だと思ってください」
「……ありがとうございます」
水藻への代金も真穂が払ってくれたので、あやかし達は本当に良い人達ばかりだと思わずにはいられない。
とりあえず、ブラックサンタクロースとも一緒にカウンターに腰掛ける事にした。
好きな相手に手を握られるだなんて思わなかったが、肉球のない手は猫のような毛に覆われているせいか温かかった。
そして、水藻に診察してもらうと。
「精神的なストレスによる、一時的な過呼吸ですね?」
火坑の前で、元彼の事を話すのは正直言って苦痛でしかなかった。しかし、あんな症状は二度と起こしたくないので、水藻にもきちんと話した。ブラックサンタクロースと真穂は美兎が話し終えた後にやってきた。
「……先程、美兎さんが話していただいた昔の恋人が原因でですか?」
「ええ。我々あやかしでもありますが、人間は短命ですから特に……好きでも嫌いでも相手の事に固執する傾向があります。湖沼さんの場合は、トラウマを植え付けられた相手。まだ数年前とは言え、女性の心には重い症状となったのでしょう」
「わかりました。処方などは……?」
「見える外傷がないので、下手に秘薬などの薬はやめておきましょうか? 代わりに、僕から大将さんにお願いがあります」
「僕に……ですか?」
「はい。湖沼さんは昼食を食べていないようですし……僕の診断書を渡すので、彼女の会社には提出出来るようにします。湖沼さんに美味しいお料理を食べさせてやってください」
「え」
「わかりました。僕で出来るのであれば」
「なので、真穂様には湖沼さんの付き添い。それとブラックサンタクロースさんには人化していただき、事情説明を湖沼さんの会社にしてくださいませんか?」
「了解したよ」
などと、あれよあれよと今日の予定が立てられてしまい。
火坑以外の面々で、西創に真穂の妖術でひとっ飛びして行った。ブラックサンタクロースは、人間用の名刺を美兎の上司に渡して事情説明を代わりにしてくれて……今日の美兎の仕事は無理に続けられない理由を明確に話してくれたのだ。
水藻の人間用の診断書にも、きちんと詳細が記されていたお陰か……精神科にかかる事態にならなくて済んでほっとしたのか、上司は美兎のところに来ると肩を軽く叩いてくれた。
「昨夜も頑張ってくれたんだ。今日の仕事は無理に急ぐものはない。有給にはまだ一年目だもんで出来ないが、休暇届にしておくよ。ゆっくり休みなさい?」
「……はい」
まだまだ新人なので、自分で仕事を続けるだなんて言えない。美兎は頷いてから、ブラックサンタクロース達と界隈に戻って楽庵へと戻って行く。
扉を開ければ、とてもいい香りがした。
「おかえりなさい、皆さん」
いつもの『いらっしゃい』ではない、温かい言葉に。
美兎は、またこの猫人が好きなんだなと実感出来た。
「……ただ、いまです。会社には休暇届にしていただきました」
「それなら良かったです。寒いですし、刺激物はやめておいたほうがいいかと思って……クリームシチューを作ってみました」
「! あ、心の欠片」
「いいんですよ。美兎さんの治療も兼ねてなんですから、代金はお気になさらず。水藻さんの指示もありましたが、僕からのお節介だと思ってください」
「……ありがとうございます」
水藻への代金も真穂が払ってくれたので、あやかし達は本当に良い人達ばかりだと思わずにはいられない。
とりあえず、ブラックサンタクロースとも一緒にカウンターに腰掛ける事にした。
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる