名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

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猫又

第2話『アンコウ鍋の年越し蕎麦』

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 今日は本来営業ではないらしいが、美兎みうのためにわざわざ開けてくれたそうで……。美兎はお節などのタッパーが入っている袋があることは、LIMEで火坑かきょうに連絡済みなため、カウンターの空いてるテーブルに置くことにした。


「少し、変わった年越し蕎麦にしようと思ったんです」
「年越し蕎麦、作っていただけるんですか??」
「ええ。ただ、かき揚げなどの天ぷらではなく……旬の魚を使ったお鍋の〆にしようかと」
「わぁ!」


 美兎は会社の下調べの仕事ついでに、少し旬の食材を調べたりしている。火坑の料理はなんだって美味しいが、彼女となっただけでなく常連のひとりとして……心の欠片でも美味しい食材を出来るだけ渡してあげたいと考えていた。

 だからこそ、火坑の手掛ける料理の勉強をし始めた美兎はどんなものか想像してしまう。鍋で、蕎麦が合うとなれば……例えば、ブリとかだろうなどと。

 その表情が顔に出ていたのか、火坑はいつもの涼しい笑顔になった。


「おそらく、美兎さんは食べた事がありません。アンコウを用意しました」
「……アンコウ?? って、あん肝とかでよく聞く??」
「ええ。どぶ汁と言う料理もありますが……今日は和風出汁仕立てで、〆はお蕎麦にします」


 アンコウを食べる機会はそう多くないが、たしかに十二月の旬の食材にアンコウは載っていたのを思い出した。しかし、回転寿司だけでなく居酒屋でもアンコウはあん肝ポン酢などでしか目にしたことがない。美兎は会社の飲み会であん肝ポン酢は目にしたが、食べたことはなかった。

 とりあえず、カウンターに座るとすぐに温かいほうじ茶を出してもらえたので待つことにした。今日は営業ではないので、心の欠片もいらないと前もって火坑に言われたからだ。


(アンコウの身を使ったお鍋なんだ……??)


 先程も思ったが、肝以外の部位については美兎もだがおそらく現代社会では一般的ではないはず。この店のようなチェーン店でない料理屋で出される料理なのだろう、と予想しか出来ないが。

 ちなみに、フグの方はまだこの店でも出されていない。旬じゃないだろうし、心の欠片でも特に必要とされていないからだ。

 美兎の来る時間に合わせて、準備してくれていたからか鍋はすぐに出てきた。


「お待たせ致しました。醤油味のアンコウ鍋です」


 二人で食べるからか、時々出される小鍋よりも大きめの鍋が出てきた。卓上コンロを先に出され、美兎の左手側の席に置く。その上にドンと置かれた鍋は存在感があった。


「この白身魚っぽいのがアンコウですか?」


 タラみたいな切り身が綺麗な醤油色に染まっていた。


「はい。深海魚なので身が少し固めですが、ぷりぷりしていて美味しいですよ?」


 そして、今日は火坑も店の主人ではなく、美兎の恋人として過ごすためにこちら側に来て……。手には、美兎の好きな自家製の黒砂糖で作った梅酒をロックで持ってきてくれた。

 美兎にひとつ渡してから、二人でグラスをかち合わせた。


「今年も一年お疲れ様でした!」
「美兎さんもお疲れ様です」


 温かい店内で飲む冷たい梅酒はいつもより格別で。

 初めて食べるアンコウ鍋というのは、寄せ鍋のような味だったが……丁寧に取った昆布出汁に、アンコウの出汁が効いたスープも格別。アンコウは味噌仕立てが多いと教わったが、この醤油味も美味しいと思った。

 〆のお蕎麦は鍋だと初めてだったが、卵でとじる必要もないくらいにスープだけで十分なご馳走に終わった。

 あとは、火坑が片付けをするまで美兎は待つだけだったが……こののんびりとした時間が今日終わるわけではない。明日もあるんだ、と思うと心がくすぐったかった。


「とっても美味しかったです!」
「喜んでいただけて何よりです。……美兎さん、明日は元旦ですのに、本当に僕と居ていいんですか?」
「お母さん達には、とりあえず沓木くつき先輩達と一緒だってことにしています」


 元彼のこともあったから、いきなり新しく出来た彼氏と過ごしているとは言いにくかった。もちろん、彼氏が出来たことは母には教えているが、響也きょうやの姿で彼を連れて行くのは三ヶ日が明けた週末のつもりだ。真穂まほ達はさらにその後らしい。


「けど、沓木さん達はスキーに出かけているので初詣も一緒に行けませんよね?」
「そこだけ寂しいですけど……火坑さんと一緒にいたいんです」
「!……それは光栄です。でしたら、ひとつ面白い場所に行きませんか??」
「面白い場所?」


 人間界ではなく、界隈のようだが美兎は決まった場所しか行っていないのでわからない。首を傾げていると、火坑がふふっと笑い出した。


「心の欠片の買い取り場で……新年最初の競りが行われているんです。滅多に見に行けないんで、見学だけでもどうかと」
「へー!」


 あやかし達だけの特別な場所。

 そんな場所に行けるのは、興味があった。
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