名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

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雪女 弐

第6話 雪女とろくろ首

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 偶然も偶然だとは言え、花菜はななは心の内でうきうきした気持ちになっていた。

 兄弟子の恋人……とある大妖怪の血縁でもある人間の女性、湖沼こぬま美兎みう。彼女とその守護となっている……界隈では知る者がいないとされている、座敷童子の真穂まほに、雪女の花菜自ら、手芸の手解きを施した。

 初心者ゆえに、美兎はおぼつかない手つきで棒針を駆使していたが。もともと、器用な方ではあったのでなんとかマフラーは完成出来た。

 ホワイトデーの今日、兄弟子であり猫人の火坑かきょうに渡せていると思う。だが、実は火坑自身も料理以外に美兎に贈りたいと花菜に相談してきたのだ。


(兄さんに相談されるとは、思わなかったわ……)


 地獄の補佐官だった経緯があるせいか、独特の雰囲気を醸し出す兄弟子は……現世のあやかしに転生後も多方面のあやかしの女性からモテていたらしい。もうひとりの兄弟子である元狗神の蘭霊らんりょうから聞いたが。

 しかしながら、興味がないのかことごとく袖に振ったそうだ。なのに、美兎と去年界隈で出会い、客と店主の関係の垣根を越えようとした。花菜が彼の妹弟子になってからは、誰かに熱をあげるなどと言うことはなかったのに。それだけ、美兎は特別。

 さとりの子孫も関係無しに、火坑は美兎を好いた。花菜自身も、彼女や真穂達に助けてもらい……ろくろ首の盧翔ろしょうと思いを交わせたのだ。役に立つことが出来るのなら、喜んでと応じた。

 夜半に近いが、ふたりは今頃火坑の店でのんびりしているだろうか。

 美兎は血を受け継いでいてもほとんど人間なので、あやかしと情交してしまうと人間ではなくなる。火坑はそこを踏み止まっているため……しばらく、あと十年程度はないだろう。

 そう考えながら、花菜は楽養らくようで今日も修行の日々に明け暮れ……前以て、師匠の霊夢れむに頼み込んで、今日は早上がりにさせてもらった。

 恋人の盧翔に、花菜もとびきりのニットを贈るためだ。

 盧翔にも事前に会いに行くとは言ってあるので、花菜は身支度をきちんとしてからサルーテに向かう。

 サルーテに行くと、最低限の灯りしか点いていなかったが盧翔が二十二時くらいには営業を終わらせると言っていたので、おそらくそのせい。

 花菜はLIMEで到着したことを知らせると、正面玄関の扉がすぐに開いた。


「いらっしゃい」
「こ、こんばんは……」


 柔和な笑みが似合う糸目だが、決して怖いと思わない。小さく会釈をすれば、彼は花菜の頭を撫でてくれた。事実、彼より数十年歳下なのだから仕方がない。

 だが、彼と交際を始めてはや数ヶ月。彼は花菜を本当の意味では子供扱いしたことはなかった。


「腹減ってる?」
「……少し」


 今日はサルーテで夜を明かすと言われていたので、まかないも試食以外はほとんど口にしていない。正直に話すと、盧翔は得意のピザ回しでささっと一品のピッツァを振る舞ってくれた。


「とりあえず、うちのまかないピッツァ」


 あり合わせもだが、余ったパンチェッタなど肉にチーズが多いピッツァだった。ふたりで熱い熱い言いながら食べた後に……花菜はメインのニットを彼に渡した。


「セーター……です」


 彼からは、雪女などに必要な防護手袋の新しいのをバレンタインにもらったので、花菜からは手作りのセーターを贈ったのだ。

 盧翔は糸目を開眼したが、嬉しそうに笑ってくれたので……自分は、とペアリングを贈ってくれたのだ。サイズはいつのまにか測られていて、防護手袋を貸してから……彼は花菜の左薬指にはめてくれた。


「これからもよろしくな?」
「……はい」


 こんな幸せでいいのかと思うくらい、花菜の今は幸せ過ぎた。

 盧翔はコックスーツを着替えた後に、花菜の贈ったネイビーでアラン模様のセーターに着替えてくれた。とてもよく、似合っていた。
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