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閻魔大王 弐
第3話 久しぶりの再会
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美兎には、今起きていることに苦笑いしか浮かばない。
「ほう? しるこサンド? あの世にも送られてくる供物でもあったかどうか」
ここは、錦。
だが、人間達が行き交う歓楽街ではなく、あやかし達が住まう界隈の方である。美兎は、終業後に座敷童子の真穂といつものように楽庵に行こうとしたが。
『担当に呼び出された!! ほんと、ごめん!!』
と、真穂は急用が出来てしまい、美兎はひとりで行くことにした。店の主人であり、恋人でもある猫人の火坑とふたりきりになれるかも……とうきうきしてしまったが。
先客が居たのだ。
しかも、美兎にとってもあやかしらにとっても、珍客中の珍客が。
「あ」
「ん?」
扉を開けて、いつものように声を掛けようとしたら……綺麗な黒髪の客が居たので、相席かと少し気落ちした。しかし、顔が見えるとそんなのはどうでもいいと頭からふっ飛んでしまう。
「お、お久しぶり……です」
女なら羨む程の、綺麗な黒髪。
同様に長い黒髭。
服装は中国の古い民族衣裳のような形で、色はけばい程に濃い赤。なのに、この男性が着ているとちっともけばく感じないのだ。
「おお? 昨年に出会った以来じゃな??」
熱燗片手に、美兎に挨拶してくれたのは……地獄の主であり、あの世で人間などの魂を裁きにかける偉大な存在。閻魔大王が居たのだ。たしかに、去年以来ここで会ってはいない。
びっくりし過ぎて、火坑が座るように声を掛けてくれたのを二度聞き逃した。慌ててカウンターに腰掛けると、閻魔大王はカラカラと笑い出す。
「ふふ。今日は大王おひとりですからね?」
火坑は先付けのタラモサラダぽい器を美兎に差し出し、温かなおしぼりも手渡してくれた。
「うむ! たまには良い良い!……それに、火坑とお主の関係も変わったのが気になってな??」
「知って……いるんですか?」
「界隈の噂も、あの世になどすぐに届く。お主らの顔を見れば、確信出来たわい」
気恥ずかしいが、特に反対の言葉とかもないので嬉しかった。
そして、いつものお酒を頼もうとした時に……スマホからメールが来た時にしるこサンドの袋が出てきたので、閻魔大王に不思議がられたのだ。
包みをひとつ渡して、観察する閻魔大王が初めてのおもちゃをもらった時のように楽しんでいるのだ。こんなあの世の偉い人がいていいのだろうか、と。
「しるこサンドですか? 僕も名古屋に居て長いですが、あまり口にしたことがないですね?」
「じゃあ、火坑さんにも」
まだ残っていたのでひとつ渡せば……彼は、少し眺めた後に口に入れてくれた。猫のようで猫でないあやかしだから、食べる事が出来るのだろう。そう言えば、付き合って半年近く経つが火坑の好き嫌いを特に知らないでいた。
「適度な餡子の甘さに、ビスケットとクラッカーを合わせたような……これはこれで、好きな方には病みつきになりますね?」
「火坑さん、ダメでした??」
「その……手製などの餡子はいいのですが、加工のは」
考えていたら、すぐに彼の好き嫌いがわかってしまった。食べられないわけではないようだが、苦手だと。不謹慎だが、知れたことで少し嬉しくなった。
「儂は好みじゃがのぉ?」
「いえ。食べられないわけでは」
と言うやり取りを見ると、あの世ではふたりがこんな感じで仕事をしていたのかと思わずにいられない。
しかし、過ぎた事でもあるので無理に聞くのはやめておいた。
代わりに美兎は、今日の『心の欠片』を火坑に頼むことにしたのだ。
「ほう? しるこサンド? あの世にも送られてくる供物でもあったかどうか」
ここは、錦。
だが、人間達が行き交う歓楽街ではなく、あやかし達が住まう界隈の方である。美兎は、終業後に座敷童子の真穂といつものように楽庵に行こうとしたが。
『担当に呼び出された!! ほんと、ごめん!!』
と、真穂は急用が出来てしまい、美兎はひとりで行くことにした。店の主人であり、恋人でもある猫人の火坑とふたりきりになれるかも……とうきうきしてしまったが。
先客が居たのだ。
しかも、美兎にとってもあやかしらにとっても、珍客中の珍客が。
「あ」
「ん?」
扉を開けて、いつものように声を掛けようとしたら……綺麗な黒髪の客が居たので、相席かと少し気落ちした。しかし、顔が見えるとそんなのはどうでもいいと頭からふっ飛んでしまう。
「お、お久しぶり……です」
女なら羨む程の、綺麗な黒髪。
同様に長い黒髭。
服装は中国の古い民族衣裳のような形で、色はけばい程に濃い赤。なのに、この男性が着ているとちっともけばく感じないのだ。
「おお? 昨年に出会った以来じゃな??」
熱燗片手に、美兎に挨拶してくれたのは……地獄の主であり、あの世で人間などの魂を裁きにかける偉大な存在。閻魔大王が居たのだ。たしかに、去年以来ここで会ってはいない。
びっくりし過ぎて、火坑が座るように声を掛けてくれたのを二度聞き逃した。慌ててカウンターに腰掛けると、閻魔大王はカラカラと笑い出す。
「ふふ。今日は大王おひとりですからね?」
火坑は先付けのタラモサラダぽい器を美兎に差し出し、温かなおしぼりも手渡してくれた。
「うむ! たまには良い良い!……それに、火坑とお主の関係も変わったのが気になってな??」
「知って……いるんですか?」
「界隈の噂も、あの世になどすぐに届く。お主らの顔を見れば、確信出来たわい」
気恥ずかしいが、特に反対の言葉とかもないので嬉しかった。
そして、いつものお酒を頼もうとした時に……スマホからメールが来た時にしるこサンドの袋が出てきたので、閻魔大王に不思議がられたのだ。
包みをひとつ渡して、観察する閻魔大王が初めてのおもちゃをもらった時のように楽しんでいるのだ。こんなあの世の偉い人がいていいのだろうか、と。
「しるこサンドですか? 僕も名古屋に居て長いですが、あまり口にしたことがないですね?」
「じゃあ、火坑さんにも」
まだ残っていたのでひとつ渡せば……彼は、少し眺めた後に口に入れてくれた。猫のようで猫でないあやかしだから、食べる事が出来るのだろう。そう言えば、付き合って半年近く経つが火坑の好き嫌いを特に知らないでいた。
「適度な餡子の甘さに、ビスケットとクラッカーを合わせたような……これはこれで、好きな方には病みつきになりますね?」
「火坑さん、ダメでした??」
「その……手製などの餡子はいいのですが、加工のは」
考えていたら、すぐに彼の好き嫌いがわかってしまった。食べられないわけではないようだが、苦手だと。不謹慎だが、知れたことで少し嬉しくなった。
「儂は好みじゃがのぉ?」
「いえ。食べられないわけでは」
と言うやり取りを見ると、あの世ではふたりがこんな感じで仕事をしていたのかと思わずにいられない。
しかし、過ぎた事でもあるので無理に聞くのはやめておいた。
代わりに美兎は、今日の『心の欠片』を火坑に頼むことにしたのだ。
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