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番外編
第9話 馴れ初め
(……いやぁ、まあ)
美味かった。
スイードが、公爵家から新人の近衞騎士となった令嬢であるアイシス様から……俺達の、結婚祝いにと渡されたケーキ。
見た目も、かなり細工も凄かったが……味もやばかった。
アイシス様の義姉となった……俺の悪友でもあるワルシュの養女、イツキ。
あの嬢ちゃんが手助けしたからって……美味すぎた。
スイードと口に入れた瞬間、美味過ぎてお互い貪るように食っちまったんだ。世辞抜きに、今まで食ったどのケーキよりも美味かったんだ。
(……愛されてるなあ、スイード)
表情をほとんど表にしない……ある意味親子くれぇ離れた年頃の若い嬢ちゃんが、婚約者となった。
レイドの直属の部下。
元、イツキの嬢ちゃんの護衛。
その功績と、本人の暗部での技術などを見込んで……色々指導してやったが。
まさか、一生涯の相手にしようとは俺自身も予想外。
しかしあれだ。
惚れたら負けだって、言葉通りだ。
暗部の野郎共が、連絡事項をスイードに伝える程度でイラつく俺がいた。つまりは……そう言うことだ。
逆に、スイード自身も好いてくれていたのは予想外だったがな?
だから、俺の年齢のこともあり……いっそ結婚しようとすぐに申し込んだら。流石に卒倒したスイードの可愛らしい反応は今でも覚えている。
あれは、俺の一生の宝物んだ。
式とかはワルシュを含め、身近な連中としかしないつもりでいたんで……イツキの嬢ちゃんも呼ぶつもりではいたが。
先に祝われるとは。
しかも、義妹と共同でめちゃくちゃ美味いもんを作ってくれた。
その祝福を、受け取ったなら……返したいと思ってしまうのは。
毒気のない、あの穏やかな笑顔を知っているからなあ? 何せ、イージアスだけでなく世界の恩人だ。
とくれば。
「イツキが喜ぶもん?」
イツキの養父で、俺の悪友に聞くしかねぇだろ?
「ああ。この前、アイシス様と共同で作ったすんげぇケーキもらったんだ」
「受け取っただけでいいじゃねぇか?」
「いや、なんか。そりゃいかんと思ってな」
消え物だが、俺もスイードも異様な満足感を得た。
それをそのままにしておくのは……スイードにも聞いたが、何かお返しをしたいと言うんだ。だから、ワルシュに聞きに来たんだが。
「ほー? お前さんが」
「な? 親だろ? なんか知らねぇか?」
「アーネストの坊は?」
「イツキ嬢ちゃんに筒抜けだろう? ちぃっと秘密にして動きたい」
「っつってもよぉ?」
ワルシュ自身でも、養女にしたのはまだ数年程度だから知らないことも多いらしい。
しかし、ひとつ言えることは。
食材や調理器具に関しては、異様な興味を覚えることは確実だそうだ。
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