41 / 576
第二章 交わる会合
041.紅との再会
しおりを挟む
お城に滞在してから約一週間。
僕のすることと言えば、一日の大半は魔法と語学の勉強。
と言ってもがっつりお勉強と言うわけではなく比較的のんびり。ご飯食べて二時間くらい勉強してお昼寝して、またご飯食べて少し勉強してから時間次第で僕がおやつを作ったり。時々マリウスさん達のおやつをいただくこともある。
ほぼそう言った毎日の繰り返しだ。城内案内は?と思うところだが、今は誰も手が空いてないのとフィーさんじゃ適当になるからと却下されている。
「うーん、こんなとこかな?」
今日はお勉強じゃなくて休養日。
だけどずっと本を読むのも疲れるので日記を書いています。
日記と言ってもほとんどがレシピ帳となっているが。最初はこちらの字で書こうと思ったが、見る人もいないだろうからと日本語で書いている。帰れなくなっても故郷の字は忘れたくない……なのは後付けの理由で、まだ一週間じゃ字を習得出来ていないから書いただけです。
今書いていたのはキウイムースについて。羽根ペンはインク搭載のほとんどボールペンに近いものだけど、ペン先は万年筆とかと変わりないから向きを一定にするのが大変だ。最後まで書き終わってから僕はペン立てに羽根ペンを置いた。
「けど、こんなずっとのんびりしてていいのかなぁ?」
至れり尽くせり。
その言葉がぴったりなんじゃないかってくらい毎日を過ごさせてもらっている。
今までがあくせく働くスタイルでいたから、ここまでほとんど何もしないのも中学生くらいか? 高校は行かずに専門学校だったし、あの頃は店と変わりないほど動いていた。
だからか、時間を持て余してしまいがちで体が慣れない。
体は小学生サイズだけど、中身は成人。
なんかの言葉であった気がするが、体もだけど心が記憶してる習慣は早々に変えることは難しい。まさに今これ。
「あー、外はいい天気」
窓の外は快晴で雲ひとつない。代わりにじゃないけど、初日に降りた浮島達が空高く浮いています。
あれは特殊な魔法で普段は浮かせてある飛行場だそうな。
ディシャスのような竜や他の聖獣なんかの騎獣達が下の本広場にどかどか降りたらお互いがぶつかるだろうからと順番待ちするために、エディオスさん達が生まれるずっと昔に設けた施設的な物らしいです。
初日は時間が遅かったからディシャスだけで済んだんだけど、朝や昼間は渋滞することも珍しくないんだって。今も浮島が上や下に動いたりの繰り返しが成されています。ここからじゃ騎獣達の影は見えるけど、なんの騎獣かはよく見えない。大きい影は大体竜らしい。
そう言えば、ディシャスに初日以来会ってないけども、元気にしているかしら?
と僕がぼんやり考えてたのが届いたのだろうか。窓の前に真っ赤な影がいきなり写り込んできた。
「わっ⁉︎……って、ディシャス?」
驚いて腰を引きかけたけど、見覚えのある色合いに僕はもう一度窓の方に顔を向けた。
爬虫類っぽい顔に立派な象牙色の一対の角。はっはと口を開けてピンク色の舌を暑そうにだらんとさせていた。そして何より特徴的な真紅の皮膚にエメラルドグリーンのぱっちりお目々。まごう事なきエディオスさんの騎獣のディシャスだよね?
(て、関心してる場合じゃない!)
なんでディシャスが僕が借りてる部屋の前まで来てるんだ⁉︎
「ディシャス!」
「ぎゅぅるぅ!」
窓の鍵を開けてから扉を引くと、ディシャスが嬉しそうに声を上げて顔を乗り出してきた。
「なんで僕の部屋の前まで……って、わぷ‼︎」
「ぎゅぅるぅるぅ」
わけがわからないと慌てかけた僕にディシャスは大きなピンク色の舌で顔をでろんと舐めてきた。
初日以来のことに始めは驚いたけども、段々とくすぐったくなってきてべろべろとされるがままになっていく。
「ま、待ってって。く、くすぐったいからぁ!」
「ぎゅぅ?」
僕が声を上げたのにどうしたの?と舌をようやく引っ込めてくれた。
顔が唾液でベタベタになってしまったので、ディシャスに待つよう窘めてから洗面所に行って顔を洗ってくる。ディシャスはいい子にして待っててくれていて、僕が待てって言ったままの姿勢でじっとしていた。
「けど、なんでこんなとこに来たのかな?」
幸い窓のすぐ外は大きな木もなく芝生が広がっている場所だったから、ディシャスにぶつかる障害物もないので安全ではあるけども。
僕が呟いてもディシャスは大きなお目々をキラキラ輝かせているだけです。
主人のエディオスさんと違って意思疎通は出来ないからこれは困った。
「……これはエディオスさんに知らせた方がいいかな?」
「ぎゅっ⁉︎」
「ん?」
主人の名前を出すとディシャスがぎくりと言った風に驚いた声を出した。
どうやら、僕が言ってる言葉は理解出来てるみたいだ。
「……ディシャス、エディオスさんに何かしたの?」
「ぎゅうぎゅう」
「えーっと……それはしてない?」
「ぎゅう!」
首の動作だけでなんとなく言いたい事を理解してみる。
横や縦に強く振ったりする感じ、人間のそれとほぼ同じような仕草だったからわからなくもなかった。
「じゃあ、お散歩?」
「ぎゅう……ぎゅう?」
「……もしかして、脱走してきたの?」
「ぎぎゅ⁉︎」
って、ちょいと待ちなさい!
「なんで脱走してきたの⁉︎ 獣舎でお昼寝とか体動かすとか出来るんでしょう?」
初日に見た獣舎の外観だけじゃわからなかったけど、あの獣舎の反対側は巨大な岩壁で囲ってあるグラウンドがあるらしく、騎獣同士が遊んだり戦闘訓練出来る場所としても使われてるそうだ。
エディオスさんは王様だからしょっちゅうはいけないらしいけど、出来るだけ二日にいっぺんくらいは構ってあげてるようにはしていると昨日聞いたばかりで覚えていた。
だと言うのに、なんで主人そっちのけで脱走してるんですかこの竜さんは!
「……ぎゅぅ」
しょぼんと首をすぼめるディシャス。
あんなにもキラキラしていたお顔が一気に風船がしぼんだように沈んでしまったよ。
「……もしかしてだけど、僕に会いたくて来たとか?」
「ぎゅっ、ぎゅぎゅぎゅぅ‼︎」
思いついた言葉をポロっと溢すと、一変してディシャスは顔を上げてお目々をキラキラさせてきた。
だがそれにしたって、
「どうやってここがわかったんだろう?」
初日に獣舎で別れてっきりだし、さっきみたいに顔をベロベロされる以外は特に何もされてはいない。
それともう一つ疑問が。この巨体なのに、どうやってほとんど音も出さずにここまでやってきたのか。
僕だってたまたま窓見てなきゃディシャスの姿にも気付かなかったし。
「ぎゅうぎゅぅ‼︎」
「んー? どし……ってぇ⁉︎」
首を捻って考え事をしていたら、いきなりディシャスの手に抱き上げられました!
逃げようにもがっちりしっかりと痛くない具合に握り締められてましたので無理な具合に。
「ちょっと、なんでこんなことするの⁉︎」
「ぎゅうぅ……」
なんか黙ってとか言われたような?
意味がわからないともがくのをやめてみるが、それを見たディシャスはなんだかニコニコと牙を剥き出しにして笑い出した。
不覚だが可愛いではないか。
ギィシャァアアア!
ひと吠えし出したディシャスはなんだか誇らしげでした。
これからどうなるのと思っていたら、急にディシャスの顔が透け出した。
「え?」
なんだなんだとキョロキョロしてたら、僕の腕なんかも透け出していた。
(今の吠え声で何かしたんですかディシャス君⁉︎)
それがどう言う魔法かもわからずあたふたしていたが、 ディシャスと僕はその場から消え失せてしまっていた。
僕のすることと言えば、一日の大半は魔法と語学の勉強。
と言ってもがっつりお勉強と言うわけではなく比較的のんびり。ご飯食べて二時間くらい勉強してお昼寝して、またご飯食べて少し勉強してから時間次第で僕がおやつを作ったり。時々マリウスさん達のおやつをいただくこともある。
ほぼそう言った毎日の繰り返しだ。城内案内は?と思うところだが、今は誰も手が空いてないのとフィーさんじゃ適当になるからと却下されている。
「うーん、こんなとこかな?」
今日はお勉強じゃなくて休養日。
だけどずっと本を読むのも疲れるので日記を書いています。
日記と言ってもほとんどがレシピ帳となっているが。最初はこちらの字で書こうと思ったが、見る人もいないだろうからと日本語で書いている。帰れなくなっても故郷の字は忘れたくない……なのは後付けの理由で、まだ一週間じゃ字を習得出来ていないから書いただけです。
今書いていたのはキウイムースについて。羽根ペンはインク搭載のほとんどボールペンに近いものだけど、ペン先は万年筆とかと変わりないから向きを一定にするのが大変だ。最後まで書き終わってから僕はペン立てに羽根ペンを置いた。
「けど、こんなずっとのんびりしてていいのかなぁ?」
至れり尽くせり。
その言葉がぴったりなんじゃないかってくらい毎日を過ごさせてもらっている。
今までがあくせく働くスタイルでいたから、ここまでほとんど何もしないのも中学生くらいか? 高校は行かずに専門学校だったし、あの頃は店と変わりないほど動いていた。
だからか、時間を持て余してしまいがちで体が慣れない。
体は小学生サイズだけど、中身は成人。
なんかの言葉であった気がするが、体もだけど心が記憶してる習慣は早々に変えることは難しい。まさに今これ。
「あー、外はいい天気」
窓の外は快晴で雲ひとつない。代わりにじゃないけど、初日に降りた浮島達が空高く浮いています。
あれは特殊な魔法で普段は浮かせてある飛行場だそうな。
ディシャスのような竜や他の聖獣なんかの騎獣達が下の本広場にどかどか降りたらお互いがぶつかるだろうからと順番待ちするために、エディオスさん達が生まれるずっと昔に設けた施設的な物らしいです。
初日は時間が遅かったからディシャスだけで済んだんだけど、朝や昼間は渋滞することも珍しくないんだって。今も浮島が上や下に動いたりの繰り返しが成されています。ここからじゃ騎獣達の影は見えるけど、なんの騎獣かはよく見えない。大きい影は大体竜らしい。
そう言えば、ディシャスに初日以来会ってないけども、元気にしているかしら?
と僕がぼんやり考えてたのが届いたのだろうか。窓の前に真っ赤な影がいきなり写り込んできた。
「わっ⁉︎……って、ディシャス?」
驚いて腰を引きかけたけど、見覚えのある色合いに僕はもう一度窓の方に顔を向けた。
爬虫類っぽい顔に立派な象牙色の一対の角。はっはと口を開けてピンク色の舌を暑そうにだらんとさせていた。そして何より特徴的な真紅の皮膚にエメラルドグリーンのぱっちりお目々。まごう事なきエディオスさんの騎獣のディシャスだよね?
(て、関心してる場合じゃない!)
なんでディシャスが僕が借りてる部屋の前まで来てるんだ⁉︎
「ディシャス!」
「ぎゅぅるぅ!」
窓の鍵を開けてから扉を引くと、ディシャスが嬉しそうに声を上げて顔を乗り出してきた。
「なんで僕の部屋の前まで……って、わぷ‼︎」
「ぎゅぅるぅるぅ」
わけがわからないと慌てかけた僕にディシャスは大きなピンク色の舌で顔をでろんと舐めてきた。
初日以来のことに始めは驚いたけども、段々とくすぐったくなってきてべろべろとされるがままになっていく。
「ま、待ってって。く、くすぐったいからぁ!」
「ぎゅぅ?」
僕が声を上げたのにどうしたの?と舌をようやく引っ込めてくれた。
顔が唾液でベタベタになってしまったので、ディシャスに待つよう窘めてから洗面所に行って顔を洗ってくる。ディシャスはいい子にして待っててくれていて、僕が待てって言ったままの姿勢でじっとしていた。
「けど、なんでこんなとこに来たのかな?」
幸い窓のすぐ外は大きな木もなく芝生が広がっている場所だったから、ディシャスにぶつかる障害物もないので安全ではあるけども。
僕が呟いてもディシャスは大きなお目々をキラキラ輝かせているだけです。
主人のエディオスさんと違って意思疎通は出来ないからこれは困った。
「……これはエディオスさんに知らせた方がいいかな?」
「ぎゅっ⁉︎」
「ん?」
主人の名前を出すとディシャスがぎくりと言った風に驚いた声を出した。
どうやら、僕が言ってる言葉は理解出来てるみたいだ。
「……ディシャス、エディオスさんに何かしたの?」
「ぎゅうぎゅう」
「えーっと……それはしてない?」
「ぎゅう!」
首の動作だけでなんとなく言いたい事を理解してみる。
横や縦に強く振ったりする感じ、人間のそれとほぼ同じような仕草だったからわからなくもなかった。
「じゃあ、お散歩?」
「ぎゅう……ぎゅう?」
「……もしかして、脱走してきたの?」
「ぎぎゅ⁉︎」
って、ちょいと待ちなさい!
「なんで脱走してきたの⁉︎ 獣舎でお昼寝とか体動かすとか出来るんでしょう?」
初日に見た獣舎の外観だけじゃわからなかったけど、あの獣舎の反対側は巨大な岩壁で囲ってあるグラウンドがあるらしく、騎獣同士が遊んだり戦闘訓練出来る場所としても使われてるそうだ。
エディオスさんは王様だからしょっちゅうはいけないらしいけど、出来るだけ二日にいっぺんくらいは構ってあげてるようにはしていると昨日聞いたばかりで覚えていた。
だと言うのに、なんで主人そっちのけで脱走してるんですかこの竜さんは!
「……ぎゅぅ」
しょぼんと首をすぼめるディシャス。
あんなにもキラキラしていたお顔が一気に風船がしぼんだように沈んでしまったよ。
「……もしかしてだけど、僕に会いたくて来たとか?」
「ぎゅっ、ぎゅぎゅぎゅぅ‼︎」
思いついた言葉をポロっと溢すと、一変してディシャスは顔を上げてお目々をキラキラさせてきた。
だがそれにしたって、
「どうやってここがわかったんだろう?」
初日に獣舎で別れてっきりだし、さっきみたいに顔をベロベロされる以外は特に何もされてはいない。
それともう一つ疑問が。この巨体なのに、どうやってほとんど音も出さずにここまでやってきたのか。
僕だってたまたま窓見てなきゃディシャスの姿にも気付かなかったし。
「ぎゅうぎゅぅ‼︎」
「んー? どし……ってぇ⁉︎」
首を捻って考え事をしていたら、いきなりディシャスの手に抱き上げられました!
逃げようにもがっちりしっかりと痛くない具合に握り締められてましたので無理な具合に。
「ちょっと、なんでこんなことするの⁉︎」
「ぎゅうぅ……」
なんか黙ってとか言われたような?
意味がわからないともがくのをやめてみるが、それを見たディシャスはなんだかニコニコと牙を剥き出しにして笑い出した。
不覚だが可愛いではないか。
ギィシャァアアア!
ひと吠えし出したディシャスはなんだか誇らしげでした。
これからどうなるのと思っていたら、急にディシャスの顔が透け出した。
「え?」
なんだなんだとキョロキョロしてたら、僕の腕なんかも透け出していた。
(今の吠え声で何かしたんですかディシャス君⁉︎)
それがどう言う魔法かもわからずあたふたしていたが、 ディシャスと僕はその場から消え失せてしまっていた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
868
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる