【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第二章 交わる会合

048.竜は多くを語らない(エディオス視点)

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 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆(エディオス視点)







「おい、ゼル。そろそろ離せよっ」

 執務室に向かおうとしている従兄弟に俺は抵抗した。
 すると意外にも、ゼルはすぐに立ち止まって俺のマントを離しやがった。

「……やる気になったのか?」

 相変わらずの冷徹ぶりだが、今はそうじゃないと首を振った。

「獣舎に行くぞ。ディにカティアをあそこに連れてったのを聞きに行く」
「……言うと思ったが」
「お前だって気になってんだろ?」

 なんたって、カティアの御名手であり婚約者だ。
 そこはこんな部下らが往来する廊下で簡単に口に出来ることじゃねぇから言わないでおくがな。
 カティアは一応俺の客人として扱えと上層部には言っておいてある。秘密を知ってんのは、俺ら以外じゃアナの乳母と乳母子くらいだ。
 離宮にいる親父達にはまだ言ってない。言ったら式典とかおっ始めようとすっから時期が来るまでは絶対に言うつもりはない。
 それは一旦置いておくが、問題は俺の相棒のディシャスについてだ。
 俺とゼルは若干駆け足になりながら獣舎に向かう。

(だってよぉ、カティアのピッツァがいつもよりは早く食えるんだぜ?)

 さっさと解決出来るもんは終わらせてぇしな!
 転移を使っても良かったが、あちらこちらでディシャスの二度目の遠吠えを聞いて慌てる奴らも大勢いたはずだ。

「陛下、閣下‼︎」
「っと、アルシャか?」

 俺らを呼び止めたのは、近侍の一人であるアルシャイード。カティアが来た初日に俺が王であることを言いそうになって顔面ぶっ放した奴だ。奴は獣舎に繋がる渡り廊下の手前辺りで俺とゼルを呼び止めてきた。

「先ほども遠吠えがありましたが、あれはもしや」
「あー……十中八九お前の予想通りと思っていい。俺のとこのだ」
「やはり……」
「それとカティアは見つかったし無事だ。他の近習達にも伝えて戻れ」
「はっ。……しかし、上層部の皆様方には?」
「面倒だが、後で適当に識札飛ばすわ」

 王として即位したが、まだ50年足らずの俺じゃあ古株の連中らには頭が上がらないとこもある。
 この間の抜け出しも翌日に一番上の奴が小言混じりに色々しつこく言ってきたしな。王太子の頃とは違い俺はもう国を束ねるもんだとかなんとかお決まり文句をつらつらと並べやがって。
 だが、今回は不可抗力な上に俺が指示を相棒に出したわけではない。
 ディシャスの脱走もあいつがちっこい頃はよくあったし、今日は久々にそれがあったとか適当にしておけばいいだろう。カティアを連れていったとなると変な注目浴びさせちまうからな。

「わかりました。他の者達にはそのように伝えておきます」
「エディオス、識札は俺が飛ばしておこう」
「ん、頼んだ」

 言うなり、ゼルは識札用の紙と羽根ペンを術で呼び出し、何枚かに書き込むと息を吹きかけて宙に舞わせた。
 下手なことは書いてないだろうが、今回のはそこまで緊急性はない。

(面倒だが、この間言ってきた奴だけは最低来るだろうな……)

 識札が宙で形を変えて鳥のような姿をして飛んで行ったことを確認してから、俺らとアルシャイードは別れた。








 ◆◇◆







 グワァーグワァー!
 ギシャァアアア!
 グルルゥ!




「おい、鎮まれ!   ディシャスはもう戻ってきたぞ⁉︎」
「ダメです!   こちらも鳴くのを止めません‼︎」
「これ以上騒ぐなら鎮静の術を行使するしかない‼︎」

 獣舎はやけに騒がしかった。
 ディにつられて脱走を試みようとする連中かと思ったがそうではないらしい。

「……何故、歓喜のような遠吠えが?」
「わかんねぇなぁ?」

 俺とゼルが入り口に来ても獣舎の世話係の奴らは、聖獣やわずかにいる魔獣を取り押さえるのに必死になっていた。
 獣達は暴れると言うよりはゼルが言ったように歓喜の遠吠えを其処彼処で上げてる始末。この時間は昼寝が多いのに大部分の奴らが起きて騒いでるみてぇだ。
 これを俺の騎獣がきっかけで引き起こしたとなると頭が痛い。ゼルも同じように思ったのか眉間のシワを押さえるようにしていた。

「……とにかく、ディのとこ行くか」
「……そうしよう」

 世話係の連中らは俺らに気付く気配がない。
 てか、ほぼ全部の騎獣らがこれだけ騒いでたらてんやわんやになるわな。
 獣舎の壁伝いに俺とゼルは歩き、奥にある竜らの所へ向かう。
 奥に行くごとにうるさいのはすげぇが無視するしかない。

「おい、ディシャス‼︎」

 俺が叫ぶと一時的にだが竜の奴らは吠えるのを止めた。
 世話係の連中らはここには居なかったが、おそらく子竜ネティアの奴らを落ち着かせるために後回しにしてんだろう。
 んでもって、俺の相棒は図々しくも騒がずに自分の領域で寝てやがった。この騒がしい中でよく寝れるよなぁ?
 だが、主人である俺の声を聞けばむくりと首を起こした。

【ーーーー……しゅ、主人】

 契約している俺にしか聴こえない重低音が脳裏に響く。
 柵のそばまで互いに近づくと、慌て具合が声を聞かずとも見てとれる。

「ディ。カティア連れて下に行ったようだな?」
【……カティアとは、誰のことだ?】
「……ああ。まだ言ってなかったか。ちみっこのことだ」
【あれはカティアと言うのか!】

 伝え忘れてたカティアの名を言えば、ディシャスは嬉しそうに翼をばたつかせた。
 200年以上は生きてんのにこう言うとこはほんと幼ねぇよな。
 竜種でも比較的バカでかく育ったディシャスは、獣舎の中でも長的な位置にいる。王の俺の騎獣だからってこともあるだろうが、あの巨体に加えて特上種の証でもある緑柱ベイルの双眸。
 この世界でも稀にしか生れ落ちない、死後その瞳が宝石と化す聖獣は他から非常に敬意を持たれやすい。俺がディシャスの卵を見つけたのは、まだ100年かそこらのガキん時にフィーの治める神域に通ってた頃に偶然見つけたんだがな。
 まあ、今はそれは関係ねぇ。

「エディオス、俺にも繋げろ」
「ああ、わーった」

 後ろにいたゼルにもディシャスの声が通じるよう、軽く肩を叩いて意識が繋がるようにする。

【うっ……セヴィル】

 ゼルがいた事にようやく気付いたディシャスは阿呆だ。
 俺の図体でもそんなに隠れはしねぇし、カティアの名前がわかって浮かれ過ぎだ。ほんとあいつが気に入ってんだな。純金の髪に虹色の瞳っつー稀有な色合い以外に何か惹かれるもんでもあったのだろうか。

「単刀直入に言おう。ディシャス、何故カティアをあの場に連れて行った?」

 ゼルの表情がいつも以上に険しい。
 こりゃ結構怒ってるな。俺に向けられたもんじゃないがびびりそうだ。
 対するディシャスはその気迫にびくびくとしていた。こいつはゼルの事を苦手としている。まだ獣舎じゃなくて俺と城で過ごしてた頃によくイタズラして、ゼルなんかに盛大に雷を落とされたことがトラウマになってっからな。俺もそん時は同罪だって一緒に叱られたが。

【ーーい、言わなくてはならないのか……?】
「当たり前だ。お前の咆哮に城中が騒ぎ出したのも諌めようとは思ったが、それは一旦置いておいてやる」
【ーー主人……】
「俺だって聞きてぇんだから答えろ。じゃねぇと今後カティアに会わせねぇぞ?」
【それは嫌だっ‼︎】
「でけぇっての⁉︎」
「……うるさい」

 脳内と耳に爆音が響いてきたので、俺とゼルは頭を押さえた。
 ったく、その咆哮で周囲の竜どもが余計に騒がしくなったじゃねぇか。幸いにも暴れたりはしてないようだが。

「……さっさと言え。でなければ俺が絶対に会わせない」
【何故セヴィルが決める⁉︎】
「俺があれの御名手だからだ」
【何⁉︎】
「あー、そこは今すっ飛ばすぞ。ディ、なんで下のしょう洞窟にカティア連れて行ったんだ?   それと、あの奥になんで神獣の卵があるのをお前が知ってた?」

 出来るだけ世話係には聞かせられない案件だからさっさと解決させるに限る。

【……カティアが、あの卵を孵してくれると思ったからだ】
「根拠はあんのか?」
【あのような稀有な魔力……我も惹かれた。内に秘められているが、きっとあの呼び声に応えてくれるだろうと】
「「呼び声?」」

 なんだそりゃ?

【ここの獣達も皆知っている。あの卵は古くからずっと自分の主人を求めていた】
「「は?」」

 フィーは自分の爺様からもらったもんでも扱いがわかんなかったとか言ってやがったが。いったいあのちみっこい神獣はなんなんだ?

【カティアを連れてきた頃からだが、あの卵が強く呼び声を上げていた。だから、我はここの獣舎にいる者としてカティアの所へ行ったのだ】
「なんで今日だったんだよ?」
【呼び声が更に強くなったからだ。まさか、本当に孵るとは我も思わなかったが】

 ディシャスも半信半疑だったらしいが、カティアを連れて行ったのは正解だったと頷いた。
 結果はたしかに悪くないが、それはそれ、これはこれだ。
 カティアにはあまり怒らないでやってくれとは言われてるが、けじめはそれなりにしねぇとな。

「ディ、しばらくカティアとは会うの禁止だな」
【⁉︎    何故だ主人‼︎】
「あの卵の為だからって、ここに来て日の浅いあいつを無理に連れてったからだろうが」
「俺も同意する」
「んじゃ、決まりだ」
【主人‼︎】
「そんな長期間じゃねぇから拗ねんな。あとなんで獣舎がこんなに騒がしいかわかるか?」
【……あの卵が孵って主人を見つけられたからだと思う】

 つまり、ゼルが思ったように本当に歓喜の雄叫びなようだ。
 ディ自身は自分の目で見てきたから周囲につられて騒がしくすることはしてないってとこか。

「ん?    識札が来たな?」
「お?」

 ゼルが気配で通達用の識札がこちらに飛んでくるのを察したらしく、俺も振り返った。
 俺らが来たのと同じ方角から、紙で出来た小鳥がパタパタと飛んでくる。
 やがてゼルが指を差し出せば、それは止まり木のようにしてゼルの指の上に停まり、息を吹きかければ鳥の形が崩れて一枚の紙に姿を変えた。

「……もうすぐ準備が整うから食堂に来て欲しいそうだ」
「マジ⁉︎    もう出来たのかよ‼︎」

 たしか半刻はかかるかもって言ってたが。
 けど、腹空かしてたあの神獣の為にと言うかフィーのワガママで術を色々使ったかもしれない。

【食堂?】

 後ろにいたディシャス忘れてたな。
 まあ、反省のためにとどめを刺しておいてやっか。

「あの神獣の為にカティアが飯作ってんだよ。俺らも一緒だがな?」
【ずるいぞ主人‼︎】
「僻むな。いずれはお前にもなんか食わせてやっから。つーか、ここの上のもんとしてこのクソ騒がしいのなんとかしろ」
【うぐ……っ】

 それくらいは朝飯前にしねぇとカティアの美味い飯はくれてやるつもりはない。
 俺と言うか、婚約者のゼルが黙ってないからな。
 ゼルは特に何も言わないでいたが、言わずとも大体は察することは出来る。そこは一応従兄弟だからな?

「……急ぐか?」
「だな。転移使おうぜ」

 俺らが行くまで焼きには入らないだろうが、小腹が減ってるのに変わりないからな。
 首をすくめてるディシャスは放っておいて、俺はゼルが行使する転移の魔法乗って食堂に向かうことにした。
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