【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第二章 交わる会合

067.アズラント将軍-①

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 ◆◇◆








 クラウと一緒にゲストルームで寝た翌日、起きたのは僕が先だった。

「ふゅ、ふゅぅ……」

 くかーっと、よだれは垂れていないけど口を開けて寝息を立てているクラウ。
 生まれてからまだ一日も経っていないのに、あどけない寝顔に胸がほっこりしてくるよ。
 とりあえず、洗面と身支度を整えるのに僕はベッドからそろりと出た。

「今日もピッツァ作りかぁ……」

 それは嬉しいんだけど、どう言うメニューにしようか悩む。
 ファルミアさんもピザ食は転生されてから初めてな感じだけど、日本にいた頃はどんなピッツァ食べてたかを聞いてから考えよう。だって、デリバリーピザを頼まないお家ってきっとなかっただろうから。

「ぶゅ……ふーゅぅ?」
「あ、クラウ起きた?」

 歯磨きしている最中にクラウの寝言が途切れて、疑問形の鳴き声がした。
 洗面所から顔をそのまま出せば、僕がいないことに気づいてキョロキョロしているクラウの姿がベッドにあった。

「クラウー、おはようーこっちだよ?」
「ふゅ!」

 呼べば振り向いて、ピコっと右手を上げた。どうやら、あれが挨拶のつもりらしい。
 僕もつられて空いてる方の手を振ってあげた。

「そうだ。クラウも歯磨きしようか?  おいでー」
「ふゅふゅぅ」

 手招きしたら、クラウは翼を広げてすいーっと僕の方までやってきた。
 手早く歯磨きを終わらせてからもう一個置いてある歯磨きを手に取った。こっちは昨夜も使ったクラウ用。

「はーい。お口開けてー?」
「ふぁーー」

 ちょこっと開いた口に歯磨きを入れてしゃこしゃこと磨いてあげる。
 クラウの歯は人間のようにずらっとはないけど、犬歯が上と下に合計四つ生えていてそれで咀嚼がなんとか出来るような構造になっているらしい。早食いや大食らいなとこはどうにかなんないかなって思うけど。

「はい、終わり。次は顔を……は難しいから濡れタオルで拭いてあげるよ」
「ふゅ」

 どう考えたって、ちみっちゃい手で自分の顔を洗えそうにないもの。タオルを濡らしてからポンポンと顔を拭いてやった。

「ふゅぅ」
「気持ち良かった?」
「ふゅ」

 じゃあ、僕が着替えたら食堂に行きましょう。
 ただ、先にマリウスさん達にはお昼のこと言っとかないとね。急いで青いのじゃない普段着に着替えてクラウを抱っこしたら部屋から出た。

「朝ご飯なんだろうねぇ?」
「ふゅ」

 人数も増えたけど、今日は一体何かな?
 気分的にはオムレツ食べたいな、チーズたっぷりの。
 肥るかもって思われるかもだけど、今は気にしなくていいと自分に言い聞かせてます。元の体に戻ったら気をつけるけど。
 そして食堂手前の十字路に差し掛かったら、

「うわっぷ⁉︎」
「ん?   お、すまない」

 大きい何かにぶつかってしまい、衝撃で後ろに転がりそうになったけどおっきな手に腕を掴まれたので事なきを得ました。
 だけど、無茶んこしっぶいいいお声ですね?
 一瞬窮奇きゅうきさん?を思い浮かべたけど、もっと柔らかい声質だったから違うと思った。
 四凶しきょうさん達の字は昨夜ファルミアさんに日記の空きページに書いてもらったからわかったよ?   饕餮とうてつさんと檮杌とうこつさんの漢字は難し過ぎてすぐには覚えられなかったけどね。
 顔を上げれば、目に入ったのは顎にある十字の傷跡でした。

「おい、大丈夫か?」

 再び聞こえてきたしっぶいお声。
 それにはっと我に返って更に上を向けば、琥珀色のような瞳とぶつかりました。

(うわ……)

 窮奇きゅうきさん張りのイケメンさんでした。
 精悍なお顔には所々白い傷跡が目立ってはいたけどね。だけど、窮奇きゅうきさんの無表情とは違って本当に僕の怪我の安否を心配してくれてるような表情だった。
 それと髪がエディオスさんの瞳より濃い紫なのは驚き、無茶苦茶配色再び!ってこっそり思った。

「え、あ、す、すみません!   前も見ずに」
「あ、いや。あの角ならば死角になるから仕方ねぇよ。怪我はないか?」
「大丈夫です」
「ふゅ?」

 腕を掴まれたままのを離してもらい、僕もだけどお兄さんも立ち上がった。

「え」

 お顔立ちもだけど、背丈も窮奇きゅうきさん並みじゃないですか?   
 うーんうーんと首を上げてもちみっちゃい今の身長じゃ腰上までしか見えない。

「ん?   ああ、俺のこの背丈か?   すまんな。お前さんには無理あったな」

 と言って、お兄さんが腰を落として僕くらいの目線に合わせてくれた。

「んで、なんでお前さんみたいな幼子がこんなとこで迷子になってるんだ?   しかも、こんな朝っぱらから」
「はい?」

 いや、そう言われるのも無理はない。
 もう一週間くらいこのお城で過ごしてるけど、お会い出来た人なんてエディオスさん達以外だと上層調理場のコックさんや給仕さん達くらいだ。
 他の幹部クラス的な家臣さん達や宮仕えされてるような人達にもコロネさんとサシャさんくらい。
 なので、僕の今の8歳児より上くらいの年上の人には会ったことすらなかった。
 迷子って勘違いされるのは無理もないけど、正直に言って信じてくれるだろうか?
 セヴィルさんの婚約者じゃなくて、お城の客人として生活してるって方ね?

「ん、いや待てよ?」

 僕が言うのを躊躇っていたら、急にお兄さんが顎に手を添えて僕をじーっと見つめてきた。
 な、なんだろうとクラウを抱っこしている手をきゅっと強くして待てば、お兄さんは時々首を捻りながら何かを引き出そうとしていた。

「ふゅ?」

 クラウもわからないでいるが、不安がってる様子はない。
 やがて、お兄さんなりに答えにたどり着いたのか手をぽんっと叩いた。

「あー……もしかしてだが、俺が遠征訓練に行っている間にフィーと来たって料理人がお前さんじゃあないよな?」
「フィーさんをご存知なんですか?」

 あの神様を愛称呼びでそんなにも親しく呼べるってことは、おそらくこのお兄さん相当高位の人だろう。
 僕がフィーさんのことを聞けば、お兄さん何故か目を丸くされちゃったけれど。

「……当てずっぽうで言ったが、マジか?」
「あ、はい」
「ふゅふゅぅ」
「……それは聖獣か?」
「え、えっと、僕の守護獣になるクラウって言います」
「ふゅ!」

 よろしくねーみたいにクラウは右手を上げて翼をピコピコさせた。
 ただ、お兄さんまだ現状をうまく飲み込めてないのかお目々まん丸だけども。

「お嬢ちゃんじゃなくて、お前さん坊主か?」
「すみません。一人称を癖で僕と言うだけで女です」

 素早く訂正させていただきます。
 やっぱり最初くらいは公的に『私』って使おうかな?    後々説明するのも面倒だけども。

「ああ、だよな。エディからは腕の立つ女だって聞いてたから」

 王様のエディオスさんまで愛称呼び出来るなんて、お兄さんどう言うお人でしょうか?

「ま、それならこの道を通ってもなんらおかしくねぇな。大方、アナの隣にあるゲストルームで生活しているんだろう?」
「お世話になってます」
「まあ、俺の勘違いだったからいいって。っと、お互い自己紹介まだだったな?」
「あ。僕はカティア=クロノ=ゼヴィアークと言います」
「カティアか?   俺はサイノス。サイノス=ガーディナ=アズラントってんだ。一応この国の将軍を務めさせてもらってるぜ」
「将軍さん?」

 最初の頃エディオスさんをそう勘違いしたけど、サイノスさんの方が断然合っている。顔の傷跡はどうして出来たかわからないけど、精悍な顔立ちによくお似合いですよ。

「しっかし、カティアの目の色もだが髪の色もすげぇなぁ。お前さん神霊オルファなのか?」
「なんで皆さん僕を神格化されるんですか……」

 体の一部の色だけでどうしてそうなっちゃうの?

「違うのか?  悪かったな」
「あ、いえ」
「けど、聞いてた雰囲気からじゃ最低フィーくらいの見た目かと思ってたが……その歳で料理人か?   お前さん凄いな」
「出来る料理は限られてますけど」

 主にピッツァや日本食くらいですね。
 でも、褒められて悪い気はしないのでえへへって笑った。

「サイノスさんも朝ご飯ですか?」
「ああ、俺はほとんど中層に行ってるが今日くらいは来いってエディに言われててな」
「でも、食堂通り過ぎてますよね?」

 だってここ、食堂奥の廊下だもの。
 すると、サイノスさんはおっきくため息を吐いた。

「ゼルを起こしに行く途中だ」
「セヴィルさんを?」
「ああ、あの低血圧野郎を毎回起こしに行くのはほとんど俺の仕事なんでな」
「あはは……」

 この一週間、セヴィルさんが僕らより先に起きてくることは一度とてなかった。
 低血圧と寝起きの悪さが酷くて、なかなか起きられないのが彼の欠点だそうな。

「遠征訓練中くらいはしょーがねぇが、寝起きが最悪だからエディには無理だし曲がりなりにもあいつは王だからな。俺の方が年上とは言え、今は一応同期の俺が役割を任されてんだ」
「エディオスさん達よりも?」
「ああ、っても50程度だがな」

 ってことは、エディオスさん達の345を足したら395歳。あと五年で400歳か。

「ところで、カティア。お前さん早いな?   普通まだ寝てる時間だろ?」
「え……っと、マリウスさん達にお昼ご飯を僕が作ることお伝えしていなかったなと思いまして」

 ごく普通の時間だと思うけど?

「昼飯?   ってことは、ユティがあれだけ騒いでたのをお前さんが作るってことか?」
「ユティリウスさんが?」

 いつ知ったのだろうか。お出迎えの時にサイノスさんも知ったのかな?
 頷けば、彼は関心されたかのように口笛を吹いた。

「へぇ。フィーからもあんま教えてもらってねぇが、何を作るんだ?」
「ピッツァって言う、パンの一種ですよ」
「パン?」
「お惣菜パンのように考えてもらえれば。丸く広げた生地にソースや具材を乗せて石窯でちょっとだけ焼くんです」
「……お前さん本当に80歳程度か?   なんかえらく説明慣れしてんな」

 それにはどう答えていいものやら。
 見た目8歳児が中身成人女性だと言うのは絶対信じてもらえないと思う。フィーさんやエディオスさん達からは僕の詳細はどうやら伝わっていないみたいなので、笑って誤魔化します。

「あら、カティアさんと……サイお兄様?」
「お、アナか?」
「アナさん」

 救いの女神がやって来られました!
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