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第六章 実り多き秋の騒動
196.副将軍と宰相
しおりを挟む(え、エディオスさんより怖っ⁉︎)
前に、フィーさんとティラミス差し入れに行った時の不機嫌さも充分に怖かったが、このお二人はガタイも段違いに凄いし顔の彫りも深いから……もっと怖いです!
怖過ぎて思わずジェイルさんのマントにしがみついていると、彼の手袋に包まれた手が優しく僕に髪を撫でてくれた。
「幼子の前で覇気を露わにするな、二人とも」
「あ」
「……悪りぃ」
ジェイルさんの言葉に、お二人ともすぐに怒気を引っ込めて済まなさそうに髪を掻き出した。
いつもの調子に戻ってくれたのでちょっとほっと出来た。
「つか、それでゼルが見当たらなかったのか?」
「う?」
「あいつ、適当にやるくせして順位結構上なんだよ。俺達の方が早いのがおかしいと思って探してたんだ」
「カティアに合わせるにしたって遅いと思ってな?」
その籠は運良く落とさずに僕の肩にかけられてるが、これを今持ってっても最下位なのは当然。
カイツさんのことがなければ上位に割り込めただろうけど、それは今後悔したって仕方がない。
「ご心配おかけしてすみませんでした」
「カティアが謝ることねぇよ」
「悪いのは、魔法省のそいつだろ? ジェイル、なんで居ないんだ?」
「カティア嬢が事を荒げたくないと申されてな。俺はそのご指示に従ったまでだ。だが、処罰については任されたのでこの後考えるが」
「あー、ゼルにやらせたらそいつの解雇だけですまねぇしな?」
普段のお仕事を見てないから、セヴィルさんがどう対応するのか予想しにくい。
「きっかけはなんであれ、悪いのは僕でしょうし」
「どーゆーことだ?」
とりあえずは、簡単に事情説明をするとサイノスさんもだがイシャールさんも苦いお顔になった。
「まさか、強硬手段に出るとはな……」
「だが、あれはそこそこ気弱だったな。家の商売の衰退に追い詰められて、行動を起こしたと見える」
「そーゆー奴こそ、時に怖ぇんだよな……」
怖さだけならイシャールさん達の方が怖かったとは言わないでおこう。
「んで、詫びも兼ねて代替案渡すってやり過ぎじゃねぇか?」
「お城の中だけならまだしも、外に持ち出されてそうなっちゃったので」
僕のわがままなのはわかってる。
繰り返されて、また同じ事態になって対処してたらきりが無いのも。
だから、これっきりにしようとは思ってる。
それを言えば、三人とも大きなため息を吐いた。
「これっきりだぞ? もし次そうなった時は俺とかサイノスを通せ。エディやゼルじゃやり過ぎになるしな」
「お前さんも言えた口か?」
「あの二人よかマシだろ」
「まぁな?」
それについては、もう突っ込むまい。
「ふゅふゅぅ!」
「く、クー⁉︎」
いきなりクラウが上から落ちてきて、僕の頭に飛びついてきた。
剥がそうにもすっごい心配させっちゃったからか、ものすっごい力でぎゅうぎゅう抱きついてくる。
「ふゅ、ふゅぅ!」
「く、クラウ、ちょっと苦しいっ」
「無理だろ。よっぽど心配させたんなら」
「……噂には聞いていたがこれがカティア嬢の守護獣?」
「ちんまいのに滅茶苦茶食うんだぜ?」
しかし、クラウがここにいると言うことはもしかして?
「カティア⁉︎……イシャール達はわかるが、何故ジェイルまで?」
クラウで見えにくいが、声から急いで来てくれたセヴィルさんがこっちまでやってきてくれたようだ。
そのおかげで、ちょっとゆるまったクラウの手を離してすぽんと顔から剥がした。
「今回の手柄はこいつだぜ? 俺らは、ジェイルが送ってきたとこに遭遇しただけだ」
「……その割に、カティアを連れ出した輩が見当たらぬが」
「カティアが事荒げたくないとかで返したんだと。処罰についてはジェイルがやっから、お前さんは今回口出しするなよ?」
「何故だ!」
「……その状態じゃいつもの冷徹宰相みてぇに判断出来んだろ」
イシャールさんに隠されて見えないが、きっとセヴィルさんもさっきのイシャールさん達のように怖いお顔をされてるんだろう。
けど、見なきゃ意味がないので僕は無理に動いて彼の前に出た。
「ご、ご心配をおかけしました!」
「……カティア」
クラウを抱っこしたままだけど、出来る範囲で深く腰を折って謝罪した。
下手すると地面にごっちんこしそうだったが、後ろから強い力で引っ張られたからそれは免れた。
「う?」
「謝んのはいいが、ちょっとやり過ぎだろ?」
「イシャールさん」
ごっちんこしないで済んだのは、イシャールさんが襟を引っ張ってくれたお陰だったみたい。
ため息の音が前から聞こえたので振り向けば、セヴィルさんが少し安心した顔で息を吐いていた。
「無事で何よりだったが、どこも怪我はしてないか?」
「大丈夫です」
「ふゅ、ふゅぅ!」
クラウが何故か服の上からぽんぽん叩いてくるが、怪我のチェックのつもりだろうか?
「心配かけてごめんね?」
「ふゅ」
「しかし、最初向かっていた魔法省から急にこちらへクラウが向かうから急いだのだが……ジェイルが対処してくれたのか?」
「はい。その近くの倉庫の一室の前を通った時に、偶然カティア嬢と件の輩の声が聞こえまして」
「……処罰はどうする」
「カティア嬢が仰ったこともありますから、最低減給処分と謹慎三ヶ月でしょうか」
「甘過ぎるが……カティア、何があった?」
「え、えーと」
3度目の説明になりますが、同じ事をセヴィルさんにも説明しました。
「エディオスから少し聞いてはいたが……」
「まあ、今回切りだ。カティアのやりたいようにさせろよ」
「俺としては、解雇処分でも生温いが」
「それ絶対やめとけ! カティアがずっと引きずるぞ
⁉︎」
「っ!」
「あ、あはは……」
実際引きずりそうなので、そこは勘弁して欲しかった。
カイツさんを辞めさせるのは簡単でも、その後どうなるかわからない。
落ち込んで、実家も手伝えなかったり、下手すると最悪の事態にも。
日本よりも忠誠心についてはこちらの世界の方が重いから、そこは避けたかった。
「詳しい処分が決まり次第、閣下にもお伝えします。一応、ハインツ殿には識札を送りましたので既に何かしらされてるとは思いますが」
「……お前さん、えぐいな?」
「将軍とて訓練に余念がないのと同じ。俺も出来る範囲で行動してるだけだ」
「あっそ」
一応部下さんらしいのに、ジェイルさんとサイノスさんって随分気兼ねない付き合いをされてるみたい。
イシャールさんもだったけど、セヴィルさんは宰相さんだから位がもっと上のせい?
「イシャールさん」
「あ?」
ちょっと手招きしてイシャールさんに屈んでもらった。
「ジェイルさんって、イシャールさんやサイノスさんとお歳が変わらないんですか?」
「あー、見た目じゃ下に見られるが、そうだ。よくゼルとかくらいに間違われるが」
先に聞かなくて正解だった。
童顔?若作り?って単語は絶対禁句だと頭の隅に置いておいた。
「おい、そろそろ戻ろうぜ。エディ達も不審がってるだろうし」
「お、そうだな」
会場に戻ることになったので、ジェイルさんとはここでお別れだ。
「カティア、ジェイルにもし礼を考えてんならとびっきりの甘いものにしとけ」
「う?」
ちょうど考えてたら、サイノスさんがそう言ってくれた。
「ゼルと真逆であいつは極度の甘党なんだよ。控えめも嫌いじゃねぇがな?」
「あれの食事風景は、あまり見たくない」
「カティアの作るもん食えるようになっただけでもいい方だ」
どこまで甘党なんだと思い浮かべても、大体しか予想出来ない。
「ちなみに、お好きなのは?」
「最近気に入りなのだと……薄焼きケーキの山積みにクリームと蜂蜜たっぷりかけるのだな?」
大食いな上に甘党さんなんだ。
薄焼きケーキはホットケーキとほとんど同じだから、それは想像しやすい。
「うーん、じゃあ代替案を試食してもらうのはいいでしょうか?」
「つーと?」
「例のティラミスのちょっと改良版です!」
「……あれを?」
まったく同じようで、実は違うと分かればカイツさんがどう反応するか楽しみだ。
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