吸血鬼美少女アバターのままゲームからログアウトできません

こま猫

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第1話 ログアウトできる?

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 目が覚めたら白地に派手な銀色の模様の天井があった。俺の部屋は木目の天井だから、ここは俺の知らない場所らしい。
 夢かな、と思いながらベッドで身体を転がし、部屋の中を見回す。
 壁一面の古めかしい本棚、巨大な窓。窓の外には暗闇があって、星が瞬いている。窓際に飾ってある、これもまた古めかしい巨大な望遠鏡。売り飛ばしたら高価なものなんだろうなあ、と思いつつその横にある巨大な地球儀みたいなものを見る。
 望遠鏡も地球儀も、俺の身長よりでかい。
 ふかふかのでかい布張りのソファに、これもまたでかい木のテーブル。
 何だこりゃ、とまた思ったが、「ああ夢だ」と思って目を閉じる。布団の中は心地よくて、まどろむこの時間が至福だと感じた。
 しかし。
 目を閉じる前に見えた、俺の手の白さを思い出して我に返る。
 今の、女の手じゃなかったか?
 そっと目を開けると、布団から出ている俺の手は、やっぱり白くて華奢。小さな爪はちょっと長くて、マニキュアを塗っているらしく艶やかなピンク色をしている。
 指先を動かしてみると、とても滑らかに動いて、肌の擦れる感触も生々しい。
 そう、まるで現実のように。

 随分とリアルな夢だな、と俺は眉を顰め、そこで上半身をベッドから起こした。
 静かな部屋だった。
 カーテンのない窓の外からは、何の音も聞こえない。車の走る音も、虫の鳴き声もない。
 ベッドから降りて、広い部屋を見回した。
 やっぱり、現実にはあり得ないような部屋だ。少なくとも日本の建物じゃない。海外のセレブだったら、こんな凄い家具を置けるんだろうか、と思えるほど何もかもが高価そうなものばかり。
 巨大なベッドは天蓋付き、足元はふかふかの絨毯。
 俺は首を傾げながら、その部屋にある扉に近づいて手を触れた。
 ぎい、と音が響く。まるで、何かの効果音のようなドアの軋み。それでいて、聞き覚えがあった。

 ああ、俺、ゲームの夢を見てるんだ。
 そこでやっと、俺はそう思い当たった。
 開けた扉の先には、綺麗に手入れされた玄関先。一面に広がる花壇、その先に畑がある。
 オンラインゲームというか、俺がよくログインしている仮想都市コミュニティゲームの世界だ。
 そして、ここは俺の家。ホーム画面にある、俺が設定している俺の家なのだ。家具は全部、ゲーム内のガチャでゲットしたものばかりだ。だから、現実味がないほど豪華なのも頷ける。ユーザーがガチャを回せば回すほど、豪華なホームが持てるというわけだ。

 ――しかし。

「リアルな夢だな」
 俺は、花壇に近づいて咲いているその花に触れた。
 確か、俺が植えたのはガーベラとかいう種だったと思う。それが、時間が過ぎると育ち、咲く。それを収穫し、合成してアイテムにしたり、売って仮想都市の中で使えるコインに変換したりする。
 暗闇の中でも、赤いガーベラは花壇一面を覆いつくしているのが見えたし、瑞々しくてとても綺麗だと思った。

 それと、今、俺が呟いた時の声。
 間違いなく、女の子の声だった。

「鏡あったっけ」
 そう呟きながら、また自分の家の中に戻る。ドアが開く効果音の後、見た目は小さな家なのに実際にはそれ以上に広い部屋が現れる。
 そして、部屋の奥の壁に、巨大な姿見があるのに気づき、そっと近寄った。
「おお、美少女」
 そう言いながら、つい笑ってしまう。
 目の前の鏡に映し出されているのは、身長百六十センチくらいの美少女である。黒くて長い髪の毛はツインテールにしてあり、釣り目で睫毛の長い目は淡いピンク色。白すぎる肌に、すっと通った鼻筋と完璧な形の赤い唇。
 その唇に触れて、そっと唇を開くと長い八重歯……いや、犬歯があった。
 基本的には白と黒がメインのゴスロリファッション。黒いレースのブラウスに黒いベスト、ミニスカートには白いレースのリボンというのだろうか、それが縫い付けられていてボリュームがある。
 黒いストッキングはちょっと粗目の網目模様が入っていて、ロングブーツは妙にヒールが高い。
 リボンとレースの飾りが多すぎだろ、と思うが……。

 あれ、これって闘技場専用のアバターじゃないか、と思った時だ。

 こんこん、とドアがノックされた。
 すると、急に目の前にゲームの世界で現れるメッセージボックスのウィンドウが開いた。

『カオルさんがきています。開けますか?』

「カオル……」
 俺はそう首を傾げつつも、ウィンドウの中にある『はい』ボタンを押した。その途端、また例の効果音チックなドアの軋む音が響き、見覚えのあるアバターが飛び込んできた。
「アキラ、アキラ!」
 そのアバター――リア友である新庄薫が叫んだ。「お前、ここからログアウトできるか!?」
「はあ?」
 俺は眉を顰めつつ、動きをとめて考える。何てリアルな夢だ。っていうか、カオルのアバター、可愛いんだよな。猫型の獣人、しかも幼女アバターである。
 銀色のトラ猫。ふわふわの耳、大きな銀色の瞳。猫獣人とはいっても、本当に部分的で人間に近い感じ。小さな唇に細身ではあるけれどしなやかな筋肉を持った身体。両手は肘の辺りから指先まで毛皮に覆われていて、長くて鋭い爪が伸びている。胸のあたりだけを隠すような白いシャツと、ミニのキュロットスカート、腰には革のベルトに小ぶりの短剣。
 キュロットスカートの裾からは、健康そうな太ももと膝から下が毛皮に覆われているのが見える。そして、酷く簡素なサンダルみたいな靴。
「リアルな夢だな」
 俺がぽつりと呟くと、いきなり肩を掴まれて揺さぶられた。
「夢じゃなかったらどうするんだ! さっきからログアウトボタン探してるけどないんだよ! ヘッドセットはどこだ!? コントローラーはどこだよ!?」
 そう叫んだカオルのアバターは、長い尻尾がついている。その尻尾は、まるで実際に生きているかのように揺れ、何かに警戒しているように膨らんでいた。
「夢なんだからヘッドセットもないだろ」
 そう言いながら、俺はカオルの身体を押しやった。

 それは酷くリアルな感触だった。
 実際のゲームでは感じられない体温が伝わってきたし、何と言うか……夢とは思えないくらいはっきりとしていた。
 明晰夢というやつだろうか、とも思ったが、何か違うような気もする。

 すると、そこにまたドアが叩かれる音が響いた。

『サクラさんがきています。開けますか?』

「サクラ?」
 俺はそこで眉間に皺を寄せた。何だかどんどん、この世界が夢から遠ざかっているような気がした。
 そして、また『はい』ボタンを選ぶと、ドアが開いて見覚えのあるアバターが入ってきた。
 高身長でイケメン。黒くて短いサラサラの髪、鋭くて形のいい涼やかな目元、整った顔立ちは俳優とかモデルとかにいそうな感じ。細マッチョ、黒いロングコートに黒いスラックス、白いシャツ。ゲームの世界で使う大剣を背中に背負い、ロングコートの下には黒い革のガンホルダーとグリップエンド……銃の台尻が覗いているのが解る。
 魔人アバターのサクラ。

「よう、サクラ。ゲームなのにリアルだな」
 俺がそう言いながら右手を上げると、サクラと呼ばれたイケメンは眉根を寄せて口を開いた。
「お兄ちゃん、ログアウトできる?」
 イケメンに似合う、渋い声。有名声優のボイスで設定しているその声で、『お兄ちゃん』と呼ばれるのはいくら慣れているとはいえ、やっぱり微妙な感じがする。
 それに、カオルに続いてサクラ――俺の妹である園崎咲良がそう言ったことで、俺は少しだけ不安になった。その声が奇妙なまでに真剣に聞こえたからだ。
「ログアウトできるかって……これは夢だろ?」
「夢じゃないよ」
「夢じゃないって!」
 サクラとカオルの声が重なって響いて、俺は右手を「まさか」と軽く振りながら考える。
 だって、これが夢じゃないってあり得ない。
 ゲームの世界からログアウトできないって、それ、どんなアニメの話?

「お兄ちゃん、昨日の闘技場イベントの後の記憶ある?」
 サクラがそう言って、俺は目の前のイケメンをじっと見つめる羽目になる。
 闘技場イベント。
 そうだ。
 昨夜は闘技場イベントがあったから、俺たちはこのゲームにログインしたんだった。
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