吸血鬼美少女アバターのままゲームからログアウトできません

こま猫

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第2話 女アバターがいいんだよ

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 発端はこうである。

 ぴろん、とスマホが鳴った。
『マチルダにアクセスしてる? 告知、見てくれ』
 机の上に置いてあったスマホ画面の中に、友人のカオルからそんなメッセージが届く。了解、という意味のスタンプを返してから、俺は随分前から登録しているオンラインゲームにログインした。
 夕食の後、パソコンで色々なサイトを見回っていたから、カオルが言っているだろう告知を確認するまでほんの数分だった。

 マチルダ・シティ・オンライン。
 最近、十周年を迎えたソーシャルゲームである。
 いかにもゲームサイトらしい賑やかな色彩のトップページにいくと、『十周年記念イベントが続々!』という見出しがあって、ガチャチケットプレゼント! だの、期間限定アバター発売中! だのが並んでいる中、明らかにこれだろうと思われるものがあった。
『闘技場イベント開催! ランキング上位入賞者にはA5等級・黒毛和牛焼肉セット一キロプレゼント!』
「おおう……」
 間違いなくこれだ。
 よくよく見てみれば、ランキング入りの報酬は焼肉セット以外にもなかなかいい感じなのだ。レアアイテムが出やすいゴールドチケットが十枚とか、さらにその上をいく、SSSレア確定プラチナチケット一枚、とか、イベント限定必殺技プレゼント、とか。

 俺がパソコン画面に見入っていると、俺の部屋のドアがノックされて返事をする前に開かれた。
「お兄ちゃん、カオル君から連絡きた?」
 ドアから顔を覗かせたのは、俺の妹である園崎咲良。サクラは父親に似て、しゅっとした顔立ちの……どちらかと言えば美少女寄りの高校三年生である。痩せ型ではあるがそこそこ胸があって、お兄ちゃん、嬉しい。そんなことを言ったら殴られるから言えないけれど、見てる分には夢がある。
 お風呂から上がって、後は寝るだけ、という彼女は青色のパジャマ姿だった。サクラは俺の背後に立って、パソコン画面を覗き込み、小さく笑う。
「やっぱり連絡あったんだ? そうそう、これ」
「久しぶりの大盤振る舞いだな。やっぱり十周年だからか」
 俺はそう言いながら笑い、右手はパソコンのマウスを操作する。そして、自分のホーム画面にアクセスした。

 ホーム画面は、ゲームの中の自分の部屋である。
 ガチャでゲットした家具に囲まれた、広々としたスペース。
 大きな窓、巨大な望遠鏡と地球儀、壁一面の本棚、赤い絨毯に重厚なソファとテーブル。その部屋の中に、俺の設定しているアバターが立っている。
 アバターとは、ゲームの中の自分の分身。顔から体つきから、ヘアスタイルも服装も自分の思い通りに設定できる。大抵のユーザーは、現実の自分の姿からかけ離れた分身を作るだろう。イケメンだったり美少女だったり。自分の理想をそこに反映させてキャラメイキングするものだ。

 ――女アバターがいいんだよ。

 そう言ってきたのは、カオルだった。

 俺がアクセスしているこのゲームは、基本的に交流がメインである。自分が作成したアバターで、マチルダ・シティと呼ばれる街を歩き回り、見知らぬ誰かと会話――チャットを交わす場所。
 ちょっと前に流行ったのだ。
 こういうサイトで、出会いを求めるやつ。
 で、ゲーム内で出会った男女が会話を重ねるうち、いつの間にかリアルの世界でも会うようになって、恋人同士になったりとか。もちろん、問題となった事件もあった。若い女の子が呼び出されて、相手の男性に乱暴されたりとかいう事件。
 だから、ゲーム運営会社も色々と注意喚起のお知らせを出している。
『電話番号やメールアドレスなど、個人情報を教えないようにしましょう』とか、『迷惑な会話や暴言は駄目』とか。
 何にせよ、深入りは危険だということだ。
 とはいえ、女性アバターでゲーム内を動いていると、何かと優しくしてくれる男アバターがいるのも事実だった。

 ――どうせ登録するなら女アバターにしておけよ。運がよければ、誰かが余ったアイテムをプレゼントしてくれる。

 そう言ってきたカオルも、可愛らしい女の子のアバターでそのゲームに登録していた。
 カオルは完全なる無課金者である。だから、そういうのもゲームを楽しむ手管の一つなんだろう。
 やっぱり、ゲーム運営会社としては、ユーザーに課金させてなんぼ、という感じがある。実際、このマチルダ・シティも例外ではなく、色々なガチャだったり課金アイテムの宣伝に余念がない。
 男の悲しいサガなのだろうか、女の子と出会いを求める連中は、そういったガチャを回して余ったアイテムを、気に入った女アバターの子にプレゼントすることが多々ある。それをきっかけに仲良くなろうという、男の下心が丸見えだ。
 カオルはその辺り上手くやっているようで、男連中からプレゼントをもらいながらも必要以上に仲良くならないというテクニックを駆使して、随分とアイテムボックスの中を潤したようだった。
 うん、俺には真似できない。交流とか面倒くさいし、最初は頑張ったけど心が折れて今は完全に鎖国状態となっていた。

 だから結局、バイトで稼いだ金を使ったりして、そこそこアイテムボックスの中を埋めてきた俺である。
 それに俺、結構ガチャ運が強いのだ。
 無料ガチャでもそれなりにいいアイテムが出やすいから、微課金でもかなり楽しめている。カオルいわく、引き強すぎ! らしい。

「今回の闘技場イベント、アバターの制限はないんだよ」
 俺の頭上で、サクラが意味深に言う。
「制限ないのか? じゃあ、前にゲットしたSSSアバター使えるな」
 俺はそう返しながら、『闘技場』ページにアクセスする。

 マチルダ・シティ・オンラインは、そのゲーム内に色々なミニゲームを置いてある。
 五分で遊べるようなカードゲームとかタイピングゲームとか、ゲームが得意ではない人間でもちょっと遊べるような簡単なやつ。
 マチルダは正式リリースした当初、それほどゲーム内容にはこだわっていなかったんだろう。交流がメインでゲームはおまけ、みたいなノリがあった。
 でも年々、他社のアプリゲームからの移植もあったり、コラボゲームがあったり、長く遊べるものも増えてきた。
 その中でも、『闘技場』というのがマチルダのメインゲームになるだろう。

 いわゆる基本料無料の格闘ゲームである。マチルダの中でも、結構気合が入っているようで、ユーザーがガチャを回したくなるのがよく解るシステム。
 昔ながらのゲームシステムではあるけれど、ここでは闘技場専用のアバターが必要となる。
 毎日一回無料で回せるガチャで、それなりに遊べたりする。
 まず、メインとなる職業アバターをゲットする。格闘家だったり、侍だったり、ガンマンだったり、騎士だったり、世界観は色々、使える武器も色々。
 そして、必殺技をオプションで付けることができる。これも、ガチャでゲットできる。威力が弱いながらも短時間に複数回発動できる技とか、威力大だが発動できるまでチャージ時間が長い、とか。オプションでつけられる技は、最高で十個まで。その組み合わせで、対戦するわけだ。

 だが、そういった強いアバターを持っていない初心者でも楽しめるように、闘技場のイベントは使うアバターを制限していることもある。
 つまり、俺が過去にゲットしている『吸血鬼少女』のSSSレアは出番がないこともあった。

「わたし、魔人で出るよ。お兄ちゃんは吸血鬼を使うよね?」
 そう言ってきたサクラは、いつもと同じでクールな口調ながらも浮かれている様子が伝わってくる。
「そうだな。お前のアバター、何かいい技ゲットした?」
「火を吐くドラゴンが召喚できるようになった」
「なんじゃそりゃ」
「わたし無双。わたしチート」
 自慢げに胸を張る彼女がゲットしたアバターもまた、SSSレアである。
 というか、サクラはアバターが男性なのだ。出会いが目的じゃないから、男設定の方が気楽、らしい。
 そうして妹がゲットしたのが、魔人アバター。ちょっと、他メーカーの有名なゲームキャラクターを彷彿とさせる、スタイリッシュなイケメン。男でも惚れてしまいそうな、強いキャラ。

 期間限定モンスターガチャ、とやらを回して手に入れたアバターなのだが、そのガチャが出た時にちょっとだけ、『壊れ性能ばかり』と話題になったものだ。排出されるアバターが、とんでもなく強いものばかりであったから。
 必殺技ガチャの内容もまた、強いものが一気に増えた。モンスターアバターでしか使えない必殺技もあって、サクラが言っているドラゴン召喚とやらもきっと、そうなのだろう。

「また、必殺技ガチャが更新してるからさ、お兄ちゃんもやってみなよ。ガチャチケット、ためてるんでしょ?」
「ああ、そうだなー」
 俺は自分のアイテムボックスを確認して頷いた。このゲーム、ログインボーナスがもらえるんだが、一か月毎日アクセスしていると、ガチャチケットがそれなりにたまるようになっている。
 ガチャチケットにも種類があって、ブロンズ、シルバー、ゴールドとあり、ゴールドが一番レアアイテムが出やすい。課金チケットであるプラチナチケットは、ログインボーナスではもらえない。
 しかし、しばらくガチャを回していなかったから、自分で思っていなかったほど、無料配布チケットが溜まっていたようだった。

「ねえ、お兄ちゃん」
 サクラが俺の肩に手を置いて、意味深な表情で俺の顔を覗き込んできた。こういう時の彼女の考えていることは、手に取るように解る。
 でも、一応、訊いておく。
「何だ?」
「ガチャ画面、動画化して配信していい?」
 やっぱりな、と思いつつ俺は頷いた。
「あー、好きにしろ」
「やった!」
 浮かれた様子で俺に背後から抱き着いてきた妹。しかし、お前は気にした方がいいと思うぞ? いくら兄妹とはいえ――抱き着いたせいで、俺の背中にその柔らかい胸が当たっています。
 お兄ちゃん、ちょっと嬉しい。
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