吸血鬼美少女アバターのままゲームからログアウトできません

こま猫

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第6話 第一村人

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「もう一回、ログインした、と思う」
 俺はそう言いながら、自分の部屋のソファに腰を下ろして頭を抱え込んだ。ソファの柔らかさも、とても作り物とは思えないくらいリアルに伝わってくる。
 何だこれ、どうなってる?
 サクラもカオルも、空いているソファに座って眉間に皺を寄せ、首を傾げて見せた。
「多分、わたしもそう。お風呂の後にログインして、それから記憶がないの」
 サクラがそう言うと、隣に座ったカオルは不満そうに口を引き結んだ後、目の前のテーブルをばしばしと叩いた。
「闘技場の結果はどうなったんだよ? 肉は?」
「肉はどこかに置いとけ」
 俺は顔を顰めつつもそう言ってから、もう一度目の前に手を伸ばした。ほんの少し考えるだけで、そこにVRヘッドセットを使っている時と同じような光景が広がった。
 ホームやマップのアイコン、アイテムボックス、日記、ガチャ。
「夢とは思えないんだよ」
 サクラが何故か、カオルの頭を撫でまわしながら言っているのが聞こえて、我に返る。猫獣人幼女――そこそこ育っているから幼女とは言えないんだろうか――のふわふわの耳の感触を指先で確かめたイケメンは、相好を崩した。
「この感触。猫アレルギーのわたしでも、触れるんだよ!? あったかいし、ふわふわだし、つねったら痛がる」
「いひゃい、いひゃい」
 カオルが頬をつねられて、毛皮に覆われた手でサクラの顔に猫パンチを食らわした。綺麗な顔にこれまた綺麗な三本の赤い筋が走るが、サクラの魔人の再生力であっという間に消えていく。しかも、平然と口を開く。
「ね? 痛がるってことは、夢じゃないんだよ」
「他人の顔をつねる前に、自分ので確認しろよ」
「今、確認したよ。一瞬だけ痛かったし」
 サクラが不満そうに眉間に皺を寄せていると、サクラの攻撃から逃げたカオルがソファから立ち上がって俺に詰め寄ってくる。
「なあ、アキラ。リアルもここまでくると、びっくりなんだよ」
「ん?」
「ほら、実際にはさ? ヘッドセットでこのアバターに変身したとしても、できるのは武器を変えたり必殺技をセットしたり、アクセサリーを変えたり。そのくらいだったろ?」
「ああ、うん」
「でも、見てくれ」
「ああ?」
「マチルダではできなかったけど、ここではできるんだよ。パンツまで脱げる」
 と、そこでカオルはミニのキュロットスカートを脱ぎ捨て、その下にあった白くて小さいパンツまで一気に膝の辺りまで引き下ろした。

 が、すぐにサクラがソファから立ち上がり、猫耳の後頭部を張り倒す。すぱーん、という小気味のいい音。

「いきなり脱がない!」
 険しい顔でそう言いつつ、まるで子供の面倒を見るように猫獣人のパンツを上に引き上げ、サクラがため息をこぼした。顔を紅潮させているカオルが、後頭部を抑えながら俺に何か言おうとしている間に、さらにサクラはキュロットスカートまで履かせ、身支度を整える。
「……パンツまで……?」
 俺はそれを横目に、自分も『そう』なのだろうか、と自分の格好を見下ろした。

 元々、マチルダ・シティ・オンラインは全年齢対象のコミュニティゲームだ。だから、アバターの服を着せかえると言っても、下着は完全に張り付いたままで脱ぐことはできない。
 しかし。

 俺は思わず、吸血鬼アバターの胸を見下ろし、黒いブラウスのボタンを外して中を覗き込んだ。
「おお……」
 ブラウスの下にあったのは、何ともリアルな双丘である。白くてもちもちの肌。可愛らしい白いブラらしきものも見えたが、それより気になったのは――。
「……マジ、リアル」
 つい、軽く両手でその双丘を包み込むようにして揉んでいると、サクラに殴られた。
「恥じらいのない人間はこれだから」
 サクラは冷ややかな目つきで俺とカオルの顔を交互に見たが、俺は声を大にして言いたい。
「何故山に登るのか。そこに山があるからだ。つまり、男だったら揉むだろ? 他人のじゃなくて、自分の胸だぞ? いくら揉んでも逮捕されない。つまり、これは合法だ。山開きしてるんだから登るだろ、普通」
 実際にそう言うと、さらにサクラの鋭い目が冷ややかな輝きを放った。くそ。
 でも、揉んだら凄く柔らかい感触だったから満足である。世の中にスライムという生き物が存在したら、きっとこういう感じだろう。

「でも、これが夢じゃないっていうなら、大問題だよな」
 ブラウスのボタンをはめ直しながら俺がそう言うと、サクラがまたソファに座り直して頷いた。
「本当、夢だったらいいのにね。これが現実なら、わたしたちはゲームの中にいることになる。ファンタジーだよ?」
「ホラーの可能性もあるにゃ」
「にゃって何だよ」
「キャラ付け? キャラ立ち? っていうか、猫アバターで幼女ならこれだろ」
「馬鹿か」
 カオルはソファに座らず、その場で踊るようにくるりと回る。ところで、幼女ってのは何歳くらいまでを言うんだろうか。一応、猫獣人のカオルは見た目は十歳以上いってそうなんだが。
 俺がそう考えながらカオルを見つめていると、小悪魔的な表情をした猫がわざとらしく可愛いポーズを取って見せた。
「惚れんにゃよ?」
「やっぱり馬鹿だろ」

 何はともあれ、俺たちは外に出てみることにした。
 ゲームと同じように、マップ画面を開いてそこに手を伸ばす。
「まずは大広場に行ってみよう」
 俺がそう言うと、二人とも頷いて宙に手を伸ばす。彼らもまた、俺と同じものが見えているらしい。
 マチルダ・シティ・オンラインでは、マップの中心が大広場だった。そこから、色々なところに道が伸びている感じ。
 大広場のアイコンにタップすると、一瞬で視界が変わる。身体に伝わってくる僅かな違和感は、空間を移動した時に感じるものなんだろうか。風が身体を通り抜けていくような、奇妙な感覚。
「……すげえ」
 俺は辺りをぐるりと見回して、歓声を上げた。VRゴーグルで見る光景じゃなく、実際の目で見ているからなのか、それは圧巻だと言えた。
 石造りの建物が周りにあり、それのどれもが美しい彫刻が彫られた柱を持っている。外国の街、しかも――どこか中世的な雰囲気と、現代的なものが交じり合った、不思議な造り。
 開いている窓もあれば、閉じている窓もある。
 でもやはり、生活感は感じられない美しい建物ばかりだ。
 大広場の中心には大きな噴水がある。石畳の道、ゴミ一つ落ちていない綺麗な街。
 ゲームと同じで、ユーザーが座って会話できるテーブルセットもたくさん置いてあり――。

 そして、俺たち三人以外の人影があった。
 椅子に座って、会話している人たち。しかし、その人影はまばらというか、ほとんどいない。人影はあっても、大広場は閑散としていた。
 それでも。

「第一村人発見にゃ」
「にゃって言うな」
「え? 話しかけて大丈夫?」
 俺たちがこそこそ話をしていると、向こうが俺たちの存在に気付いて手を上げてきた。気さくな雰囲気の――エルフと狼男だった。

「やあ、新人?」
 そう言ったのは、白すぎる肌と金色の長い髪を持った美しい男性エルフだ。椅子に座り、背筋を伸ばした彼はまさに美の化身とも言えるべき存在だった。何だか、微妙に白く身体全体が光っているし。
 尖った長い耳、整った鼻筋と薄い唇。額に着けられた銀色のサークレットの中央には、大きな宝石が嵌め込まれている。
「見かけない顔だな」
 そう言ったのは、エルフの向かい側の椅子に座った、大柄の男性。ぴしっとしたスーツ姿なのに、頭は完全に狼である。狼なのに銀縁眼鏡をかけていて、インテリ風。その双眸にも知性の輝きがあり、穏やかな口調も相まって親しみやすさを見せていた。

「あの……」
 俺は思い切って彼らに近づき、口を開いた。「ここは、何ですか?」
「ここは……って」
 エルフが苦笑して、俺たちの顔を見回した。「君たちも同じなんじゃないの? マチルダから飛ばされた。そうじゃない?」
「え。ってことは、あなたたちもですか?」
「そうだよ。きっと、君たちと同じ。マチルダで遊んでたら、急にこれだよ」
 エルフが肩を竦め、やれやれ、と言いたげな顔で天を見上げる。イケメンは何をやっても似合う、という証拠が目の前にあった。
「でも、どうして?」
 俺が訊くと、今度は狼男が口を開いた。
「君たちは闘技場へ行ったか? ああ、こっちの世界に来てから、だけど」
「まだです。さっき、ここに来たばかりなので」
「だったら、行ってみるといい。そこに、クエストが貼り出されてある。何をするべきか、解ると思う」

 クエスト。
 やっぱりここは、ゲームの世界なのか。そのクエストとやらをするために、呼び出されたとでも言うんだろうか。アニメなどによくある、異世界召喚ものみたいな感じで。
 俺たちが困惑しつつもそれに頷くと、彼らはそこで自己紹介をしてくれた。
 エルフの男性のユーザーネームは凛さん。狼男はユーザーネームをシロさんと言った。アバターだけしか目に見えないものの、何となく俺たちより年上だと感じた。
 凛さんは苦笑しつつ、俺に言う。
「私たちも完全にはこの世界のことを理解していないけどね。何か質問があったら解る範囲で答えるから、見かけたら声をかけてよ」
「あの、その前に」
 俺はそこで凛さんとシロさんの顔を交互に見やり、首を傾げた。「どうすれば元の世界に戻れるんですか? ログアウト方法って……」
「それが解れば苦労はしない」
 ため息交じりのシロさんの顔が、狼の形をしているのに明確に落ち込んだようなものへと変化した。「俺たちも、ずっとログアウト方法を探してる。でも、帰れないんだ」
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