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こま猫

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第54話 レジーナの街を観光

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 お茶も飲んだし、お菓子も食べた。腹ごなしに一狩り行こうぜ、とサクラたちに言ったら諸手を挙げて賛成された。
 しかし、大天使も一緒に行きたいと言い出した。
 えええ、とテンションが下がっていると、セシリアが苦笑した。
「日が暮れるのも早いし、今日は街の中を見て回るだけにしておけば? 明日から街の外に行ってみてもいいでしょ?」

 その結果がこれである。

 街の中を散策バージョンの服装にお着替え。もう、着替えるって大変である。世の中の女の子はこんなに苦労しているんだろうか。着替えを手伝う侍女たちも大変だ。
 俺の格好はシンプルなブラウスにフレアスカート、ロングブーツ、髪の毛も結い直して町娘っぽく大人しめのものに。
 カオルも子供が着て似合うような、可愛らしくもシンプルなシャツとベスト、スカートの下にはレースふりふりの裾が見える。いつの間にか尻尾を通す穴すら完備の服が用意されているって凄くね?

「俺たち、何してんだろうな……」
 お着替え専用部屋らしいところで着せ替え人形と化した俺、ふと我に返る。猫幼女も遠い目をしながら呟いた。
「元の世界に帰れなかったときのために、交流を持って情報を得ると考えれば……いい相手だと思うけどにゃ」
「冷静だな、お前」
「どうせ嫁にされるのは俺じゃないし」
「殺すぞ」
「それに、俺はサクラちゃんに襲われる運命だけで精一杯で」
「あっ、うん、同情するわ」
 そんなやり取りの後、部屋を出て廊下へ。すると、そこにはサクラがもうすでに壁に寄りかかるようにして待っていた。サクラの服装は前と同じ魔人アバターのもので、背中にも大剣が背負われている。
「街で暴漢に襲われるのは、こういった話のお約束」
 そう言ってニヤリと笑うが、俺もそっちがよかったなあ。
 太腿への短剣装備は却下されてしまったので、俺はすっかり丸腰である。
「カオル君はわたしが守ってあげるから」
 サクラはそう言いながら猫幼女の手を引いて歩きだす。後ろから見ると、何だか宇宙人捕獲の構図か、道路標識の子供の手を引く大人の図にしか思えない。
 っていうか、俺も守ってくれたっていいじゃん、と心の中で呟きながら歩いていくと、廊下の先にミカエルとアルトの姿があって――大天使が俺を守る気満々なのが見て取れた。
 うん、まあ、だよな……。

 そして、初・馬車での移動である!
 お忍び用の質素な馬車だと説明されたが、充分でかいし立派な造り。黒塗りの馬車は、黒くて大きな馬によって引かれている。御者はぴしっとした服装をした年配の男性で、恭しく頭を下げていた。
 セシリアの住んでいる離宮は街の外れにあって、商店街が充実している街中まで歩くとそれなりに時間がかかるらしい。セシリアがいれば移動手段なんて気にしなくてもいいが、ずっと離宮を留守にしていた彼女はやることがたくさんたまっているようだ。一緒に買い物したいのに……と落ち込む彼女を置いて、俺たちは馬車の前に立っている。
 アルトは馬車に乗らず、護衛のためにといって一人で馬に乗った。
 そして、馬車の中に乗り込んだのは俺たち三人と大天使。なかなか会話に気を遣うことになってしまった。

「わたしたちみたいな得体のしれない三人組と、一緒にいて問題になりませんか?」
 俺の横に座るミカエルに向かって、そう問いかけてみる。
 俺たちの前の座席にはサクラとカオルがいるが、さすがの変態サクラでも俺たちがいるのにいちゃつくということはしない。馬車の窓から外を見つつ、小声で何やら喋っていた。
「大丈夫ですよ。母の住んでいる離宮は、王都の雑事から離れて自由に過ごせる場所ですから、誰も問題視しないでしょう」
「でも、王妃様と王子様で我々とは……うーん」
 俺がミカエルの返事に首を傾げていると、彼は困ったような笑みを浮かべた。
「残念ながら、我々は名前だけの王族ですから。むしろ、権力のある貴族と縁をつなぐと後々厄介になりますので、これでいいんですよ」

 ……なるほど、と俺が考えていると。

「婚約者とかいらっしゃるんですか?」
 と、サクラが余計なことを訊いた。
 サクラは無邪気に見える笑みを浮かべながら、興味津々といった光を放つ目を大天使に向けていた。
「別の世界からやってきたわたしたちはよく解りませんが、普通は身分の高い方は幼い頃から決められた婚約者とかいらっしゃるんじゃ?」
「兄二人は婚約者持ちですが、私はいませんね」
「なるほど」
 そう頷きながら、サクラが俺を見る。何故だ。っていうか、これは藪蛇ってやつじゃないのかと背中に冷や汗をかいていると、案の定ミカエルがとんでもないことを口にした。
「だから、こうして遠慮もなく女神を口説けるというわけですね」

 おうふ。
 輝く笑顔とオーラが俺を襲う! 俺のライフゲージがダメージを受けた!

 とりあえず馬車の窓の外に目をやったが、話はそこで終わらない。

「冗談ではなく、もしも許されるならあなたの手を取らせていただきたいのです、我が女神」
「えっ」
 引きつる表情筋を働かせ、何とか平静を装いながら彼に視線を戻すと、予想以上に真剣な顔がそこにあった。
「だからもう少し、お互いのことについて話をしたいですね。もっと、あなたについて知りたいです」
「そ、そうですか……」
「でもその前に」
「はい」
「何となく厭な予感がしますので、形だけの婚約者となってもらえませんか?」
「は!?」

 厭な予感って何だ、形だけの婚約者って何だ、と俺が馬車の中で逃げ場を探そうとしていると、大天使は慌てたように続けた。

「先ほど、わたしに手紙が届いたのをご覧になりましたよね」
「あ、はい」
「実は、あれが目下の問題というか……困っているのです。手紙の送り主は、私が呪いを受けるきっかけになった女性です」
 そしてミカエルが色々と語った事情というのが、何とも面倒そうなのだ。

 死神アバター(仮)の奴が惚れた女性。それが、王都にあるギルドに登録していた女戦士だ。彼女の名前はロクサーヌ・リンデ。おそらく、十代後半くらいの少女だと大天使は言う。
 剣の腕は確かであったものの、どこか危なっかしい行動が男心をくすぐるようで、死神アバター(仮)さんは見事にそれに惚れたらしい。
 だが、ロクサーヌ嬢はギルドで一緒になったミカエルに一目惚れをしたらしく、何かと彼に付きまとった結果が――呪いである。

「自分のせいで呪いをかけられた、と彼女は大騒ぎしまして。それから随分と付きまとわれました。お詫びとして一生お仕えしたいとか、守ってあげたいとか、逃げても随分と追われまして。こちらに婚約者、恋人がいないと知ると猛攻撃をされたわけです」
「ブーメランって知ってます?」
 ついそう言ってしまった俺だが、大天使はブーメランという単語を知らなかったらしく、怪訝そうに首を傾げて見せただけだ。
 そして、彼は深いため息をこぼした。
「会ってみれば解りますよ。お詫びなのだからといって、好意も敵意も無差別にまき散らす彼女が私は苦手です。だから、必死に逃げたんですよね……」
「そういえば、この街に滞在中だとか言ってましたか?」
 手紙を受け取った時、侍女のお姉さんがそんなことを言っていたはずだ。ということは、街を観光している時に会ってしまうかもしれない、ということだ。
「ええ。だからちょっと困っているのです。彼女に万が一会ってしまった時だけ、形だけの婚約者として紹介させてもらえないでしょうか」
「……なるほど」
 少なくとも、女避けになるということだ。
 イケメンってつらいんだな、とちょっとだけ同情しつつも、そのロクサーヌという彼女に興味を持ったのも事実だった。
 ここまでミカエルが厭がる相手って、どんな奴なんだろうと思ったから。

 で。

 こういう会話って、フラグっていうよな。
 俺たちが街の中央に到着し、馬車を降りて観光を始めたら――会ってしまったわけだ。その、問題のロクサーヌ・リンデという少女に。
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