吸血鬼美少女アバターのままゲームからログアウトできません

こま猫

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第73話 多すぎる素材

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「どうやってこんなに回収できたんですか……」
 ぽかんと口を開けたまま固まってしまった受付のお姉さんを見ながら、セシリアが「ヒミツ」と笑う。
 何しろ、積み上げた量が量である。決して狭くはないカウンターテーブルから
 まあ、頑張ったのはセシリアと子犬である。移動魔法の連発から、「走れー、少年!」と叫ぶセシリア、素材回収のために森の中を走り回るポチ。ひょろいからすぐにばてているようだが、努力は認めよう。
 そして俺たち三人、ミカエルとアルトは手を出すなと言われているので見守るのが仕事である。
 それでも、魔物が出た時は手伝ったけれど。
 だって俺たちも魔物を倒してコインを稼いでおきたいし、頼み込んでおいたのだ。少しは俺たちにも戦わせろ、と。
 で、リュカに馬鹿にされないためにも俺たち三人、格好よく見えるように頑張った。さすが闘技場のアバター、無駄に格好いいのは自覚している。まあ、サクラが一番目立っていたが。
 でも、それを見たせいか、リュカがさらに静かになった。正直なところ、俺たち三人は普通の人間より強い。きっとこの世界の魔術師とかだって目じゃないはずだ。

「今回はそれなりに収入になりそうだな」
 セシリアが受付で色々やり取りをしている後ろで、ミカエルがリュカにそう微笑みかけた。「やればできるということが証明できて何よりだ」
「偉そうに……いや、その」
 リュカは一瞬だけムカついたようにミカエルを睨んだものの、悠然としている彼を見て何か思うことがあったのか、その表情を引き締めて目をそらす。「……助けてもらって、その、感謝する」
「声が小さい」
「耳が遠いんだな」

 やっぱり、素のミカエルはどこかぞんざいなところがあると思う。いつも俺に言い寄ってくる時の暑苦しさがなくなると、付き合いやすそうなどこにでもいる男になる。

「でも、ミカエルはどこでその女と出会った? 見かけによらず凄い強いんだな、それ」

 それって俺かよ、と俺がリュカを睨むと、俺と同じような目つきでミカエルが冷たく言った。
「手を出したら裸に剥いて川に流す」
「は?」
「流す」

 アルトが視界の隅で深いため息をついているのが見える。俺としても下手に関わりたくないから放置。
 セシリアは相変わらず受付のお姉さんと色々話をしているようで、また差し出された紙を受け取っている。今日集めてきた素材だけではまだ足りないようで、「随分とあるわねえ」とあきれた様子の声も聞こえてくる。
 って、素材集めとかやってたら本当に黒フード探しが進まない。
 だから思わず口を挟んだ。
「あの、提案なんですけど」
 と、以前却下されたことをもう一度交渉しようとした。前回は俺たち三人で別行動をしようとしたから大天使に拒否されたのだが、今度は違う。
「セシリアさんとそっちのポチ……リュカさん二人でギルドの依頼は充分じゃないですか? セシリアさんは凄く強いし、魔物が出ても戦えるんですよね? だったらその……我々は黒フード探しにいきませんか?」
「我々、つまり私もアキラ様と一緒にですね?」
 ミカエルは瞬時に色々考えたらしく、俺の提案が魅力的に思えたんだろう。ある意味、邪魔者がいないわけだからミカエルとしても嬉しかったのか、すぐに微笑みを浮かべて頷いた。
「悪くない考えですね。まだフォルシウスの中もちゃんと見ていませんし、観光がてら……」
 そう言いかけた時だ。
 ミカエルのその横でリュカが首を傾げ、俺に向かってこう訊いた。
「黒フードってミカエルに呪いをかけたやつのことだよな?」
「え、ああ、そうです」
 俺が頷くと、リュカが怪訝そうにミカエルに視線を向ける。
「俺がセシリアに聞いた話だと、呪いが解けるまでこいつらと一緒に行動するって約束だったとか? つまり、呪いが解けたらそこでお前たちはお別れ……」
「いや、婚約者だから別れない……」
 そう言いかけたミカエルが、どことなくハッとしたように俺を見た。何だよそれ、最初の目的を忘れてたんじゃないだろうな!?
 俺たちは呪いが解けるまで一緒にいるだけで、今は形だけの婚約!

「解りました、呪いは後回しです」
 急にミカエルが俺の傍に歩み寄り、そっと俺の手を取った。「いっそのこと、呪いなど解けなくても生きていけるのだから問題ありません。むしろ、呪いが解けなければアキラ様と共に生きていけると言うのなら、呪いを解くのは諦めましょう」
 呪いは後回し……? 諦める?
 お前、腹に『粗品』って書いてあるからな!?
 消さないと笑われるからな!? 日本語が読める相手限定だけど!

「……っていうか、お前」
 俺は思わず、リュカに視線を投げて叫んだ。「何故思い出させたし! このまま大天使が忘れていてくれれば、呪いを解いて『はいさようなら』できたんだ! 余計なこと言うなよ!」
「だいてん……何?」
 リュカが眉間に皺を寄せたが、すぐに面白そうに笑うものだから余計にムカつく。
「笑うな! お前の顔をキャンバスにしてやろうか! 駄犬って油性マジックで書いてやる!」
「変な女」
「心は男ですー」
 俺が大天使の手を振り払おうとしながら唇を尖らせると、この騒々しさに気づいてセシリアが遠くから声を飛ばしてきた。
「うるさいから騒がないで!」
 しかも、セシリアはこちらに歩み寄り、何枚もの紙を突きつけてくる。俺たち人数分の書類を配り終わると、彼女は小さくため息をついた。
「それより、大量の素材採取があるから! リュ……リューちゃんだけに任せておいたら、何年経っても終わらないからね、我々一丸となってやるわよ!?」
 リュカは第二王子の名前だから、わざと言い換えたらしい。
 気が付けば俺たちの騒ぎに困惑しつつも様子を窺っている人間がギルドのホールにはたくさんいたし、身分を隠さなくてはいけないんだろう。リューちゃんと呼ばれたポチも戸惑っていたものの、受け取った素材一覧を見て「うわあ」と厭そうな表情をしている。
「明日から忙しいからね! 当分はこれで一日が終わると覚悟して!」

「絶対、失敗した……」
 俺は思わず、そう呟いていた。
 サクラは「もう手遅れ」と俺の肩を叩き、カオルも尻尾を揺らしながら「にゃあ」と鳴く。
 これ、絶対遠回りをしている。俺たちの目的は何だ? 元々、邪神復活の阻止じゃなかっただろうか。そうだ、そのためには魔族領に行って魔王に会って話を聞くべきだと思うのに!

 結局それからしばらくの間、俺たちはリュカが主軸となって活動する素材採取に同行することになってしまったし、俺に逃げられるかもしれないと不安を抱いたらしいミカエルに今まで以上に付きまとわれることになった。
 三峯の店を冷やかしに行きたいという考えもあったけれど、どうやらそれもしばらく無理そうで――。
 何故か、何もかも上手くいかない。

 しかも、ミカエルは必要以上に俺を女扱いしてきて、ことあるごとに華麗なるエスコートを決めようとしてくる。人間、繰り返されると慣れるものである。慣れたくないと思っていても、森の中で足場が悪い場所に差し掛かった時、ミカエルが手を出してくるものだからつい――自分の手を乗せてしまう。

 ちがーう!
 これは違う!
 本意ではない。
 やっぱり、別行動しなくてはいけなかった!

 俺とミカエルがこんな奇妙な攻防を続けている間、セシリアやアルトは別のことを気にしていたらしい。
 そう、神殿の動きである。
 浄化の旅を控え、魔道具がたくさん必要になるのは当然のことらしい。大人数で移動して、場合によっては野宿となる。そういった場合、戦闘用だけではなく生活用品としての魔道具も必要だろう。

 だが、それにしても『多すぎる』のが気になっていたんだという。
 俺たちがギルドの依頼で受けた内容で作られる魔道具の数は、おそらくとんでもない数になる。そんなに必要なのだろうか、ということを、数日後の素材採取の現場でセシリアから聞くことになる。
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