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第88話 幕間18 サクラ
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前方を歩く王子様ご一行を見ながら、わたしはカオル君の手を引いている。男であるわたしの手よりもずっと小さな、猫獣人の手。最近、自分から手をつなごうとしてくれるのも嬉しい。
朝早いうちからの街の散策はなかなか心地よかった。
もう少し遅い時間ともなれば、旅人たちの姿も目に入るようになるはずだ。でも今の時間帯は、店を開けようとしている商売人たちだったり市場に買い出しに行くこの街の住人たちばかり。
どこかのんびりした空気が漂うこともあって、わたしたちの足取りもゆっくりになる。
それに、軽食の屋台も出ているからいい匂いがする。
カオル君の耳や鼻がぴくぴく動くのも可愛くて、つい自分の口元が緩むのを感じた。
王子様ご一行の横には、三峯さんもいる。彼らはこれからの行動をどうするか打ち合わせを行っているようだった。
「俺たちはどうするつもりにゃ」
カオル君がこちらを見上げ、こそりと囁いてくる。
「勝手に動くのはまずいだろうし、何かあったら手助けする、くらいの感じでいいんじゃない?」
そう返しながら、前方のご一行様の会話に耳を澄ました。
新しくやってきた王宮魔術師さんは、おそらくミカエルさんに言われて変装でもしているんだろう、ギルドで活動している剣士みたいな恰好をしている。使い込んだ感じの鎧と、背中の大剣。こめかみ付近にある傷のせいで、魔術師には見えない。
ミカエルさんもアルトさんもセシリアさんも、やっぱりいかにもギルドの依頼を受けてます、みたいな格好と雰囲気を見せている。
どうやらこの姿のまま、まずは神殿の周りを探索するつもりのようだ。当てがないわけじゃなくて、神殿から定期的に出てくる聖騎士のお兄さんたちを見張って動くんだとか。
「ちょっと聞き込みしたんすけど」
三峯さんがミカエルさんに対して砕けた口調で笑いかけている。「最近、聖騎士の皆さん、結構真面目にフォルシウスの街の警備に出てるみたいなんすよね。以前はちょっとお高くとまった感じで、見回りなんか下々の連中がやることだろう、みたいな態度だったのが緩んだのか、それとも……? って感じかな」
「真面目なのはいいことですが……」
王宮魔術師さん――アルセーヌさんは眉根を寄せて苦々し気に息を吐く。「一体、何の見回りをしているんでしょうね?」
そう言った彼の視線の先には、まさに噂の聖騎士たちが馬に乗って神殿から出て行くところだった。
五人の聖騎士。銀色に輝く甲冑を身に着け、黒いマントを羽織っている。いかにも西洋の甲冑、という感じだろうか。肌の露出が少なく、他者からの攻撃を受けても怪我をしないようにがっちりと覆っているタイプ。
兜の顔の部分は、何となく鳥を思わせる形になっていて印象的だ。
彼らは辺りを見回した後、大通りではなく人気の少なそうな道を選んで進んでいく。その後ろから、少し大きめの荷馬車のようなものが続いた。
「見回りにあれって必要? 武器とか魔道具でも積んでるってことかね」
三峯さんがそう呟くと、アルセーヌさんが困惑したように首を横に振った。
「普通、見回りにあのような荷馬車は必要ないでしょう。武器なら彼らの腰に剣が下がっていますし、充分のはずですが」
荷馬車と言えば立派に聞こえるかもしれないけれど、彼らの後をついていくそれはどこか質素な荷車に近い。分厚い革のシートに覆われて何が積まれているのか見えないから余計に気になる。
「じゃあ、俺、覗いてこようか?」
三峯さんがのんびりとした口調で、まるで『買い物行こうか?』くらいの軽さで言う。「よく解んないけど、王子様たちが後をつけるのはヤバいでしょ?」
「それは危険ですね」
何を言っているんだ、と呆れたように言うアルセーヌさんだが、三峯さんの軽さは変わらない。
「俺、いざとなったら空飛んで逃げられるし、それに」
と、彼は両腕をわざとらしく開いて演技じみた仕草で笑うのだ。「俺、ある意味神様からの使いだし。神殿の連中も神託だって言えば騙されてくれんじゃないかな。それに見つかったとしても、『あなたは神を信じますカー』とか言って誤魔化すから」
アルセーヌさんの眉間の皺が深くなる。
しかし、セシリアさんは面白そうに笑っていて、その肩が震えていた。ミカエルさんとアルトさんはいつものごとく、平静を保っている。
「じゃあ、わたしたちも行こうか?」
そこに、わたしが手を上げて言った。「面が割れてないわたしたちが動いた方がいいでしょう? わたしも空を飛べるってほどではないけど三段ジャンプ得意だしね」
「じゃ、俺もにゃ」
カオル君が慌てたようにわたしの手をぎゅっと握り込んでくる。「サクラちゃんと一緒に行動したい」
やだ可愛い。
もちろん連れていくってば! 離れ離れなんて一時であろうと厭だから!
つい、無言のままカオル君を抱きしめると可愛らしい手がばしばしとわたしの腕を叩いた。ギブアップの意思表示である。
「じゃあ、うちの聖獣を連れていって。逃げる時、役に立つから」
やがてセシリアさんが頭上に乗っていた聖獣をこちらに放り投げてきた。
地面の上に転がされた丸い生き物は、また不満げに前足で地面をてしてしと叩く。でも、すぐに諦めてわたしたちの方へ歩いてきた。可愛いけど可哀そう。
「無茶はしないでください」
ミカエルさんが神妙な顔つきでわたしたち三人の顔を見回した。「今日の目的は、あくまで偵察です。危険だと思ったらすぐに戻ってきてください。我々はしばらくこの近辺を見回りますが、最終的にはあなたの店に戻りますので」
「はいはーい」
三峯さんは気の抜けるような声でそう返事すると、わたしたちに『こっちこい』と言わんばかりに顎でしゃくる。そしてその直後、彼の姿がわたしたちの目の前から消えた。
天使アバター、相変わらず動きが素早い。
人間の姿のままだというのに、軽い跳躍で近くの建物の上に移動しているわけだから。きっと、辺りを歩く人間の目には見えないだろう。
それに比べると、わたしの魔人アバターは少しだけ速度が遅い。獣人のカオル君もそうだ。『人』であるものと『人ならざる』天使との違いだろうか。ちょっと悔しいが仕方ない。
彼の後を追って、わたしはカオル君を抱きかかえて地面を蹴る。そして、三峯さんの背中を追った。
聖騎士とかいう奴らだって人間だ。
自分の頭上の建物の上から、見下ろしている視線があることに気づかないようだ。彼らはどこか人目を避けるように街の中を進み、そのままフォルシウスの外へと出ていく。
建物の屋根から屋根を伝って走り、それを見送ったわたしたちはフォルシウスの門から外に出ることをせず、『普通に』街を取り巻く壁を飛び越えて外へ出た。
「やーな感じだねえ」
三峯さんが頭を掻きながら呟く。
街の外に出ると、人影がほとんどないため追跡は難しくなる。身を隠せるのは森に入ってからだから、しばらくは追いかけてはいけない。しばらくこの場所でのんびりと歩き、聖騎士ご一行様が森の中に消えてから一気に走る。
「不法投棄の予感」
カオル君が森に入ってすぐ、そう言った。彼――彼女?――の耳がぴくぴくと動き、遠くの物音を聞いている。
「それと、俺の鼻、凄く利く方なんだけどさ。多分これ、血の匂いだよ」
「やっぱり」
「やっぱり」
わたしと三峯さんの言葉が重なる。三峯さんの目がちらりとわたしに向けられ、「気が合うね」と笑う。
いや、普通、予想はつくよね。
三峯さんとうちのお兄ちゃんが神殿に忍び込んで見てきたものと、現在の状況をつなぎ合わせれば簡単に解る。
神殿内で殺した人間の遺体を、捨てに行くんだ。
多分、そういうこと。
「さて、答え合わせの時間だ」
三峯さんは何故か準備運動でもするみたいに、今更アキレス腱を伸ばしたり肩を回したりする。そして、わたしたちより早く動いた。今度は近くに建物はないから、木の枝を伝って走る。
そしてその途中から、三峯さんの姿が人間から天使へと変化した。
真っ白な服に身を包んで、背中に大きな翼が二枚。無駄に神々しい姿になって、木の枝のないところは空をそのまま飛びながら――。
地面へと舞い降りる。
その頃には、五人の聖騎士たちと荷馬車の御者は、元来た道を戻ってしまっていたようだった。だから、森の奥にあるちょっと開けた場所には、荷馬車から降ろされた積み荷だけが転がっている状況だった。
「こういう場合、何て言ったらいいものかね」
三峯さんは心底厭そうに呟き、地面を見下ろしていた。少し遅れてわたしとカオル君も彼に追いつき、彼の背後で足をとめる。
「俺、天使アバターだけど『アーメン』くらいしか言えない」
「無理して言わなくていいんじゃないですか」
わたしはそう言ってから両手を胸の前で合わせ、目を閉じた。
そして無言のまま祈る。
地面の上に転がっているのは、複数の遺体だ。ほとんどが男性のもので、質素な服装に身を包んでいた。恐れていたほど酷い有様ではなかったけれど、血の匂いは間違いなく漂っている。
でも。
「多分ここ、餌やり場だ」
ふと、カオル君が小さく呟いて、わたしは目を開ける。わたしの横に立っていたカオル君が、そっと辺りを見回して唇を引き結んでいた。
そうやって辺りを見回してみれば、森にある木の幹には、魔物の鉤爪で攻撃されたらしい跡があった。そして、地面の上には――以前からそこにあったのだろう、誰かの衣類の薄汚れた切れ端もあった。
つまり、神殿で人間を殺して、証拠隠滅のためにここに遺体を捨てに来ている。
そしてその遺体は、魔物の餌になる。
でも、何故?
「お前たちは何者だ」
そこに、離れた場所から誰何の声がかかった。多分、わたしだけじゃなく三峯さんもカオル君もその気配には気づいていただろう。ただ、動けなかっただけで。
そっと振り向くと、帰ったはずの聖騎士たちが馬に乗ったままこちらを睨んでいる。その兜に覆われて彼らの目は見えなかったけれど、明確な敵意が伝わってきていた。
「魔物か?」
「獣人もいる」
聖騎士たちは剣を抜き、翼を持つ三峯さんと猫獣人のカオル君に対して、侮蔑のような感情を含んだ言葉を投げてくる。特に、獣人に対する敵意が凄い。空気がびりびりと震え、聖騎士が身に纏う闘気が揺らめくのも感じた。
そしてつい、わたしは言ってしまった。
「人殺し連中に言われたくないですね」
自分の背中にある剣を抜くと、わたしたちを庇うように神獣が前に出る。その小さな躰は一瞬にして膨れ上がり、元々の姿なのであろう巨大な狼へと変化した。
朝早いうちからの街の散策はなかなか心地よかった。
もう少し遅い時間ともなれば、旅人たちの姿も目に入るようになるはずだ。でも今の時間帯は、店を開けようとしている商売人たちだったり市場に買い出しに行くこの街の住人たちばかり。
どこかのんびりした空気が漂うこともあって、わたしたちの足取りもゆっくりになる。
それに、軽食の屋台も出ているからいい匂いがする。
カオル君の耳や鼻がぴくぴく動くのも可愛くて、つい自分の口元が緩むのを感じた。
王子様ご一行の横には、三峯さんもいる。彼らはこれからの行動をどうするか打ち合わせを行っているようだった。
「俺たちはどうするつもりにゃ」
カオル君がこちらを見上げ、こそりと囁いてくる。
「勝手に動くのはまずいだろうし、何かあったら手助けする、くらいの感じでいいんじゃない?」
そう返しながら、前方のご一行様の会話に耳を澄ました。
新しくやってきた王宮魔術師さんは、おそらくミカエルさんに言われて変装でもしているんだろう、ギルドで活動している剣士みたいな恰好をしている。使い込んだ感じの鎧と、背中の大剣。こめかみ付近にある傷のせいで、魔術師には見えない。
ミカエルさんもアルトさんもセシリアさんも、やっぱりいかにもギルドの依頼を受けてます、みたいな格好と雰囲気を見せている。
どうやらこの姿のまま、まずは神殿の周りを探索するつもりのようだ。当てがないわけじゃなくて、神殿から定期的に出てくる聖騎士のお兄さんたちを見張って動くんだとか。
「ちょっと聞き込みしたんすけど」
三峯さんがミカエルさんに対して砕けた口調で笑いかけている。「最近、聖騎士の皆さん、結構真面目にフォルシウスの街の警備に出てるみたいなんすよね。以前はちょっとお高くとまった感じで、見回りなんか下々の連中がやることだろう、みたいな態度だったのが緩んだのか、それとも……? って感じかな」
「真面目なのはいいことですが……」
王宮魔術師さん――アルセーヌさんは眉根を寄せて苦々し気に息を吐く。「一体、何の見回りをしているんでしょうね?」
そう言った彼の視線の先には、まさに噂の聖騎士たちが馬に乗って神殿から出て行くところだった。
五人の聖騎士。銀色に輝く甲冑を身に着け、黒いマントを羽織っている。いかにも西洋の甲冑、という感じだろうか。肌の露出が少なく、他者からの攻撃を受けても怪我をしないようにがっちりと覆っているタイプ。
兜の顔の部分は、何となく鳥を思わせる形になっていて印象的だ。
彼らは辺りを見回した後、大通りではなく人気の少なそうな道を選んで進んでいく。その後ろから、少し大きめの荷馬車のようなものが続いた。
「見回りにあれって必要? 武器とか魔道具でも積んでるってことかね」
三峯さんがそう呟くと、アルセーヌさんが困惑したように首を横に振った。
「普通、見回りにあのような荷馬車は必要ないでしょう。武器なら彼らの腰に剣が下がっていますし、充分のはずですが」
荷馬車と言えば立派に聞こえるかもしれないけれど、彼らの後をついていくそれはどこか質素な荷車に近い。分厚い革のシートに覆われて何が積まれているのか見えないから余計に気になる。
「じゃあ、俺、覗いてこようか?」
三峯さんがのんびりとした口調で、まるで『買い物行こうか?』くらいの軽さで言う。「よく解んないけど、王子様たちが後をつけるのはヤバいでしょ?」
「それは危険ですね」
何を言っているんだ、と呆れたように言うアルセーヌさんだが、三峯さんの軽さは変わらない。
「俺、いざとなったら空飛んで逃げられるし、それに」
と、彼は両腕をわざとらしく開いて演技じみた仕草で笑うのだ。「俺、ある意味神様からの使いだし。神殿の連中も神託だって言えば騙されてくれんじゃないかな。それに見つかったとしても、『あなたは神を信じますカー』とか言って誤魔化すから」
アルセーヌさんの眉間の皺が深くなる。
しかし、セシリアさんは面白そうに笑っていて、その肩が震えていた。ミカエルさんとアルトさんはいつものごとく、平静を保っている。
「じゃあ、わたしたちも行こうか?」
そこに、わたしが手を上げて言った。「面が割れてないわたしたちが動いた方がいいでしょう? わたしも空を飛べるってほどではないけど三段ジャンプ得意だしね」
「じゃ、俺もにゃ」
カオル君が慌てたようにわたしの手をぎゅっと握り込んでくる。「サクラちゃんと一緒に行動したい」
やだ可愛い。
もちろん連れていくってば! 離れ離れなんて一時であろうと厭だから!
つい、無言のままカオル君を抱きしめると可愛らしい手がばしばしとわたしの腕を叩いた。ギブアップの意思表示である。
「じゃあ、うちの聖獣を連れていって。逃げる時、役に立つから」
やがてセシリアさんが頭上に乗っていた聖獣をこちらに放り投げてきた。
地面の上に転がされた丸い生き物は、また不満げに前足で地面をてしてしと叩く。でも、すぐに諦めてわたしたちの方へ歩いてきた。可愛いけど可哀そう。
「無茶はしないでください」
ミカエルさんが神妙な顔つきでわたしたち三人の顔を見回した。「今日の目的は、あくまで偵察です。危険だと思ったらすぐに戻ってきてください。我々はしばらくこの近辺を見回りますが、最終的にはあなたの店に戻りますので」
「はいはーい」
三峯さんは気の抜けるような声でそう返事すると、わたしたちに『こっちこい』と言わんばかりに顎でしゃくる。そしてその直後、彼の姿がわたしたちの目の前から消えた。
天使アバター、相変わらず動きが素早い。
人間の姿のままだというのに、軽い跳躍で近くの建物の上に移動しているわけだから。きっと、辺りを歩く人間の目には見えないだろう。
それに比べると、わたしの魔人アバターは少しだけ速度が遅い。獣人のカオル君もそうだ。『人』であるものと『人ならざる』天使との違いだろうか。ちょっと悔しいが仕方ない。
彼の後を追って、わたしはカオル君を抱きかかえて地面を蹴る。そして、三峯さんの背中を追った。
聖騎士とかいう奴らだって人間だ。
自分の頭上の建物の上から、見下ろしている視線があることに気づかないようだ。彼らはどこか人目を避けるように街の中を進み、そのままフォルシウスの外へと出ていく。
建物の屋根から屋根を伝って走り、それを見送ったわたしたちはフォルシウスの門から外に出ることをせず、『普通に』街を取り巻く壁を飛び越えて外へ出た。
「やーな感じだねえ」
三峯さんが頭を掻きながら呟く。
街の外に出ると、人影がほとんどないため追跡は難しくなる。身を隠せるのは森に入ってからだから、しばらくは追いかけてはいけない。しばらくこの場所でのんびりと歩き、聖騎士ご一行様が森の中に消えてから一気に走る。
「不法投棄の予感」
カオル君が森に入ってすぐ、そう言った。彼――彼女?――の耳がぴくぴくと動き、遠くの物音を聞いている。
「それと、俺の鼻、凄く利く方なんだけどさ。多分これ、血の匂いだよ」
「やっぱり」
「やっぱり」
わたしと三峯さんの言葉が重なる。三峯さんの目がちらりとわたしに向けられ、「気が合うね」と笑う。
いや、普通、予想はつくよね。
三峯さんとうちのお兄ちゃんが神殿に忍び込んで見てきたものと、現在の状況をつなぎ合わせれば簡単に解る。
神殿内で殺した人間の遺体を、捨てに行くんだ。
多分、そういうこと。
「さて、答え合わせの時間だ」
三峯さんは何故か準備運動でもするみたいに、今更アキレス腱を伸ばしたり肩を回したりする。そして、わたしたちより早く動いた。今度は近くに建物はないから、木の枝を伝って走る。
そしてその途中から、三峯さんの姿が人間から天使へと変化した。
真っ白な服に身を包んで、背中に大きな翼が二枚。無駄に神々しい姿になって、木の枝のないところは空をそのまま飛びながら――。
地面へと舞い降りる。
その頃には、五人の聖騎士たちと荷馬車の御者は、元来た道を戻ってしまっていたようだった。だから、森の奥にあるちょっと開けた場所には、荷馬車から降ろされた積み荷だけが転がっている状況だった。
「こういう場合、何て言ったらいいものかね」
三峯さんは心底厭そうに呟き、地面を見下ろしていた。少し遅れてわたしとカオル君も彼に追いつき、彼の背後で足をとめる。
「俺、天使アバターだけど『アーメン』くらいしか言えない」
「無理して言わなくていいんじゃないですか」
わたしはそう言ってから両手を胸の前で合わせ、目を閉じた。
そして無言のまま祈る。
地面の上に転がっているのは、複数の遺体だ。ほとんどが男性のもので、質素な服装に身を包んでいた。恐れていたほど酷い有様ではなかったけれど、血の匂いは間違いなく漂っている。
でも。
「多分ここ、餌やり場だ」
ふと、カオル君が小さく呟いて、わたしは目を開ける。わたしの横に立っていたカオル君が、そっと辺りを見回して唇を引き結んでいた。
そうやって辺りを見回してみれば、森にある木の幹には、魔物の鉤爪で攻撃されたらしい跡があった。そして、地面の上には――以前からそこにあったのだろう、誰かの衣類の薄汚れた切れ端もあった。
つまり、神殿で人間を殺して、証拠隠滅のためにここに遺体を捨てに来ている。
そしてその遺体は、魔物の餌になる。
でも、何故?
「お前たちは何者だ」
そこに、離れた場所から誰何の声がかかった。多分、わたしだけじゃなく三峯さんもカオル君もその気配には気づいていただろう。ただ、動けなかっただけで。
そっと振り向くと、帰ったはずの聖騎士たちが馬に乗ったままこちらを睨んでいる。その兜に覆われて彼らの目は見えなかったけれど、明確な敵意が伝わってきていた。
「魔物か?」
「獣人もいる」
聖騎士たちは剣を抜き、翼を持つ三峯さんと猫獣人のカオル君に対して、侮蔑のような感情を含んだ言葉を投げてくる。特に、獣人に対する敵意が凄い。空気がびりびりと震え、聖騎士が身に纏う闘気が揺らめくのも感じた。
そしてつい、わたしは言ってしまった。
「人殺し連中に言われたくないですね」
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