31 / 69
第31話 景観という言葉をご存知ですか?
しおりを挟む
「わたし、わたし、幽霊とかめちゃくちゃ嫌いなんですけどー!」
わたしは水鏡の中の光景を睨みつけながら、頭をがしがしと掻き回している。
食事をして、ピアノを弾いて、のんびりとした一日を過ごした後にマルガリータにお願いして村の様子を覗き見したらこのざまだ。何なのこれ、また知らない人が生贄とか言い出してる光景があったんだけど!
「落ち着いてください、シルフィア様ー!」
わたしの背後から、マルガリータが抱き着いてきて池から遠ざけようと身体を持ち上げる。わたしの両足がぶらぶらと宙に浮いたけれど、そんなのもどうでもいいことだ。
「放してマルちゃん!」
「駄目ですー!」
「命令だからね!?」
「あうううう」
マルガリータはそこで凄まじい葛藤の混じる声で唸った後、わたしを地面に下ろしてくれる。でも、せっかく映し出した村の様子を消してしまったようで、わたしの足元にある池は元通りになっていて。
「よし解った」
わたしはフッと笑うと、そのまま踵を返して書庫へと駆け込んだ。背後で「シルフィア様!?」と叫ぶマルガリータと、状況が掴めず呆然としているヴェロニカがいたけど放置である。
「よし、魔法書!」
わたしは書庫の中に立って欲しい本を思い浮かべる。そして、数冊の本を抱えて洞窟の外に出た。だんだん陽が暮れようとしている時間帯で、空の色が赤みを帯び始めていた。そんな空を見上げつつ、魔法書のページを凄い勢いでめくり、断崖絶壁の前に立つ。
ここを事故物件にしてなるものか!
自殺の名所にしてなるものか!
わたしは魔法を使って、何もない崖の上に看板を色々と作り出す。
『ちょっと待て。お前の死は無駄死にだ』
『死ぬ勇気があるなら生きてみろ』
『自然を大切に』
「あの、シルフィア様?」
背後からマルガリータの声が飛んでくる。「景観という言葉をご存知ですか?」
うん、知ってる。
洞窟の入り口から近い崖の上、怪しげな看板が立てられているのは確かに問題があるだろう、景観的に。しかし、そんなことを言ってる場合だろうか。
わたしはマルガリータの言葉は聞き流すことにして、そのまま遥か下の地上へと続く階段へと向かった。手すりのない階段は、雨が降ったり雪が降ったりしたら危険である。
景観が大切だと言うのなら、多少は何かおしゃれにした方がいいのか。
わたしは少し悩んだ後、ただ武骨なだけの手すりをつけるんじゃなくて、お洒落な外国の庭園によくあるような、アーチをつけることにした。葉っぱが生い茂る蔓が絡み合い、赤白黄色、色々な花が咲いている感じに。
そんなお洒落なアーチと花に覆われた階段が出来上がるわけだ。
足を滑らせても崖下に落ちることのない、安全な場所。たまにバラとか観賞用の花じゃなくてキュウリとかナスとかなっているのはご愛敬。植物の生成までできるようになったわたしは無敵である。
あれ?
これでわたしたちは村に野菜を買い出しにいかなくてもよくなる? あ、でも野菜の種類が足りない。あとはトマトとかピーマンも欲しい。
それに、蔦が絡まないタイプの野菜だって欲しい。
玉ねぎやジャガイモは地面に植えないといけないし、キャベツやレタスだってそうだ。もやしも欲しいし枝豆も欲しい。
どこに畑を作ったらいいだろう。さすがに洞窟の中では太陽の光が足りないだろうし――。
「あの、シルフィア様? 何を考えてます?」
「幽霊以外のこと!」
くわっと目を見開いて背後を振り返り、現実逃避の世界から引き戻そうとするマルガリータを睨みつける。そして、わたしはさらに叫ぶのだ。
「大体、崖の上まで勝手に入ってこられるから落ちる人がいるんだ! 階段の下に頑丈な門をつけて、インターフォンもつけよう! 警備会社と契約して、侵入者がいたら排除してもらうんだ!」
「……警備……」
マルガリータは眉間に皺を寄せて可哀そうなものを見るかのようにわたしを見下ろし、ヴェロニカはおろおろとわたしたちの顔を交互に見つめる。
うん、すみません。
ちょっと取り乱しました。
「まあ、予想の範囲内ですかねえ」
ソファに戻って、一息ついた後でマルガリータが言う。「シルフィア様の呪い返しを受けて、どうにかしようと動けるくらいなら元気な方ですよ。放置していてもいいでしょう」
「放置でいいの?」
わたしは首を傾げながら、居心地悪そうに身体を小さくしているヴェロニカを見つめる。彼女もソファに座っているものの、休んだ方がいいんじゃないかと思えるほど顔色が悪くなってきている気がした。
「ねえヴェロニカ。さっきの馬車に乗ってた人、覚えがある?」
「……ええ、はい」
彼女はそう頷いた後で、呪いに苦しんでいるであろう少女がヴェロニカに何をしたのか教えてくれた。
ヴェロニカの妹クリステルと一緒に嫌味を言うだけに飽き足らず、クリステルに命令されるまま、痣ができるほど扇子で殴られたり、床に落ちた食べ物を無理やり食べさせようとしてきたんだとか。
何ですかそれ、完全な『いじめ』じゃないですか。
現代社会だったら自殺の可能性も出てくる事案ですよ。
「……ええと、ヴェロニカは聖女って呼ばれてたんでしょ?」
それなのに、そんなことをしていいの?
わたしが顔を歪めてそう訊くと、ヴェロニカは苦笑を漏らした。
「クリステルがわたしのことを『偽物の聖女』と呼んでましたし、その言葉を絶対だと信じ込むご友人でした。それに、立場の弱い人間を攻撃するのが好きな方のようでしたので……」
「何それ」
それは純粋な嫌悪感だった。
弱い者いじめ。
正直なところ、そういう弱者を攻撃して喜ぶ人間っていうのは、強者には弱いことが多いだろう。もちろん、単純なサイコパス――相手が何であろうと他者を攻撃することが好きな奴もいるだろうけど。
でも、やっぱりわたしはそういうのは嫌いだ。
「ヴェロニカは恨まなかったの? やり返したいとか考えなかった?」
「……そうですね。やり返しても無意味な気がしていました。神殿で神官様のお話を聞くことが多かったのですが、罪を持つものを許すのも、聖職者の仕事なのだとおっしゃっていました。いつか罪ある者は報いを受ける日がくるのだから、正しき者はそれを見守るのが役目だと」
「納得できたの、それ?」
「うーん」
そこで、ヴェロニカは困ったように首を傾げる。「納得……しようとしていました。だってやっぱり、誰かを憎むのは苦しいですから。ただ、これも自己満足なんだと思います。そうやって相手を許すことで、自分が彼らよりも気高い存在なのだと思いたかったのかも」
「やだもう、凄い!」
わたしは思わずソファから降りて、ヴェロニカのところに駆けよった。彼女の痩せた身体に抱き着いて、ぐりぐりと頭を押し付けた。
音楽教室で働いていた時に、表情の暗い子に気づいたことがあった。口数が少なくて、話しかけてもほとんどうっすらと笑うだけの子。その数年前から教室に通ってきていたけれど、最初の頃はずっと明るかったと思う。
でも、その子を受け持っていた先生から聞いたのだ。あの子はここ最近、学校でいじめられているらしい、と。
ピアノを弾きに教室の防音室に入ったはずなのに、ピアノを弾かずにずっとその悩みを聞いていた、と。
先生は何とかその子を力づけようとしたけれど、結局――家族で引っ越ししてしまった。
逃げるしかなかったんだと思う。でも、それでよかったのかもしれないと先生は言った。新しい学校で友人ができたという明るい文章の手紙が届いて、ほっとしたと笑っていた。
「ヴェロニカは逃げずに受け止めたんだね。それって凄いよ。滅多にできないことだと思う!」
「いいえ、逃げる勇気がなかったんです」
彼女はそう慌てて言ったけれど、わたしは――目の前の少女が強い人なんだと純粋に思ったし、それに。
「竜神の神殿の巫女に相応しい、凄い人なんだよ」
わたしがそう言いながら彼女の頬に手を伸ばした時、わたしの指先から熱が広がった。魔力の流れだ、と困惑している間に、触れた指先から光が弾け、ヴェロニカを優しく包んだのが解った。
「あらら、シルフィア様、魔力の成長が早いですねえ」
わたしの背後でのほほんとしたマルガリータの声が響き、小さな笑い声も続く。
うん? とわたしが首を傾げていると、マルガリータが言葉を続けた。
「シルフィア様から魔力を受けたことで、ヴェロニカは完全に巫女にレベルアップしました」
「はい?」
「え?」
困惑したのはわたしだけじゃなく、ヴェロニカもそうだった。そんなヴェロニカの白い額には、うっすらと白く輝く小さな魔法陣みたいなのが浮かび上がっていて。
「多分、あの貴族たちは明日にはこの神殿にやってくるでしょう」
マルガリータはわたしたちを交互に見つめ、指をちっちっと揺らした。「せっかくだから、そこで我が新しい巫女様の初めての役目をはたしてもらうことにします!」
「えっ?」
「元々、神歌持ちの『聖女様』ですよ? ただでさえ凄いっていうのに、白竜神の魔力を得た『巫女様』というジョブに転職したんですから、さらにとんでもないことになってますからね!?」
「いや、あのね? ジョブとか言われてもヴェロニカには伝わらないよ?」
わたしがそう言っても、彼女の耳には届かなかったようだ。
「明日、あの呪い持ちを許すにしろ、さらなる天罰を下すにしろ、我々は見守っていこうじゃないですか! 観戦するために、何かお菓子とか必要ですか? ええと、何でしたっけアレ。シルフィア様の世界の……そうそう、ポップコーン! わたし、魔力で作りましょうか!?」
「いや、あの」
そんな感じでマルガリータが熱く叫びながら拳を握り、ヴェロニカは唇を引き結んで何事か考えこんでしまった。
そしてマルガリータが言った通り、その翌日、彼らはここにやってきたのだった。
わたしは水鏡の中の光景を睨みつけながら、頭をがしがしと掻き回している。
食事をして、ピアノを弾いて、のんびりとした一日を過ごした後にマルガリータにお願いして村の様子を覗き見したらこのざまだ。何なのこれ、また知らない人が生贄とか言い出してる光景があったんだけど!
「落ち着いてください、シルフィア様ー!」
わたしの背後から、マルガリータが抱き着いてきて池から遠ざけようと身体を持ち上げる。わたしの両足がぶらぶらと宙に浮いたけれど、そんなのもどうでもいいことだ。
「放してマルちゃん!」
「駄目ですー!」
「命令だからね!?」
「あうううう」
マルガリータはそこで凄まじい葛藤の混じる声で唸った後、わたしを地面に下ろしてくれる。でも、せっかく映し出した村の様子を消してしまったようで、わたしの足元にある池は元通りになっていて。
「よし解った」
わたしはフッと笑うと、そのまま踵を返して書庫へと駆け込んだ。背後で「シルフィア様!?」と叫ぶマルガリータと、状況が掴めず呆然としているヴェロニカがいたけど放置である。
「よし、魔法書!」
わたしは書庫の中に立って欲しい本を思い浮かべる。そして、数冊の本を抱えて洞窟の外に出た。だんだん陽が暮れようとしている時間帯で、空の色が赤みを帯び始めていた。そんな空を見上げつつ、魔法書のページを凄い勢いでめくり、断崖絶壁の前に立つ。
ここを事故物件にしてなるものか!
自殺の名所にしてなるものか!
わたしは魔法を使って、何もない崖の上に看板を色々と作り出す。
『ちょっと待て。お前の死は無駄死にだ』
『死ぬ勇気があるなら生きてみろ』
『自然を大切に』
「あの、シルフィア様?」
背後からマルガリータの声が飛んでくる。「景観という言葉をご存知ですか?」
うん、知ってる。
洞窟の入り口から近い崖の上、怪しげな看板が立てられているのは確かに問題があるだろう、景観的に。しかし、そんなことを言ってる場合だろうか。
わたしはマルガリータの言葉は聞き流すことにして、そのまま遥か下の地上へと続く階段へと向かった。手すりのない階段は、雨が降ったり雪が降ったりしたら危険である。
景観が大切だと言うのなら、多少は何かおしゃれにした方がいいのか。
わたしは少し悩んだ後、ただ武骨なだけの手すりをつけるんじゃなくて、お洒落な外国の庭園によくあるような、アーチをつけることにした。葉っぱが生い茂る蔓が絡み合い、赤白黄色、色々な花が咲いている感じに。
そんなお洒落なアーチと花に覆われた階段が出来上がるわけだ。
足を滑らせても崖下に落ちることのない、安全な場所。たまにバラとか観賞用の花じゃなくてキュウリとかナスとかなっているのはご愛敬。植物の生成までできるようになったわたしは無敵である。
あれ?
これでわたしたちは村に野菜を買い出しにいかなくてもよくなる? あ、でも野菜の種類が足りない。あとはトマトとかピーマンも欲しい。
それに、蔦が絡まないタイプの野菜だって欲しい。
玉ねぎやジャガイモは地面に植えないといけないし、キャベツやレタスだってそうだ。もやしも欲しいし枝豆も欲しい。
どこに畑を作ったらいいだろう。さすがに洞窟の中では太陽の光が足りないだろうし――。
「あの、シルフィア様? 何を考えてます?」
「幽霊以外のこと!」
くわっと目を見開いて背後を振り返り、現実逃避の世界から引き戻そうとするマルガリータを睨みつける。そして、わたしはさらに叫ぶのだ。
「大体、崖の上まで勝手に入ってこられるから落ちる人がいるんだ! 階段の下に頑丈な門をつけて、インターフォンもつけよう! 警備会社と契約して、侵入者がいたら排除してもらうんだ!」
「……警備……」
マルガリータは眉間に皺を寄せて可哀そうなものを見るかのようにわたしを見下ろし、ヴェロニカはおろおろとわたしたちの顔を交互に見つめる。
うん、すみません。
ちょっと取り乱しました。
「まあ、予想の範囲内ですかねえ」
ソファに戻って、一息ついた後でマルガリータが言う。「シルフィア様の呪い返しを受けて、どうにかしようと動けるくらいなら元気な方ですよ。放置していてもいいでしょう」
「放置でいいの?」
わたしは首を傾げながら、居心地悪そうに身体を小さくしているヴェロニカを見つめる。彼女もソファに座っているものの、休んだ方がいいんじゃないかと思えるほど顔色が悪くなってきている気がした。
「ねえヴェロニカ。さっきの馬車に乗ってた人、覚えがある?」
「……ええ、はい」
彼女はそう頷いた後で、呪いに苦しんでいるであろう少女がヴェロニカに何をしたのか教えてくれた。
ヴェロニカの妹クリステルと一緒に嫌味を言うだけに飽き足らず、クリステルに命令されるまま、痣ができるほど扇子で殴られたり、床に落ちた食べ物を無理やり食べさせようとしてきたんだとか。
何ですかそれ、完全な『いじめ』じゃないですか。
現代社会だったら自殺の可能性も出てくる事案ですよ。
「……ええと、ヴェロニカは聖女って呼ばれてたんでしょ?」
それなのに、そんなことをしていいの?
わたしが顔を歪めてそう訊くと、ヴェロニカは苦笑を漏らした。
「クリステルがわたしのことを『偽物の聖女』と呼んでましたし、その言葉を絶対だと信じ込むご友人でした。それに、立場の弱い人間を攻撃するのが好きな方のようでしたので……」
「何それ」
それは純粋な嫌悪感だった。
弱い者いじめ。
正直なところ、そういう弱者を攻撃して喜ぶ人間っていうのは、強者には弱いことが多いだろう。もちろん、単純なサイコパス――相手が何であろうと他者を攻撃することが好きな奴もいるだろうけど。
でも、やっぱりわたしはそういうのは嫌いだ。
「ヴェロニカは恨まなかったの? やり返したいとか考えなかった?」
「……そうですね。やり返しても無意味な気がしていました。神殿で神官様のお話を聞くことが多かったのですが、罪を持つものを許すのも、聖職者の仕事なのだとおっしゃっていました。いつか罪ある者は報いを受ける日がくるのだから、正しき者はそれを見守るのが役目だと」
「納得できたの、それ?」
「うーん」
そこで、ヴェロニカは困ったように首を傾げる。「納得……しようとしていました。だってやっぱり、誰かを憎むのは苦しいですから。ただ、これも自己満足なんだと思います。そうやって相手を許すことで、自分が彼らよりも気高い存在なのだと思いたかったのかも」
「やだもう、凄い!」
わたしは思わずソファから降りて、ヴェロニカのところに駆けよった。彼女の痩せた身体に抱き着いて、ぐりぐりと頭を押し付けた。
音楽教室で働いていた時に、表情の暗い子に気づいたことがあった。口数が少なくて、話しかけてもほとんどうっすらと笑うだけの子。その数年前から教室に通ってきていたけれど、最初の頃はずっと明るかったと思う。
でも、その子を受け持っていた先生から聞いたのだ。あの子はここ最近、学校でいじめられているらしい、と。
ピアノを弾きに教室の防音室に入ったはずなのに、ピアノを弾かずにずっとその悩みを聞いていた、と。
先生は何とかその子を力づけようとしたけれど、結局――家族で引っ越ししてしまった。
逃げるしかなかったんだと思う。でも、それでよかったのかもしれないと先生は言った。新しい学校で友人ができたという明るい文章の手紙が届いて、ほっとしたと笑っていた。
「ヴェロニカは逃げずに受け止めたんだね。それって凄いよ。滅多にできないことだと思う!」
「いいえ、逃げる勇気がなかったんです」
彼女はそう慌てて言ったけれど、わたしは――目の前の少女が強い人なんだと純粋に思ったし、それに。
「竜神の神殿の巫女に相応しい、凄い人なんだよ」
わたしがそう言いながら彼女の頬に手を伸ばした時、わたしの指先から熱が広がった。魔力の流れだ、と困惑している間に、触れた指先から光が弾け、ヴェロニカを優しく包んだのが解った。
「あらら、シルフィア様、魔力の成長が早いですねえ」
わたしの背後でのほほんとしたマルガリータの声が響き、小さな笑い声も続く。
うん? とわたしが首を傾げていると、マルガリータが言葉を続けた。
「シルフィア様から魔力を受けたことで、ヴェロニカは完全に巫女にレベルアップしました」
「はい?」
「え?」
困惑したのはわたしだけじゃなく、ヴェロニカもそうだった。そんなヴェロニカの白い額には、うっすらと白く輝く小さな魔法陣みたいなのが浮かび上がっていて。
「多分、あの貴族たちは明日にはこの神殿にやってくるでしょう」
マルガリータはわたしたちを交互に見つめ、指をちっちっと揺らした。「せっかくだから、そこで我が新しい巫女様の初めての役目をはたしてもらうことにします!」
「えっ?」
「元々、神歌持ちの『聖女様』ですよ? ただでさえ凄いっていうのに、白竜神の魔力を得た『巫女様』というジョブに転職したんですから、さらにとんでもないことになってますからね!?」
「いや、あのね? ジョブとか言われてもヴェロニカには伝わらないよ?」
わたしがそう言っても、彼女の耳には届かなかったようだ。
「明日、あの呪い持ちを許すにしろ、さらなる天罰を下すにしろ、我々は見守っていこうじゃないですか! 観戦するために、何かお菓子とか必要ですか? ええと、何でしたっけアレ。シルフィア様の世界の……そうそう、ポップコーン! わたし、魔力で作りましょうか!?」
「いや、あの」
そんな感じでマルガリータが熱く叫びながら拳を握り、ヴェロニカは唇を引き結んで何事か考えこんでしまった。
そしてマルガリータが言った通り、その翌日、彼らはここにやってきたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる