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第37話 育ってる
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「新しい朝ー!」
わたしは目が覚めてすぐにネグリジェの格好で洞窟の外に飛び出し、輝く太陽の光を浴びながらラジオ体操をする。
何という爽やかなお目覚め。
目の前に広がる、崖の下の鬱蒼とした森は昨日よりずっと生き生きとして見える。空を飛ぶ鳥の姿ですら、わたしを歓迎しているかのように鳴いている気がした。
ああ、お別れがあるんだと落ち込んだはずのわたしよ、さようなら。
人間、夢や希望を忘れてはいけないのだ。願いがあるなら叶えるために努力しなくてはいけないのだ。
そう、わたしはそういう人間だったはずだ。ここに生まれ変わる前の自分は、好きなことなら全力で取り組む性格だった。まあ、空回りもしていたけれど。
でも、お兄さんをこの世界に呼び込むためにやれることはやっておく!
そう決めたのだ!
「シルフィア様ー?」
目をこすりながら――と言ってもがらんどうの穴しか空いていないのだけれど――マルガリータが起き出してきて、わたしのラジオ体操を興味深そうに見つめている。彼女はわたしと一緒にラジオ体操を真似しようとしたけれど、その頃にはわたしは軽い運動を終えていて、また洞窟内へと足を向けていた。
書庫に飛び込んで、生まれ変わりというシステムの謎を解きたいと思ったけれど、それについて書いてあるものはないようだった。手っ取り早く扉に目印をつける方法なんてないのかもしれない。
それなら、わたしの世界へ続く扉がとんでもなく魔力を発していたらどうだろう?
マルガリータいわく、この世界は滅びかけたせいで魔力が大地にほとんどないんだという。じゃあ、わたしが頑張って魔力を注ぎ込んだらどうよ?
お兄さんのいる、あの夢の世界。そこにある扉からわたしの魔力をあふれ出させるっていう、単純なやり方だ。
と、いうことは。
書庫から飛び出したわたしは、朝っぱらからグランドピアノの前に座って『エリーゼのために』を弾きまくった。それと、練習曲としていくつか。
わたしがピアノを弾くことで、魔力が垂れ流しになって外の森が復活している感じもするのだから、その範囲をどんどん広げていけばいいんだ。
自分の身体から、魔力が抜けていく感覚が確かにあって。
そのやり方を知ると後は簡単だ。
いつの間にか、弾きながら目の前に小さな光が舞い踊るのも当然になっていった。
しかし、やっぱり思うんだけど、前世のわたしよりずっと上手く弾けているような気がする。グランドピアノだから弾きやすいってだけじゃなくて、わたしの手が凄く滑らかに動くのだ。
これはもしや、前世では弾けなかった難しい曲でも弾けるのでは?
と思ってショパンの曲集を引っ張り出してきたけれど、うん、難しいやつは駄目だった。
でも、だんだん超ノリノリになってきて、弾けるやつを次々と演奏していって、気が付いたら。
ぶっ倒れていました。
「やりすぎですう」
マルガリータがわたしを抱き上げて寝室に連れていってくれたけれど、柔らかいベッドの上に横たえられた時に、そういやまだ朝ご飯も食べていないんだった、と気が付いた。
「頑張ってくれるのはいいんですけど、魔力回復が追い付かなくなるまでやるのは禁止です」
マルガリータはそう言いながらわたしの額に手を置いた。ちょっとごつごつした感触が額の上に伝わってきたけど、それが凄く心地よいと感じてしまった。
熱を出して寝込んだ時、おばあちゃんがわたしのことを看病してくれたな、なんて思い出してしまったから。その時の触れ方とよく似ている感じで、マルガリータの手も優しかった。
魔力切れで目も開けていられなくなったわたしは、そのまま眠りについてしまった。そして、どのくらい時間が過ぎた後だったのか解らないけれど。
目が覚めたら、ベッドの脇に新しい服がずらりと並べられていて困惑することになる。
「なんぞこれ」
わたしがベッドから起き上がるとすぐ、寝室のドアが乱暴に開いてマルガリータが飛び込んできた。
「おそようございます、シルフィア様ー! 起きられます? どうします? ご飯にします? お風呂にします? それともわたし?」
「テンション高っ!」
日本でももう随分前に死語(?)となった言葉選びに眉を顰めていたわたしだけれど、マルガリータはそれを気にした様子もなく次々と服をわたしの身体に押し当ててきた。
「シルフィア様は清楚なドレスも華やかなドレスも似合いますものね! でもわたしとしては、可愛いのがいいかなあ。髪の毛も伸びましたし、可愛らしく結い上げましょう。髪飾りはどんなのがいいですかねえ」
「ちょ、ちょっと? 落ち着いて!」
その場で何着ものドレスを腕の中に抱きしめてくるくると回るマルガリータ。
どうやってもそんな彼女のことを鎮静化できないわたし。
と、そこへ新しい声が響く。
「あのう、お食事を作りましたが」
寝室のドアが控えめにノックされ、顔を覗かせたヴェロニカがマルガリータの様子に一歩後ずさってから言う。まあ、確かにまともな人間だったら骸骨がこんな怪しい動きをしていたらドン引きだろう。
わたしは思わずため息をつきながら頭を掻いたけれど。
そこで、あれ、と気づく。
髪の毛、伸びてる。
マルガリータが髪の毛を結い上げると言っていたけれど、確かに邪魔になるくらいの長さだろう。胸の下まで覆う白銀の糸のような髪、そしてその髪の毛の下には――おおおおお、いつの間にか胸がある!
いや、これまでも胸はあったよ?
でも、可愛らしい膨らみが確かにある!
思わず触ったら、ふよふよして気持ちいい。
ああ、まな板生活よ、さようなら! こんにちは、新しいわたし!
さらに、毛布を押しのけて身体を見渡すと、朝に見た幼い身体つきじゃなくて、そこそこ成長して中学生くらいにはなったであろう肉体が存在していたのだ。
「おおおおお」
野太い歓声を上げたのは反省点だ。ネグリジェがミニスカートになっていて、白い太腿とすらりと伸びた足がある。何という、完璧なスタイルだろうか。前世で夢に見た、カモシカのような足とはこのことか!
マルガリータが何でこんなにテンションが高いのか解った。
わたし、育ってる!
そこで、一気にテンションが上がってわたしはベッドから飛び降り、マルガリータとヴェロニカの脇をすり抜けて池へと走る。自分の顔がどんな感じになったのか見るために。
おおおおお、と叫ぶ代わりにわざと可愛らしく声を上げてみる。
「かっわいいー」
水面に映ったわたしの顔は、まさに人形のようだった。整った顔立ちがさらに強調されて、凄く大人びて見える。でも、十代半ばくらいにしか見えないその容姿は、どこか危うさも感じさせる美少女で。
「タケノコさえなければ完璧なのに」
と肩を落とすと、わたしを追って池までやってきたマルガリータが呆れたように声をかけてくる。
「……シルフィア様、気づいてます?」
「え?」
「尻尾も生えてますからね?」
「ふお!?」
何ということだ!
わたしが自分のお尻に手を回すと、そこには左右上下、自由に揺れる短めの尻尾が生えていた。しかも、猫や犬みたいに可愛いやつじゃない。トカゲの尻尾みたいな、太くて立派なやつ! ミニスカートの下にあるからしっかりとその鱗の生えた尻尾の感触も確かめられることができて……わたしはその場にしゃがみこんだ。
「可愛くない……。ここだけ可愛くない……」
それでも、短めの尻尾を前に引っ張ってきて見つめる。白く光り輝く鱗に覆われて、何だか――霊験あらたかな、という言い回しが似合う感じだ。白蛇は神様の使いだって前世では聞いたことあるし。
っていうか、わたしが神だ!
くわっと目を見開いているわたしを見て、マルガリータが続けて言った。
「人間に化ける魔法を教えましょうかねえ」
「えっ、できるの!?」
「その角と尻尾を隠すくらいは簡単ですよ。今のシルフィア様なら自分の姿を誤魔化す魔法を使っていても、それほど疲れないでしょうし」
「やるやるー!」
わたしがマルガリータに思わず抱き着くと、ぎゅっと抱きしめ返された。
「可愛い」
うん、骨が当たって痛いです。
でもやがて、マルガリータはちょっとだけ困ったように笑い声を上げた。
「本当は今日、外出するつもりだったんじゃなかったでしたっけ? もう夕方ですよ?」
「あ、そう言えば」
外出するって言ってましたね、確か。
わたしが曖昧に笑うと、マルガリータはさらにわたしの頭を撫でてから小さく続けた。
「お出かけは明日にしましょうか。ちょっと今日は魔力の放出をしすぎてしまいましたし、明日の朝、人間に変身する魔法をお教えします」
「解った」
そう頷きながら、わたしはそっと辺りを見回した。
わたしががむしゃらにピアノを弾きまくったせいで、魔力が随分と辺りに溢れ出ている。これがお兄さんの世界にまで続いていればいいのに、なんてことを考えながら、わたしはヴェロニカの姿を探した。
お腹がぐうぐう鳴っている。
とりあえず、消費した魔力を食べ物で回収したいところだ。
わたしは目が覚めてすぐにネグリジェの格好で洞窟の外に飛び出し、輝く太陽の光を浴びながらラジオ体操をする。
何という爽やかなお目覚め。
目の前に広がる、崖の下の鬱蒼とした森は昨日よりずっと生き生きとして見える。空を飛ぶ鳥の姿ですら、わたしを歓迎しているかのように鳴いている気がした。
ああ、お別れがあるんだと落ち込んだはずのわたしよ、さようなら。
人間、夢や希望を忘れてはいけないのだ。願いがあるなら叶えるために努力しなくてはいけないのだ。
そう、わたしはそういう人間だったはずだ。ここに生まれ変わる前の自分は、好きなことなら全力で取り組む性格だった。まあ、空回りもしていたけれど。
でも、お兄さんをこの世界に呼び込むためにやれることはやっておく!
そう決めたのだ!
「シルフィア様ー?」
目をこすりながら――と言ってもがらんどうの穴しか空いていないのだけれど――マルガリータが起き出してきて、わたしのラジオ体操を興味深そうに見つめている。彼女はわたしと一緒にラジオ体操を真似しようとしたけれど、その頃にはわたしは軽い運動を終えていて、また洞窟内へと足を向けていた。
書庫に飛び込んで、生まれ変わりというシステムの謎を解きたいと思ったけれど、それについて書いてあるものはないようだった。手っ取り早く扉に目印をつける方法なんてないのかもしれない。
それなら、わたしの世界へ続く扉がとんでもなく魔力を発していたらどうだろう?
マルガリータいわく、この世界は滅びかけたせいで魔力が大地にほとんどないんだという。じゃあ、わたしが頑張って魔力を注ぎ込んだらどうよ?
お兄さんのいる、あの夢の世界。そこにある扉からわたしの魔力をあふれ出させるっていう、単純なやり方だ。
と、いうことは。
書庫から飛び出したわたしは、朝っぱらからグランドピアノの前に座って『エリーゼのために』を弾きまくった。それと、練習曲としていくつか。
わたしがピアノを弾くことで、魔力が垂れ流しになって外の森が復活している感じもするのだから、その範囲をどんどん広げていけばいいんだ。
自分の身体から、魔力が抜けていく感覚が確かにあって。
そのやり方を知ると後は簡単だ。
いつの間にか、弾きながら目の前に小さな光が舞い踊るのも当然になっていった。
しかし、やっぱり思うんだけど、前世のわたしよりずっと上手く弾けているような気がする。グランドピアノだから弾きやすいってだけじゃなくて、わたしの手が凄く滑らかに動くのだ。
これはもしや、前世では弾けなかった難しい曲でも弾けるのでは?
と思ってショパンの曲集を引っ張り出してきたけれど、うん、難しいやつは駄目だった。
でも、だんだん超ノリノリになってきて、弾けるやつを次々と演奏していって、気が付いたら。
ぶっ倒れていました。
「やりすぎですう」
マルガリータがわたしを抱き上げて寝室に連れていってくれたけれど、柔らかいベッドの上に横たえられた時に、そういやまだ朝ご飯も食べていないんだった、と気が付いた。
「頑張ってくれるのはいいんですけど、魔力回復が追い付かなくなるまでやるのは禁止です」
マルガリータはそう言いながらわたしの額に手を置いた。ちょっとごつごつした感触が額の上に伝わってきたけど、それが凄く心地よいと感じてしまった。
熱を出して寝込んだ時、おばあちゃんがわたしのことを看病してくれたな、なんて思い出してしまったから。その時の触れ方とよく似ている感じで、マルガリータの手も優しかった。
魔力切れで目も開けていられなくなったわたしは、そのまま眠りについてしまった。そして、どのくらい時間が過ぎた後だったのか解らないけれど。
目が覚めたら、ベッドの脇に新しい服がずらりと並べられていて困惑することになる。
「なんぞこれ」
わたしがベッドから起き上がるとすぐ、寝室のドアが乱暴に開いてマルガリータが飛び込んできた。
「おそようございます、シルフィア様ー! 起きられます? どうします? ご飯にします? お風呂にします? それともわたし?」
「テンション高っ!」
日本でももう随分前に死語(?)となった言葉選びに眉を顰めていたわたしだけれど、マルガリータはそれを気にした様子もなく次々と服をわたしの身体に押し当ててきた。
「シルフィア様は清楚なドレスも華やかなドレスも似合いますものね! でもわたしとしては、可愛いのがいいかなあ。髪の毛も伸びましたし、可愛らしく結い上げましょう。髪飾りはどんなのがいいですかねえ」
「ちょ、ちょっと? 落ち着いて!」
その場で何着ものドレスを腕の中に抱きしめてくるくると回るマルガリータ。
どうやってもそんな彼女のことを鎮静化できないわたし。
と、そこへ新しい声が響く。
「あのう、お食事を作りましたが」
寝室のドアが控えめにノックされ、顔を覗かせたヴェロニカがマルガリータの様子に一歩後ずさってから言う。まあ、確かにまともな人間だったら骸骨がこんな怪しい動きをしていたらドン引きだろう。
わたしは思わずため息をつきながら頭を掻いたけれど。
そこで、あれ、と気づく。
髪の毛、伸びてる。
マルガリータが髪の毛を結い上げると言っていたけれど、確かに邪魔になるくらいの長さだろう。胸の下まで覆う白銀の糸のような髪、そしてその髪の毛の下には――おおおおお、いつの間にか胸がある!
いや、これまでも胸はあったよ?
でも、可愛らしい膨らみが確かにある!
思わず触ったら、ふよふよして気持ちいい。
ああ、まな板生活よ、さようなら! こんにちは、新しいわたし!
さらに、毛布を押しのけて身体を見渡すと、朝に見た幼い身体つきじゃなくて、そこそこ成長して中学生くらいにはなったであろう肉体が存在していたのだ。
「おおおおお」
野太い歓声を上げたのは反省点だ。ネグリジェがミニスカートになっていて、白い太腿とすらりと伸びた足がある。何という、完璧なスタイルだろうか。前世で夢に見た、カモシカのような足とはこのことか!
マルガリータが何でこんなにテンションが高いのか解った。
わたし、育ってる!
そこで、一気にテンションが上がってわたしはベッドから飛び降り、マルガリータとヴェロニカの脇をすり抜けて池へと走る。自分の顔がどんな感じになったのか見るために。
おおおおお、と叫ぶ代わりにわざと可愛らしく声を上げてみる。
「かっわいいー」
水面に映ったわたしの顔は、まさに人形のようだった。整った顔立ちがさらに強調されて、凄く大人びて見える。でも、十代半ばくらいにしか見えないその容姿は、どこか危うさも感じさせる美少女で。
「タケノコさえなければ完璧なのに」
と肩を落とすと、わたしを追って池までやってきたマルガリータが呆れたように声をかけてくる。
「……シルフィア様、気づいてます?」
「え?」
「尻尾も生えてますからね?」
「ふお!?」
何ということだ!
わたしが自分のお尻に手を回すと、そこには左右上下、自由に揺れる短めの尻尾が生えていた。しかも、猫や犬みたいに可愛いやつじゃない。トカゲの尻尾みたいな、太くて立派なやつ! ミニスカートの下にあるからしっかりとその鱗の生えた尻尾の感触も確かめられることができて……わたしはその場にしゃがみこんだ。
「可愛くない……。ここだけ可愛くない……」
それでも、短めの尻尾を前に引っ張ってきて見つめる。白く光り輝く鱗に覆われて、何だか――霊験あらたかな、という言い回しが似合う感じだ。白蛇は神様の使いだって前世では聞いたことあるし。
っていうか、わたしが神だ!
くわっと目を見開いているわたしを見て、マルガリータが続けて言った。
「人間に化ける魔法を教えましょうかねえ」
「えっ、できるの!?」
「その角と尻尾を隠すくらいは簡単ですよ。今のシルフィア様なら自分の姿を誤魔化す魔法を使っていても、それほど疲れないでしょうし」
「やるやるー!」
わたしがマルガリータに思わず抱き着くと、ぎゅっと抱きしめ返された。
「可愛い」
うん、骨が当たって痛いです。
でもやがて、マルガリータはちょっとだけ困ったように笑い声を上げた。
「本当は今日、外出するつもりだったんじゃなかったでしたっけ? もう夕方ですよ?」
「あ、そう言えば」
外出するって言ってましたね、確か。
わたしが曖昧に笑うと、マルガリータはさらにわたしの頭を撫でてから小さく続けた。
「お出かけは明日にしましょうか。ちょっと今日は魔力の放出をしすぎてしまいましたし、明日の朝、人間に変身する魔法をお教えします」
「解った」
そう頷きながら、わたしはそっと辺りを見回した。
わたしががむしゃらにピアノを弾きまくったせいで、魔力が随分と辺りに溢れ出ている。これがお兄さんの世界にまで続いていればいいのに、なんてことを考えながら、わたしはヴェロニカの姿を探した。
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