夢見る竜神様の好きなもの

こま猫

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第65話 お祭り?

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「新しい朝ー!」
 わたしは夜が明けてすぐの時間帯、冷えた空気を浴びながら大きく深呼吸をする。
 ジャービスさんの家の庭はそれなりに広い。でも、家を取り囲む塀は高くない。だから、すぐ横の細い道もしっかり見えたし、そこに誰もいないことも見て取れた。
 とはいえ、あまりにも気が抜けていたせいなのか、気づいたら夜着代わりのワンピースの裾から竜の尻尾がぱたぱた揺れていたようだ。
 そこはさすがわたしの守護者マルちゃん、背後から礼儀正しくマントでわたしの身体を包んでくれた。
 いけないいけない、と思いながらタケノコと尻尾を収納。完全な人間の姿に変身しつつ、ジャービスさんの家の方を振り返った。

 ジャービスさんの家は木造二階建てで、中は結構広かった。元々は一人暮らしではなかったんだろうと思ったのは、ジャービスさんの寝室の他にも二部屋、シーツがかけられたまま埃をかぶっていたベッドがあったからだ。
 ちょっと水を向けたら、亡くなった奥さんの部屋なんだって。それと、家出した息子さんの部屋。
 その部屋を使ってくれと言われたけれど、わたしには『必殺・布団は自給自足』という技がある。こちらの人数分の布団を次々と床に放り投げていくと、ジャービスさんが目を丸くしていた。
 まあ、奥さんと息子さんのベッドを使うのが申し訳ない気がしたし。
 そして多分、家出したという息子さんの帰りを待ってる感じも伝わってきた。だからこの街に疫病の噂が出ても、逃げなかったんだろう。年齢とか寿命のことを抜きにしても。

 そして、ご飯を食べながら色々と話をした。
 ご飯のメニューはわたしとヴェロニカ特製の野菜たっぷりシチューやチキンのグリル、焼き立てパンと果物。
 やっぱり、わたしが作った料理を口にするとこの世界の人たちにはちょっと変化があるらしい。今日会ったばかりだというのにジャービスさんの警戒心はすっかり消え失せていて、魔力という栄養を取ったからか顔色もよくなって肌がつやつやしている。

 この様子なら大丈夫かな、と思ったので、寝る前にこちらの正体をばらしておいた。
 生贄にされそうになった聖女ヴェロニカと、その愉快な仲間たち――いや、わたしは神様です! って言ったら、ジャービスさんはぽかんとしていた。とても信じられないと言いたげな表情だったから、タケノコと尻尾を見せたらその場に跪いて頭を下げようとしたので、慌ててそれを引き留める。

 で、夜が明けた今現在。
 家から出てきたジャービスさんは、明らかに寝不足のようだった。
 寝ぐせのついた髪の毛を乱暴に掻きつつ、何やら興奮冷めやらぬといった様子でため息をつく。
 そんな彼をもう一度家の中に追いやって、朝食を作ることにした。
 わたしたちの護衛五人組も目を覚ましていて、それぞれ顔を洗ったり身支度を済ませている。そして、今日一日のやることを再確認、というわけだ。

「やっぱり、神殿に行くのが一番簡単だと思います」
 ヴェロニカはささやかに右手を上げてそう言った。「神殿には知り合いの神官様もいらっしゃいますし、神歌を捧げたいと言えば受け入れてくれると思うんです。それに、わたしが生きていることも伝えたいし……」
「確かにそれがいいかな」
 わたしはそれに頷いて、皆の顔を見回した。
 護衛五人はわたしたちの意見に逆らうことはないし、何でも手伝います、というスタンス。
 そしてずっと言葉を失っていたジャービスさんも、だんだん頭が働くようになってきたのか表情を引き締めてこう言った。
「俺も手伝えることがあるなら何でもする、いや、しますが」
「おお、ラッキー!」
 わたしは手を叩いて歓迎する。「お手伝いは大歓迎! お祭りみたいにしたいね!」
「らっき……? お祭り……」
 そんな困惑するジャービスさんを引き連れて、わたしたちは神殿に向かうことにした。

 初めてこの世界の『普通の』神殿を見た時の感想は、『世界遺産?』だった。
 街の外れにあるその建物は、とにかく大きく、真っ白な石で建造された美術品、といった感じだったのだ。
 太い石柱が何本も立てられ、巨大な屋根を支えている。その壁一面の彫刻はどうやって彫ったんだろうね、と思うくらい高い位置まで覆っている。
 巨大な石の扉が正面玄関として作られているようだけれど、それは開け放たれていて幾人かの人たちが出入りしているのも見えた。
 真っ白な神官服に身を包んだ、細身の男性たち。
 そして、シンプルなデザインのドレス姿の女性たち。
 その全員が、玄関を出入りするたびに建物の中に向かって頭を下げていた。

「神官様と聖女様たちですね」
 わたしのすぐ横に立ったヴェロニカがそう説明してくれる。さらに、神殿の横にある宿舎のような建物を指さして続けた。
「あれが神殿にいる人たちの宿舎で、神官様、聖女様、神殿で働く人たちが寝泊まりしています。家のない孤児たちも引き取っていまして、幼いうちからここで教育を受けます。将来、独り立ちできるように」
「なるほど」

 わたしが神殿を見ながら小さく唸っていると、少しだけその建物からキラキラした光が空に向かって登っていくのも見えた。
「浄化が追い付いていませんねえ」
 そこに、マルガリータが口を挟む。「やっぱり、神官も聖女も魔力不足なんです。大地に広がる前に消えてしまう。うちのヴェロニカは神歌持ちですからいいですけど、ここにはヴェロニカを超える能力持ちはいないみたいですし……」
「なるほど、解った」
 私は胸をどんと叩いてこう宣言する。「ではこれより、魔力不足の人たちに魔力を与えよう作戦、始めます!」

 ――そして。

「聖女様……?」
 わたしたちの前には、言葉を失って硬直している神官様たちがずらりと並んでいて。そこに集まってきた聖女様たち、召使として働いている少年少女たちから広がる声が凄まじいざわめきへと変化していったわけだ。
 まあ、手っ取り早くわたしがタケノコと尻尾を生やして見せたし、マルガリータが甲冑の面を上げて骸骨の顔を覗かせたからね。
「え? 聖女ヴェロニカ様……」
 神官様の中でも一番位の高そうな男性が、すぐに我に返って感極まった声を上げた。「よくぞ、ご無事で……」
「ご心配をおかけしました、サムエル神官様」
 ヴェロニカもまた、泣きそうな顔でその神官に話しかける。その声音から、二人がしゃんとした信頼関係にあったことが窺い知れた。
 そしてヴェロニカは、笑顔でこう言ったのだ。
「わたし、シルフィア白竜神様の巫女として認められました。そして、この街の浄化をするために来たんです」
 さらにざわめきが大きくなった。
 そして、次々に彼らがその場に膝をついて、わたしに向かって頭を下げてくる。
 ちょっと慌てたけれども、気分がよかったのも事実だ。
 何と言うか、こう言いたい。苦しゅうない、面をあげい!
 まあ、実際にはささやかなサイズの胸を張っただけで言わなかったけどね!

「シルフィア様、これ、そろそろ焼けたっすかね?」
 レオ君が巨大な石窯を覗きながらパンの焼け具合を確認している。
 シャークさんたちも凄まじく真剣な顔で野菜を洗ったり切ったり。ジャービスさんも体力を使う重労働は率先的にやってくれている。
「切った野菜はどこに?」
「あ、こっちの桶に入れてくださいー」
 こんな感じで今、その神殿で働いていた料理係の人たちと一緒に、わたしは調理を開始しているというわけだ。できれば、この街に残っている住民全てに行き渡るくらい、たくさん作りたいんだよねえ。
 これから派手にヴェロニカが神歌を歌い、わたしも魔法を使って盛り上げる。きっと大人数が集まる集会になる、というかお祭りにしたい。
 お祭りというからには、屋台も必要よね、というわたしの勝手なイメージから、炊き出しみたいなことをやることにした。

 宿舎にある調理室は、さすがに大人数に対処できるよう広かった。調理器具も充実していたし、竈もいくつもある。
 わたしはテンションアゲアゲで、唐揚げも揚げている。
 やっぱり唐揚げよ唐揚げ。唐揚げを嫌いな人間などいません。
 本当なら焼きそばとかたこ焼きとかお好み焼きとかやりたいけど、さすがにそこまでは準備期間が足りない。
 なので、今回提供する料理は――唐揚げバーガーである。
 大量に焼いたパンに、野菜と唐揚げを挟んで甘辛くした醤油ソースもつける。それを紙袋に入れて配るわけだ。

 出来上がった唐揚げバーガーの包みを木箱に入れて、それを台車の上にどんどん積んでいく。
 調理場の様子を見に来た神官様たちも、ちょっと呆然としていた気がするけれど気にしない。
 まずは、その場にいる人たち全員に唐揚げバーガーを配り、食べてもらった。「白竜神様の手作り……?」と泣いている人たちもいた。待って、ちょっとそれはわたしも恥ずかしい。

 ――そして。
 さすが神官、聖女。
 自分の魔力というものを感じ取れる人たちの集まりだから、唐揚げバーガーに含まれたわたしの魔力を体内に入れたことで変化を感じ取ったらしい。
 またその場に膝をついてわたしに向かって拝み始めたので、慌てて彼らを立ち上がらせた。

 まあ、そんなこんなで準備は完了。
 これから神様と巫女のお仕事開始、というわけだ。
 わたしとヴェロニカは舞台に立つ女優さながら、服装も着替えていた。これからわたしたちは、疫病の噂を吹き飛ばすためのパフォーマンスをする。何も知らない人たちの前に立つのだから演出は重要だ。
 マルガリータは相変わらず甲冑の姿だったけれど、やる気だけはわたしたち以上だったと思う。っていうか、わたしが気づくのが遅れたせいで、気合入りまくりのマルガリータが神殿の建物の前にゴージャスな舞台と雨避けの屋根、さらにグランドピアノを舞台に設置して、その場に倒れこんでいた。

 ――これぞ様式美!?
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