夢見る竜神様の好きなもの

こま猫

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第66話 舞台の上で弾ける光

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 とまあ、そんな様式美はさておき。

 わたしはシャークさんに手伝ってもらいながらマルガリータの身体を引っ張り上げ、舞台の前に置いた椅子に座らせた。
 魔力回復するまでそこで見物してて、と彼女に言うと、相も変わらず身体を怪しくくねらせる。
 そんな様子を見ていたシャークさんが、わたしと一緒に舞台の方へ歩き始めながら困惑したように首を傾げた。
「もしかして誤解かもしれないとは思いますが……まさか、お二人は『そういう関係』で……?」
「え?」
「言い伝えなどでは聞いたことないのですが、竜神様と守護者様というのはもしかして恋愛関係に」
「ないから」
「ああ……そうか、そうですか」
 ぼりぼりと頭を掻いたシャークさんを見上げながら、なるほど、他人から見ると『そういう』ふうに見えるのかとちょっとだけ慌てていた。
 ちょっと気を付けようと頭の隅で考えた時、少しだけ何か引っかかったような気がしたけれど……神殿の敷地内が騒々しくなってきたことでその違和感のことを考えるのは後回しにした。

 神官さんたち、聖女様たち、そしてその神殿で働いていた少年少女、大人全員勢揃い。
 神殿の正門の前は、完全にお祭りの様相を呈していた。
 マルガリータには魔法を使うことを禁止して、わたしが頑張ったのだ。唐揚げバーガーを配る屋台、料理人さんたちが急いで作ってくれた焼き菓子や、瓶入りの果実水を並べたテーブル。
 舞台の前にずらりと並んだ椅子などを見ると、ちょっとしたロックフェスみたいに思える。
 少年少女たちが神殿の正門前で「これから浄化の儀式を行います!」やら「神歌を聴きにきてください!」やら大きな声で叫んでいると、街に残っていた人たちが少しずつ家から出てきたようだった。

 まあ、人が集まるまで待っていることもない。
 わたしは先に舞台の上に上がり、グランドピアノに触れる。
 いいよね、ファンタジー世界の楽器って調律とか必要ないんだもの。普通だったらちょっと場所を移動しただけでも音が狂うものなのに、いつだって正確な音色が出てきてくれる。
 でも残念なのは、音量だろうか。
 コンサートホールみたいに楽器の音を反響させるものがないから、ただ四方八方に広がるだけ。きっと遠くまでピアノの音色は届かないだろうから、マイクとかスピーカーとか欲しいよなあ、と思いながら必死に頭の中でイメージして。

 気が付いたら、地面からどん、どん、どん、という感じで細長い棒が生えていた。黒いモノリス……いや、電源を必要としない魔道具みたいなミキサー内臓のスピーカー?
 ちゃんとヴェロニカ用のマイクも、それを支えるブームスタンドも、ピアノの音を拾うためのやつも出現。
 何だか懐かしい。音楽教室で発表会をやった時のことを思い出す。裏方の仕事は楽しかった。そんな記憶を呼び覚ましながら思うのだ。わたし、天才じゃなかろうか。これがチートか。わたしが神だ。

 神官さんたちと打ち合わせ中のヴェロニカは放置しておいて、わたしはそのままピアノの椅子に腰を下ろす。
 指慣らしのために簡単な曲を弾くためだ。
 やっぱりいいよね、ピアノって。ペダルのないクラヴィスよりもずっと、表現力があって心が躍る。
 まずは、南の竜の神殿にいる時に練習として弾いた曲を中心に数曲。お約束として猫ふんじゃったも弾いた。
 さすがに、ここでエリーゼのためにを弾く雰囲気じゃないから、ちょっと静かな曲のメロディを思い出しながら魔力も乗せて奏でていく。
 もしわたしが天才ピアニストだったら、もっと難しい曲だって弾けたんだろうけど、前世の自分はそうじゃなかった。その自分が今のピアノの腕に反映しているというのも残念。
 でも、ピアノを弾いていると楽しいというのが重要で。
 だんだん、目立つ舞台の上で弾いているという自覚も消える。

 そうしているうちに、少しずつ舞台の前に人が集まっていて。
 マルガリータが一番前の椅子に座ってぱちぱちと手を叩き。
 何が起こるのかとそわそわしつつ椅子に座った人たちにも果実水やら焼き菓子やら唐揚げバーガーが配られていた。

「竜神様の復活をお祝いいたします」
 そんな神官様の声でわたしは我に返る。
 すみません、ちょっと自分の世界に入ってました。
 鍵盤から視線を外して上に上げると、ピアノの上にキラキラした光の粒子が踊っているのが目に入る。
 神官様――ヴェロニカと親しいサムエル神官様が舞台に上がっていて、わたしに向かって膝をつき、頭を下げた。

 ――え、あ。
 もうイベント始まってる!?
 わたしは思わず椅子から立ち上がり、挙動不審になりながら舞台の下を見下ろして一礼。

 サムエル神官様がそこで静かに立ち上がり、舞台の下にいた他の神官様、聖女様たちを呼ぶ。その最後尾には竜の神殿の巫女の格好のヴェロニカも。
「集まってくださった皆様、まずはご一緒に竜神様を称える歌を」
 サムエル神官様がそう言って、舞台上の人たちに合図を送る。
 そして、どうしたらいいのかと困惑していたわたしをよそに、彼らは歌い出した。讃美歌のような、静かで厳かで、耳に心地よい歌。
 メロディは単純だな、と思いながらわたしはもう一度椅子に腰を下ろし、その和音を探しながらピアノの鍵盤を叩く。

 自分が意識しなくても、鍵盤の上に光が躍った。それはわたしの魔力が順調に振りまかれている証拠だ。
 散った光はそのまま美しく弧を描き、宙を舞った後に空や地面へと降り注ぐ。
 これも花火みたいだな、と思ったら余計に楽しくなった。

 どうやら今歌っている歌詞は一般の人たちにもよく知られているようで、気が付いたら集まった人たちも一緒に歌い始めている。最初は小さな声がどんどん大きくなっていくのは、何だか感動的でもある。

「皆様に竜神様のご加護を。ここに今、白竜神シルフィア様が降り立たれました。この世界の平和と安寧をお約束される証として」
 歌が途切れた時にサムエル神官様の言葉が続いたけれど、横目で見た舞台の下の様子は困惑気味である。
 そりゃそーだ。
 いくらなんでも、そんなことを言われてもそう簡単には頷けまい。
 だってわたし、まだ人間の格好をしているし。普通の――普通の意味が解らなくなるかも――美少女だし。

 それならば。

 わたしはそこで派手な演出を思い浮かべる。疑り深い人たちも納得できる演出とは何か。

 魔法少女の変身シーン。
 短絡的だし馬鹿かもしれないけど、そんな感じだった。

 みんなの前でわたしの身体の周りにまばゆい光が弾け、人間の姿から竜神としての、一目で人間ではないと解る姿へと変える。ヴェロニカが着ているような、巫女みたいな白い服と、神々しいという勝手なイメージでキラキラ光るサークレットもつける。
 とりあえず光り輝いていれば神々しい。
 というわけで、頭に生えた角二本も、スカートの下から覗く尻尾の先端も、どこもかしこも光っているわけだ。
 そこでヴェロニカもわたしに近づいてきて、そっと神歌の始まりの合図を送ってくる。
 ヴェロニカ以外の人たちは空気を読んだように舞台から降りていき、わたしとヴェロニカだけの演奏会が始まった。

 舞い踊る光の粒子はさらに大きく、縦横無尽に空を走り回る。
 ヴェロニカの歌声が広がれば広がるほど、その場の空気が綺麗になる。これが浄化だ。その歌声を聴いた人たちの表情も明るくなり、興奮を示すかのようにその頬が紅潮していく。
 神殿の庭に生えていた木々が揺れ、枝を伸ばし、葉がみるみるうちに生い茂る。
 鳥の姿も少ないこの世界だけれど、いつの間にかその木々に集まってきて神歌に合わせて鳴き始める。こういうの知ってる。海外の某有名なアニメとかでよくあるやつ!

 当然のことながら、誰もかれもがその様子に驚いていて、わたしが予想していた以上にその効果は抜群だ!
 唐揚げバーガーを食べつつものほほんとしていた人たちが、完全に硬直して舞台の上を見つめ、その一瞬後に色々な叫びが響いたのだった。

「一体何事が……」
 遠くからそんな声が聞こえるのは、わたしの耳が人間より遥かにいいからである。
 神殿の門のところで、ちょっとお高そうな――騎士服だろうか、輝くような甲冑を付けた男性たちが困惑したようにこちらを見つめていた。
 そんな彼らにも、屋台に立っていた少年少女が唐揚げバーガーやら果実水を配っていく。皆、呆気に取られていたのか何の疑いもなくそれを受け取っていて、舞台と自分の手元を交互に見やるその仕草がちょっと可愛かった。
「騎士様、白竜神様の復活のお祝いと、神歌を捧げる儀式の途中なのです。ここには白竜神シルフィア様がいらっしゃっているのです」
 聖女様の一人が彼らに近寄ってそう声をかけたことで、彼らの間にもざわめきが生まれた。
「シルフィア様が……?」
 騎士の一人がそう言いながらもう一度視線を上げ、わたしが彼らを見ていることに気づいたみたいだった。そして、わたしの頭上に生えたキラキラ光るタケノコに目をとめると、その口がさらに大きく開かれた。
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