チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號

文字の大きさ
166 / 182
第2章

第百六十五話 わがまま

しおりを挟む
 トーアと名乗る男は少しの間黙り込み、俺をじっと見つめる。

「……カラルさんだけではなく、アキトさん、あなたも特別でしたか……そのとおりです。俺のしてきたことはあまりに有名すぎて、本名を名乗ることをここ数百年していないんだ。いかにも俺はあのラッテだ……」

「ええっ!?」
「噓!?」

 ルーミエとユウキは驚いていたが、一人納得していたカラルが指摘する。

「ラッテさんと竜人族のお二人は傀儡……そして獣人族のあなたは魔の者で三人の操者ね」

 なるほど、レベルは操者を超えることはできないから低く、加えて年齢が出なかったのか……。

「ご明察だ……襲撃の情報を聞いて、隣街にいた俺たちは防衛するためにここに来た。
 そしてフェモが今朝、早くに起きて言うんだ『強力な魔族が来た』ってね。襲撃が来たことを察知したと思い、急いで準備をして、街に飛び出した」

 カラルがルーミエと転移魔法でやって来たときの話だな。

「それでも襲撃が始まった様子はない……力を感じる方へ向かうと、この宿にたどり着いたんだ。何も起こらないのに乗り込むわけに行かないので、そのまま待っていたら、日が昇るくらいにあなたたちが出てきた。姿を見て街を襲う気配もなくて、安心したよ。フェモの怯え方が尋常ではなかったからね……」

「それでその後もずっと、つけてたってわけか……」

「転移魔法陣に入っている時はわからないが、この街で起こったことは見ていた。あとをつけるような真似をして悪かった……」

「……いや、別にかまわない」

 跡をつけられていることは全く気が付かなったし、街を守りたいという思いは一緒だったはずだ。ラッテは複雑な表情を浮かべる。

「ここからが本題だ……実は獣魔族のフェモがあまり長くなく、もうすぐ寿命を迎える。キアートを一人にしたくないという俺のわがままのために、寿命を無理やり延ばしているんだ……」

 今もまだ迷っているラッテの言葉に続くようにフェモが願いを口にする。

「……おねがいカラル様。私たちを支配してほしいの」


 ここで言う支配とはカラルのモンスター・コアに入り傀儡として生命を存続させたいということだ。ダンジョン都市ドルトミア地下の三十二あるダンジョンを作り出したロンダールもしかり、この世に未練がある奴はこういった方法で寿命を延ばそうとする。

 長寿命のエルフを一人残して死にたくないということか……この問題は俺たち家族にもいえることで、俺とカラルは特殊な宝具”契りの寝具”で魂を同化しているため、俺は千年以上の寿命を手に入れた代わりにカラルは寿命を千年減った。レイラは八分の一はエルフの血が流れているのでその寿命は二百年ある。ルーミエとユウキは八十年くらいで寿命となる。生身のまま寿命が延びるのであればそれが一番なのだが、カラル以外の三人の寿命を延ばす方法の一つとして傀儡として支配するのもアリだと思っている。

 フェモから願われたカラルが答える。

「あら、素敵じゃない。夫婦が最後の時まで一緒にいることを願いとされるなんて……でもその見返りはご用意されているのかしら?」

 シビアに思えるが、その生命を維持させるにも精気の収集が欠かせないため、タダでいいなんてそんな虫のいい話はなく、その見返りは必要不可欠だ。

「金、武器、装備、戦力、なんでも聞き入れるつもりだよ」

 ラッテもそのあたりは心得ているようだ。

「……でもラッテさんが思っている以上にウチは過酷かもしれませんわよ、ねぇアキト様」

 そんなにハードルを上げるなよ。

「……ああ、覚悟はできている。頼むカラルさん!!」

 思いつめた表情をするラッテ一行。カラルもそんなに引っ張らないでOKしちゃえばいいのに……。

「ラッテさん、今わらわたちが一番求めているものは、戦力なの。それも個体能力が高ければ高いほどいいわ」

「それなら——」

「それでもわらわでは恐らくあなたの能力を最大限に活かすことはできないわ……」

「そ、そんな……」

 竜人族のチノが険しい表情で詰め寄ろうとするのをコアが止めている。

「我が夫アキト様の力があれば、可能かもしれないのよ」

 え!?初耳なんですけど……。

「彼は人族なのでは?」

「そうよ、わらわの術で魂を同化させたの」

「そ、そんなの聞いたことないわ」

 フェモが力なく否定する。カラルの兄、アールマー特製の豪華なベッドでアレをすると魂が同化するなんて考えもつかないだろう。

「まあ、アキト様の力は言うよりかは見せた方が早いのだけれど、今晩に準備をして、明日に試験を行って結果発表とします」

 何だか面接官にでもなった気分だな。相手は伝説の冒険者だぞ……。ルーミエとユウキなんて声には出していないが、表情が仲間になってほしいと言わんばかりだった。

 明日の朝この宿で待ち合わせることを伝えて、ラッテたちと別れた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件

おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。 最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する! しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...