おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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魔王城の日常

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「暇だ」

魔王城の最奥に位置する大広間。
そこには純金の燭台に、緻密に編まれた絨毯、そして贅の限りを尽くされた重厚な存在感を放つ大きな玉座が奥に鎮座してある。
そこに頬杖をつき足を大きく広げているのは、何を隠そう世界を恐怖に陥れている魔王その人であった。
存在感を消すようにして傍らに佇むのは執事であるヤギ系魔族のアルファイン3世。

「暇、おおいに結構ではありませんか、魔王様。それは我々の支配が順調であることの顕れです」
「だがなアルファインよ、にしてももうちょっと何かあっても良くないか?」
「と申しますと?」
「先代の魔王が崩御なされて120年。我は頑張った、うん、超頑張ったよ魔族のために。一度は人類に滅ぼされかけた、各地へ散り散りになった魔族を一生懸命に集めて、もう一度世界征服目指さないかと、ひとりひとりに声かけてさ、そりゃもう売れない吟遊詩人の地方営業ばりに頑張ったよ。途中でさ、あれ魔王ってこんなんだっけ?って疑問に思ったこともさ、いまでは良い思い出、下積み時代あってこそ、部下から慕われるいい上司になれるんだもんな。でもさ、ちょーーーっとばかりさ、やり過ぎた感が否めないよね、この現状を見ると。だってさ魔族を盛り立ててさ、この地に根を張り安住を始めて早90年、毎日、毎日、この玉座に座って勇者待ってるんだよ、我。それって、なんかおかしくないか。世界を恐怖のどん底に陥れている魔王がさ、勇者を毎日毎日、皆勤賞で待っているんだよ、なんかおかしくない。だというのにさ、部下が優秀すぎるせいでさ、90年だーれも来たことないんだ、なんだか矛盾してるよね。もうさ、我ここで待つ必要なくない?部屋で寝てても良くない?魔王城の入り口についたら、誰か教えてくれればいいじゃない。マジで、いやマジで暇なんですよこれ、仮に勇者の策略だとしたら見事なもんだよ、効果抜群だよ!!!!」

執事のアルファインはヤギ顔をピクリとも変えることなく、魔王の白熱した捲し立てを聞き終え、一言発した。

「申し訳ありませんが、それが魔王の職務ですので」
「おーーい、変わろうぜアルファイン、お前が魔王やれよ。我、飽きたよ魔王!」
「いえ、私、戦闘向きではございませんので」
「戦闘力なんて必要ないよ、だってこないんだもん勇者、前回から120年も来てないんだもん。今代の魔王に必要なのは戦闘力じゃなくて忍耐力だよ!執事には忍耐力必要だろ、お前にぴったりじゃん!」
「忍耐力のない魔王様には執事は無理でございます」
「もぉぉぉーーー、あーーいえば、こーーいってーー!!じゃあ、命令だ交代しろ!!」
「嫌です」

どこぞの武器屋みたいに駄々をこね始めた魔王にきっぱりと拒否を示す執事。
魔王は「俺って本当に魔王だよな?」と約1時間ほど自らを疑問視することになる。


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