おいでよ、最果ての村!

星野大輔

文字の大きさ
18 / 168
第1章 最果ての少女

はじめての街6

しおりを挟む
ユークリッド聖貨幣。

運を味方に付ける魔法の貨幣。
それはおまじないのような不確かなものではない。

これを以てして財をなしたものは幾人も伝説になっている。

古代ナーグの奴隷王、カフス森林の賢者、ドグラマルス帝国の三賢人、覇者セイヤ、魔王ダース。
良くも悪くも世の中を手中に治めたものばかりである。

現存しているのは三枚。
西の豪商ララバイ、カインズ国の王室、バーゲン盗賊団が所持している。

かつては12枚あったそれだが、9枚は失われてしまった。

確かなその魔法の力、誰しもが得たいと考える。
そう、聖貨幣をめぐり戦争が起こるのは必至。

幾つもの手に渡り、徐々にその姿を失った伝説の貨幣。




それがふたりの目の前に6枚あるのだ。
周囲にバレれば確実に戦争が引き起こされるだろう。
その前にちーちゃんの身柄は無事ではすむまい。


「ちーちゃん、すぐそれをしまうんだ!」
「ああ、嬢ちゃん、取りあえずしまってくれ」
「もしかして足りなかったの?」

しょぼんと落ち込むちーちゃん。
足りないどころではない、街そのものを購入出来てしまう。

「贋作では、ない…か」
「姉さん、あんたも見たろ、あの細工。
 噂に伝えられるよう、あれは人の手では作ることは出来ないぜ」


どのようにして作られたのかは不明。
再現を試みようとするものは多くいたが、そのひとかけらも再現させることは叶わなかった。

多少目利きのあるものであれば、本物かどうかはわかる。



さて、なぜちーちゃんがそのような代物を持っているのか。
答は簡単。
この貨幣こそ、村で流通している貨幣なのだから。

彼の最果ての村には様々なものが流れ着き忘れ去られていく。
この貨幣もそのうちの一つ。

本来あの村には貨幣など必要はない。
なぜなら村長よりみな役割を与えられ、必要なものは分配されている。
どの職業も半ば趣味、最悪なくても自活できてしまうのだみんな。
貨幣はおままごとに等しい、文明社会を少しでも感じさせようと導入させているものである。
たまたま、ユークリッド聖貨幣がきれいに5000枚ほど残っていたから使ってみた。ただ、それだけであった。

また、ちーちゃんの父ブンタ曰く。

「お小遣い上げるって、なんか父親らしいじゃん!」らしい。

ともかくそうして手に入れたちーちゃんのお小遣いは、村では洋服一枚分程度の値打ちしかない、歴史性も魔法の特殊性も鑑みられない、ただの貨幣である。

もし聞くものが聞けば発狂ものであろう。



そんなことはしらない二人。

「ちーちゃん、取りあえずお小遣いを上げるから、それでネックレスを買うといい。
 だから絶対にさっきのお金はだすんじゃないよ」
「えっいいの??
 ありがとうアリスお姉ちゃん!!」

ちーちゃんは無事にネックレスを買えてご満悦。

アリスはといえば顔面蒼白である。
ただでさえ魔族に街道を封じられ孤立しているのに、こんな火種を放り込まれたら殺しあいがはじまってしまう。


またひとつ心配の種が増え、頭を痛めるアリスであった。


そのせいか、アリスは見逃していた。
目の前の露店商人の怪しい笑みを。



しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...