おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第1章 最果ての少女

ラックの予感

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「ちっ、やっぱりいやがったか!」

トトリの街南門には、普段常駐しているはずの警邏の姿がなかった。
今回の襲撃、あまりに単純すぎるとラックは考えていた。
いくら相手が何か焦っていたとはいえ、ただ馬鹿みたいに攻める事があるだろうか。
あれは陽動ではないのか。

そうした場合、本隊はどこから来るのか。
単純に考えれば、もう一方の門がある南側からだ。

この街の防壁はあくまで野生の魔物たちを寄せ付けないためのものであり、それなりの技能を持ったものならば簡単に乗り越えることができる。
警邏隊は廻っているが、街全周を常時確認するなど不可能。

つまり、魔族が街の中に忍び込んでいたとしてもおかしくはない。
やつらは真っ先に南門を制圧しにかかるだろう。

だが、疑問に残る事もあった。
話に聞く限り北門に集まっている敵勢力はかなり多い。
南門から残り勢力がくるとしても大した数ではない。
意表を突くには心もとない数。

「いた、あそこだな」

だが、実際にやつらはいた。
門を開ける為の滑車を動かしていた。

「3人か、ひとりで相手するにはちょっと骨が折れるな。
 ここは街の税金で暮らしている方々に働いてもらうか」

ラックは一般人を装い、近くの警邏事務所に駆け込んだ。

「み、み、南門に魔族が忍び込んでいたぞ!
 はやく追い払ってくれ!」
「なに、その話本当か!?
 お前ら準備でき次第南門に向かうぞ!
 新人は本部へ連絡を入れろ」

一報を聞くなり、素早く動き出す警邏隊。
通常であれば、こんなに機敏ではないのだが、いまは非常事態発令がだされている。
例え普段怠慢なものたちでも、いまばかりはまじめに働くはずだ。

彼らを見送るとラックは再び南門へ赴き、壁を素早く登った。

「奴らはなにをしようってんだ?」

懐から単眼鏡を取り出すと、砂漠の先へと視線を向けた。

「…なんだありゃあ、どうなってやがる」

ラックは自分でみたものが信じられなかった。

「魔物の大群が…押し寄せてくる」

あんなものが街を襲ったら一溜まりもない。
街を見下ろすと、北門での戦闘に不安がっている住民たちが右往左往している。

ラックは近くにいた警邏隊員を捕まえると、魔物の大群が接近していることを伝えた。

隊員は信じていないようだったが単眼鏡を渡し覗かせてやると、顔を見る見る蒼くさせた。

「ひ、非常事態発生!!
 魔物の大群が南方より接近中!!
 繰り返す!
 魔物の大群が南方より接近中!
 住民は高い建物に避難してください!」

警邏隊員は、街中を走りながらその事を伝え回った。
住民たちは当たり前だがパニックとなった。
中にはその場に跪き神に祈るものも現れ出す。

逃げたところで無事に助かる見込みは薄い。

「俺もどうにかしないと、踏み潰されちまう」

多勢に無勢、あれだけの大群に個の力は及ばない。
ラックといえども、逃げる以外に選択肢はない。

「あのガキはおしいが、命あっての物種だ。」

ラックは街を数秒見つめた後、姿を消した。




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