おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第1章 最果ての少女

だいじょうぶ

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街は混乱を極めていた。
ある者はどこへ逃げれば安全なのか戸惑い。
ある者は持ちきれない荷物を無理に引っ張り。
ある者は天を仰ぎ神に祈る。

そんな中、ちーちゃんはてとてとと歩いていた。
なんでみんな焦っているのか理解できていない。

「あぁ、お嬢ちゃん。
 お母さんとはぐれたのかい?」
「ううん、お姉ちゃんまってるの」
「そうかい、でもねここは危険なんだ。
 どこか高い建物の中に避難するといいよ」
「危険?」
「あぁ、いまこの街には南側から魔物が攻めてきている。
 ワシのおばあさまから聞いたことがある。
 遠い昔、似た様なことが起こった都市が一夜にして滅びたとな。
 きっとこの街も無事ではすむまい」
「おじいさんは、どうするの?」
「ワシはもう登る力もない、間に合わんじゃろう。
 ここで神様にでも祈っとるよ」

諦めた表情でちーちゃんの頭を撫でる老人。

「だいじょうぶだよ」

にこりと老人に笑いかけるちーちゃん。

「ものを壊す子は悪い子なんだよ。
 ちーちゃんも、村の井戸を壊しちゃって、お母さんにお尻ぺんぺんされたもん。
 だからね、悪いことする子はね、ちーちゃんがめっってするよ」
「ははは、そうかい」

老人はちーちゃんの言葉を、子供の戯言だと思っている。
しかし、ちーちゃんである。

「でも、たくさんいるんじゃ、ちーちゃんひとりじゃ難しいかも。
 ……あっ、そうだ」

ちーちゃんは何か思い出したかのように、体をくるりと反転させた。

「おじいちゃん、ちょっといってくるね」
「ど、どこへいくんじゃ!?」
「うーんとね、湖っ!!」

てててて、と南へ駆けていくちーちゃんの姿を老人は神に祈りながら眺めていた。

「南側は魔物が一番に来るというのに…。
 神様どうかあの子にご加護を」




南門付近には人影が無かった。
そうであろう、いの一番襲われる場所である。
警邏隊員も門は閉じるだけに止め、ここでの警備は放棄していた。
いまは全員で市民の避難誘導に努めている。

そんな中ちーちゃんはひとり、湖の前に佇んでいた。

「ウーーーーローーーーちゃーーーん!!!」

誰もいない静かな湖面にちーちゃんの声が反射する。

数秒、静かな湖面にひとつの波紋が広がる。
やがてそれは水を盛り上げ大きな影が現れる。

『随分と珍しい場所にいるのね、ちーちゃん』

蛇神ウロボロス。
水面から僅かに顔を覗かせ、水際にいるちーちゃんに目線を合わせる。

『どうしたのかしら?』
「あのね、ちょっと乗せてほしいの」

断りを一言入れると、ぴょんとウロボロスの頭に飛び乗る。

「南から魔物さんたちが、たくさん街へやってくるんだって。
 でも、それだとこの街のひとが困るから。
 だからちょっとだけ手伝ってほしいの」

ウロボロスはその巨体を水面から伸ばし、壁をも超える高さまで達する。

遠くには魔物たちの影が良く見える。
あと10分もしないうちに街へと到達するだろう。

『あの子たちね。
 それでどうすればいいのかしら?』
「悪い事する子にはね、めっってするんだよ。
 でも、ウロちゃんは強すぎるから手加減してね」

どの口が言うのだろうと、ウロボロスは舌をチロチロとさせた。

『分かったわ、ほどほどにね。
 追い返す程度に威嚇するわ。
 衝撃波が出るから、しっかりと掴まっているのよ』

ウロボロスは口を大きく開け、その真っ赤な口腔に魔力を集結させる。
収束するものすごいエネルギーは高周波を発しながら、より一層圧縮されていく。

『それじゃあ、いくわ』
「うん、めっってやっちゃって!!」

ちーちゃんの掛け声とともに、ウロボロスの口から極大レーザーが発射される。

その一撃は遠くに見える魔物の大群を一掃した。
砂煙が大きく舞い、ぱらぱらと黒い影、すなわち魔物たちの影が舞い上げられたのが見える。
遅れるようにして突風が街を襲う。



砂煙が収まる頃、そこには動く影ひとつなかった。

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