おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第2章 彷徨う森

寝起きは不機嫌

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不用意に白い獣へと近づくちーちゃん。

獣は駆け寄る気配に気づいたのか、白銀の毛に隠れた瞳を開け、ギロリとにらみをきかした。
鼻先をちーちゃんにむけると「ふんっ」と、鼻息でちーちゃんを吹き飛ばした。

「ちーちゃん!」
「わーーっ、おもしろーい!」

ちーちゃんは空中でばたばたしながら喜んでいる。
アリスに見事キャッチされると、再び獣へ駆け寄ろうとして止められた。

獣はその身をのそりと起こすと、三人に向かって体をなおした。

「招かれざる客人よ。
 この森にさらわれてしまったのか、はたまた何用を以て訪れたのか。
 どちらでも構わぬが、それ以上近づくようであれば、我の周りに赤い花が咲くことになろう。」
「喋れるのか、こいつ!」

獣は驚くラックを見つめる。

「何を驚く半魔の者よ。
 貴様のような変種こそ、我には驚きだ。
 貴様等に言葉を伝えたのは、我ら聖獣だというのに、それも時の彼方に忘れ去られてしまったのか。
 やはり人は愚かであり、嘆かわしくもある。
 早々にこの場所より立ち去るがいい」

聖獣と名乗る獣は、もはや興味はないといいたげに背を向けた。

「待ってくれ聖獣よ!
 不敬はお詫びする、申し訳ない。
 しかし私たちは望んでここへ来たわけではない、出れるのならすぐにでも出たいのだ!
 もしあなたにそれが可能であるのならば、どうか叶えてくれまいか!?」

その言葉に聖獣が頭だけ振り返る。

「人の娘よ、それは叶わぬ。
 この森、この場所を知ってしまった者を帰すわけにはいかぬ。
 苦しむことのない死を望むなら、せめてもの情けだ、私が痛みを感じさせることなく焼き尽くしてやろう」
「それは、帰せるけど帰さない。
 そう解釈してよいのだな?」
「ああ、好きにするといい」

アリスは最悪の予想が当たり、泣きたい気分になった。
この聖獣を倒さないことには、ここを脱出することは難しいようだ。
ケルベロスも敵わない相手をだ。

こちらの戦力は、ケルベロスがいるといえど、大人二人に子供一人。
絶望的である。

「……出直させてもらう」
「死にたくなったらいつでもくるがいい」

聖獣は体を横たえ目をつむった。

「ちーちゃん、ラック。
 いったん戻ろう」
「…ああ」
「ばいばーい、おおきいわんちゃーん♪」
「ガルルルー!」

アリスはもう一度、聖獣の方をみる。
彼が守るようにして眠る、一本の樹。

(………まさかな)

見たこともない葉をつけた大樹。
アリスは自分が探し求めるものであるような気がしてならなかった。
しかし確かめる術もなく、後ろ髪引かれる思いで立ち去るのであった。



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