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第2章 彷徨う森
聖獣の力
しおりを挟むさやさやと風に揺れる木の葉。
それらが擦れる音が静寂を際立たせる。
聖獣は伏せていた顔を上げると、周囲を見回す。
「…懲りずに来たか」
広場には誰の姿も見当たらない。
しかし聖獣はアリス達の気配を感じ取っている。
四方に散らばった気配に、聖獣はふっと笑った。
「この気配は…この森に長く住むあの魔族か。
手を組んで何か作戦でも練ってきたのか。
こちらとて無駄に苦しみを長引かせるのは性に合わないというのに、無駄なあがきを…」
ガサッ
草葉の影から何かが飛び出す音がきこえた。
それは四方に散らばった各々から。
複数の丸い玉。
それが聖獣めがけて飛んできた。
「いや、これは違う!
やつらめ、樹を狙ったな!」
それが何かはわからないが、嫌な予感がした聖獣は体を素早く起こし、その尻尾を以て風を巻き起こした。
そのほとんどは、それで吹き飛ばすことはできたが、いくつかが樹に向かって飛んでいった。
次の瞬間。
爆音があたりに轟く。
樹に当たったもの、地面に落ちたもの、聖獣にぶつかったもの。
そのすべて、やく50近くの練り玉が一斉に爆発したのだ。
「ぐっ!!」
その衝撃に、さすがの聖獣といえども苦痛の声を出す。
煙が収まると、聖獣は樹の方に目を向けた。
大きなダメージはないが、幹の所々に砕けた後が見えた。
その瞬間、聖獣の理性はとんだ。
「貴様等!!!!
人族風情が神から賜れたこの樹に傷つける愚行!!
只で済むと思うな!!」
威圧は魔力を伝い風を巻き起こす。
隠れているアリス達にもびしびし伝わる死の恐怖。
しかしこれに屈しては、それこそ本当の死が待ち受けている。
震える手を抑え、第二段の投擲を始める。
先ほどと同じように四方から飛んでくる複数の玉。
「ルオオオオオオオオ!!」
聖獣が初めて獣らしい雄叫びをあげたその時、見えない障壁が練り玉を防ぎ、爆発を巻き起こした。
「おいおい、なんだよあれ。
きいてねーぞ」
ラックはその光景に唖然とした。
魔力障壁。
その魔法を知るものは少ない。
何せ膨大な魔力を必要とする故に、通常の魔族では扱えるものがいない。
その為、そもそも伝えられていない魔法。
現存する魔族でコレを扱えるのは、魔王を始め数人だけだろう。
「どうするんだよ、じいさん」
ラックはガイランドの隠れている繁みの方に目を向ける。
すると、第三波の練り玉が投擲された。
「…続けろって事か。
こうなりゃ、やけだ!」
作戦は再び実行に移された。
「コレは驚いた。
いや聖獣と言うのだから当然と思っておくべきだった。」
かつての魔王が一度だけ見せてくれた、その魔法。
ただ魔力の消耗が激しすぎる故に、実用に向かないと言っていたのを思い出す。
いかに聖獣が化け物でも、その魔力には限りがあるはずだ。
「こうなれば、持久戦じゃな。
くくく、どちらが先につぶれるか勝負じゃ!」
半ばやけになりながら、ガイランドは練り玉を放り投げた。
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