おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第2.5章 草原の詩

洞窟の中で4

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天井いっぱいを覆うその闇は徐々に形をなし、やがてドロドロの流動的な塊となって地面へ落ちてきた。

生物と言うにはあまりに異形。

「うへへへはは、はじめ、ま、して!」

どこから声を出しているのか、それはうにょうにょと体を動かしながら言葉を発する。

「なんだありゃあ、おい。
 ガイリ、おまえんとこの神様はあんななのか?」
「冗談言わないでください、どっからどうみてもワルモノじゃないですか」
「うっ、できれば触りたくないな、あれは」

軽口をたたきながらも三人は武器を構えて、臨戦態勢へと入った。
それを見た瞬間に背中をぞくぞくっとかけあがる寒気。

そこらへんにいる魔物とは訳が違う。
生物としての直感がそう告げていた。

「ね、ねぇねぇ。ねぇ。ねぇ。
 たべたいよー、はやくたべたいよ。
 いい、いい?」
「…何を食べたいのか知りたくないのだが」
「同感です」
「余裕ぶってるのもそこらへんにしておけ、くるぞっ!」

黒いそれは、体を大きく引き伸ばし、三人を取りこむようにして襲ってきた。

ラックとガイリは壁際へと素早く逃げるが、アリスだけは魔剣を構えて迎え撃つ。

「これでも喰らえ、暴風刃!」

下から上へと振るわれた刀から、不可視の力が迸り黒いそれをまっぷたつに切り裂く。
しかしそれは勢いを殺すことなく、襲い来る。

「マダ食い足りないのか。
 では好きなだけ食らうがいい!
 乱散刃!!」
「う、あっ」

幾重にも走る光刃。
それは相手の体を無数に切り裂く。
細切れとなったそれは、慣性を失い地上へと落下し地面へ染み込んでいく。

「お、おお!
 すごいですアリスさん!」
「ガイリ殿、油断するな。
 あの類の化け物はこんなものじゃ、死なないはずだ」

アリスの指摘通り、地面からは黒いそれがもごもごと復活していた。

「あ、あ、それ、おいしくない。
 もっと、お、いしいの、にく、たべたい。」
「うっ、…アリスさん、どうすれば倒せるのでしょうか?」
「…ラックはいい案あるか?」
「うーん、案はふたつある。
 ひとつは時間稼ぎをしながらと逃げる。
 もうひとつは、さっさと逃げる」
「却下だ。」

剣を構え直し戦闘態勢に入るアリス。
それを見てため息混じりに、構えをとるラック。

「こんなやつ野放しにしておけるものか」
「全く、勝てる見込みとねえのに」
「戦っていれば何か見えてこよう。
 それにこいつの攻撃は大したことなさそうだ。
 ガイリ殿はどこかへ避難していてくれ」
「…そう言うわけにはいきません。
 俺たちの村の祭壇を汚す魔物、微力ながら参加させていただきます!」

ガイリは腰から短剣を取り出す。

「ふっ、無茶はするなよ」
「ほれ、相手もやる気満々だそうだ」
「さあ、こいっ!!」

薄暗い洞窟の中、誰にも知られることなく三人と魔物の攻防が始まる。






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