おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第2.5章 草原の詩

洞窟の中で5

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「はぁはぁ、こいつどうなってるんだ」
「まるで手応えがない、幻を斬っているかのようです」
「幻か、案外そうなのかもな」

あれから幾度相手を斬りつけただろうか、その結果は芳しくない。
何せあいてはぴんぴんしている。

「へへへへ、もっと、もっと、絶望してから、たべる。
 お、おいしく、なーれ」

気味の悪いしゃべり方で、ずっとこちらの様子を窺っている。

「お、おれに、こうげき効かない。
 くくくく、まほうでも、つかえたら、くくく。」
「自分から弱点を知らせるとは、こいつは見た目通り阿呆なのか?」
「くくくくく、にんげん、マホウつかえ、ない」
「……だそうだよ、ラック」

話を振られ大きくため息をつくラック。
面倒くさそうにナイフを構える。

「あまり攻撃向きじゃねえんだよ、おれのは。
 お前には分からないかもしれないけど、結構疲れるんだぜ、これはよっ!!」

構えたナイフが鈍く輝き始める。
ラックはナイフに魔素を集中して込めた。
金属と魔素は相性が良い。
魔法の基礎ともいえる、魔力操作を極めればこういったことも可能である。
魔剣ほどではないが、普通の武器でも一時的に強化することが出来、歴戦の魔族となれば日常的にこれを使いこなすものもいる。

「お腹空かしてるんだったら、これでもくらいなっ!!」

投擲したナイフは真っすぐに黒いそれへと吸い込まれる。

「ぐぎゃっ!!!!」

すっかり油断していたそいつは、突然の痛みに大きく身を震わせた。

「ああああああ、痛いよう!!
 い、いたいよーーーーっ!!!」
「あ、やべえ。
 逆効果だったか?」

痛みに凶暴化したそれは、体を蠢かせ多数の触手を全方位へ弾きだした。

「避けきれない」と誰もが思ったその時、アリスの肩に乗っかっていたベロちゃんが、目をパチリと開けて、一声吠えた。

「オーーーーーン!!!」
「ぐうぅっ!!!」

子犬の姿形と成っても、そこは伝説の魔獣ケルベロス。
ベロちゃんから発せられた声には、とてつもない魔力が込められており、全ての触手を霧散させた。

さすがにその攻撃は堪えたのか、黒いそれは痛みを堪えるようにして体を縮こまらせていた。

「助かったぞ、ベロちゃん!」

「全く、今回だけだぜ」と言わんばかりの表情で再び眠りに着くベロちゃん。
しかしこれだけの攻撃を受けても、まだ消滅しないそれ。
アリスとラックは、ただの奇怪なだけの魔物ではないと感じていた。
だからこそ、この機を逃さまいと、ラックは一気に片をつけるつもりでいた。

「く、くく、いたいいたいいたいっ!!!
 でで、でもこんなのじゃ、た、たおせないんだな!!」
「なに!?」

アリスはそいつの強がりかとおもったが、そうではないようだ。
やつからは自信が見て取れた。

「くくくくく、だっておれは分身、だから!!
 ほ、本体を倒さないと、何度でもふ、ふっかつするんだなーーーーー…あれっ?」
「本体だと!?
 くっ、そんなの探してる暇なんて……って、あれ??」
「おいアリス。
 気のせいか、やつの体がどんどん消えていってるんだが…」
「気のせいではないみたいだな」

波にさらわれる砂のように、徐々に形を失っていくそれ。
それ自身も、自分の身に起こっていることが信じられないようだ。

「な、ななんで、なんで!!!?
 ほんたい、をたおさないと、き、きえないはずなのに!!!?
 いいいやいやだーーーーーーーーーっ!!!」

叫び声は洞窟の中を反響し、その音が消える頃にはそれの姿はなくなっていた。



「なんだったんだ?」
「さあ?」

アリスとラックの寂しい声が、シンとした洞窟の中に響いた。
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