96 / 168
第3章 偽りの王
奴の名は
しおりを挟む魔王は頭を抱えていた。
「アルファインよ、フオカ国の動向はどうなっている」
「はい、先日派遣した潜入員からの連絡は二日目にして途絶えました。
王都の第七地区までは潜入可能ですが、やはりそれ以降は結界が張られており侵入は難しいようです。
今回は人族の協力者も別途用意したのですが、そちらも通信が途絶えております。
彼の王の元へ辿り着くのは容易ではありません。
いやはや、さすがというべきでしょうか。」
「感心などできるものか、くそっ、本当に厄介だ」
珍しく本気で苛立つ魔王を尻目に、ガイランドは各支局の連絡員から仕入れた新聞を読んでいた。
現在目を通しているのは偶然かなフコカ国近辺で流通している新聞。
「フコカ国を筆頭にナイン大陸で共同戦線を張り、中央大陸へ侵攻開始。
いやはやよくもあの戦乱渦巻くナイン大陸を纏め上げられたものだ。
儂とてあそこは手てこずった上、華々しい戦果は得られなかった地だ。
人族によって統治される日がこようとは」
「叔父上、気楽に言ってくれるな。
あなたは何も知らないから、そう暢気でいられるのだ。
人族によって統治だと?
馬鹿言っちゃいけませんよ」
魔王が呟くその言葉に、ガイランドは眉を顰める。
新聞から得られる情報では疑問の余地もない。
人族以外出てこない。
それは不自然な程に。
そこまで考え、ガイランドは一つの思いつきに至る。
魔法の存在。
「確か、かつての魔族に『変化』の魔法を使うものがいたな。
偵察用に特化しているため、当時は無能扱いされた魔法だが」
魔族は基本的に、単純な戦闘力によって序列が決まる。
故に偵察や搦め手といった、非戦闘に特化した魔法を持ったものは日陰者扱いされる。
近年こそ戦略が為され、彼らにも相応の地位が与えられているが、それはつい2,300年の話。
「フコカ国の王は魔族だというのか!?」
驚きを禁じ得ない。
何せ魔族と言うのは独立が許されない種族。
全てが魔王の統率の元、人類と戦うことが使命である。
それは抗えない、魔族と言う種に植え付けられた呪いと言ってもいいだろう。
最早本能である。
ガイランドの推測が当たっているのであれば、ローミン王はその呪縛から解放されたのだ。
「信じ難い、いや信じられぬ。
こればかりは魔法でどうこうなる問題ではないぞ。
誰なのだこやつは?
何か知っているようだが、お前の部下なのか?」
その言葉に魔王は思わず鼻で笑ってしまった。
「部下ですって?
こんな化け物が部下にいるわけないじゃないですか。
確かにローミン王は『変化』の魔法を使用しています。
だけどそれだけではない。
我々が確認しただけでも24以上の魔法を行使しています」
「24だと?
冗談も現実味がなければ、馬鹿にしているようにしか聞こえんぞ」
「ガイランド様、魔王様は馬鹿にしているわけではありません。
これは事実です。
彼のローミン王は多くの魔法を操る、正真正銘の化け物です」
執事のお手本たるアルファインを以ってしても、初めてその情報を伝え聞いたときは驚きのあまり、手に持っていたコーヒーカップを落としたものだ。
魔族にしか使えない魔法。
しかし魔族とて無限に魔法が使えるわけではない。
基本はひとつ、多くて3つ。
例外的に魔王だけが7つの魔法を行使できる。
だというのに、ローミン王は24。
ガイランドが冗談というわけだ。
「24もの魔法を操る、そんな魔族聞いたことないぞ」
「本当にそうですか、叔父上。
心当たりがありませんか?」
「そんな奴に心当たりがあるわけ…」
ガイランドの言葉が止まった。
心当たりがあったのだ。
「『統合』の魔法…まさか、いや、そんな」
「叔父上、そのまさかですよ」
驚愕と言う言葉では足りない感情がガイランドを襲う。
「馬鹿な、あの方は亡くなったはずだ。
儂も小さかったが覚えておる。
あの方の葬儀に参列したのを!!」
幼い時分、魔王城だけが世界の全てだった頃。
ガイランドは周囲の大人たちが悲しむのを不思議そうに眺めていたのを覚えている。
「そうです、叔父上。
生きていたのですよ、先先代魔王が」
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる