おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第3章 偽りの王

ラックの過去

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王都は眠らない。
日も落ちてだいぶ経つというのに、街の明かりは消える様子もなく、至る所で赤々と賑わっていた。
ナイン大陸で最も栄えている街というだけのことはある。
人々は明るく、まるでそれが永遠に続くかのように錯覚している。

しかしその明かりが届かぬ所では、より一層影を深めていた。
街の隅、貧困街。
街の喧騒はそこまでは届かず、静寂が漂う。

その中をいくつかの影が動く。

彼らは闇の人間。
暗闇の場を生業に、全ての汚い仕事を請け負う街の暗部。
月明かりの微弱な光ですら彼らには眩しい。

ラックはそんな貧困街の様子を見ながら顔を顰めた。

「相変わらず変わってねえな。
 胸糞悪くなるぜ」

あまりにも変わらないその光景は、懐かしさと同時にラックの苦々し思い出も彷彿とさせた。
路端に座り込む人々の目はくすみきっており、睨みつける視線には妬みしかない。

昼間ちーちゃんが垣間見た貧困街の様子は、それでも幸せに生きる人々であった。
貧困のあまり、この世を憎む輩は少なくない。
その結果、闇の仕事に手を出す。
かつてのラックのように。

「ちっ、それでもここの手を借りないと、大陸を抜け出すことは出来ないしな」

物事を割り切れないほどラックも子供ではない。
彼だっていまだに闇の仕事を行っている。
ただ、ここの連中には美学やルールがなさすぎた。
ただ殺して奪う、それだけだ。

弱者らしく強者を見抜く力だけは鍛えられており、ラックに飛びかかるような真似をしないが、子供がひとりで歩いてでもすれば、十分と持たずに誘拐される場所だ。




暗闇の通りをラックは、迷いげなく歩く。
かつて通り慣れた道。

長い間をかけ、至る所で増築が繰り返されているが、ここだけは大きく変わっていない。
ボロボロに錆びた鉄の扉を、躊躇なく開け放つ。

建物の中にはテーブルが一つあり、ひとりの柄の悪い若い男が座っていた。

「いらっしゃい」

男は怪訝な目でラックを見てくる。

「情報がほしい」
「誰からの紹介だい?」

この街で知らないことはないと言われる、街の情報屋。
扱う情報が情報なだけに、彼らは誰でも商売相手にするわけではない。
下手な人間に情報を流出してしまえば、自らの命が危ない。
そういった意味ではきちんと身を弁えている。

だから基本的に一見さんはお断り。
ここらあたりで見慣れないラックを警戒するのは当然。

「紹介はない、昔ここで世話になっていた者だ」
「・・・いくらなんでもそれじゃあ情報は売れないよ。
 本当にここにいたというなら、分かるだろ。
 あんたがもしヤバイ人間だったら、俺の命が危ないから」

ラックはこの返答を予想していた。
だから彼は一人の男の名を告げた。
五分五分の賭けではあった。
なんせ彼がまだここにいるのか分からない。

「・・・」

しかし賭けは成功したようで、男は階段を上り二階へと消えていった。
数分後、先程の男がひとりの男を連れて降りてきた。

懐かしい顔。
何年と時を経ているのに、彼だということがすぐにわかった。
ラックは笑みを浮かべて彼の名を呼んだ。

「ひさしぶりだなジョイフル」
「ああ、今までどこをほっつき歩いてたんだよ、ラック」

二人は再会を懐かしみ、強く握手をかわした。

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