おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第3章 偽りの王

ラックとジョイフル4

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ジョイフルは鉤爪をラックへと向ける。
間合いはまだ十分にあるというのに、その爪先は一瞬にして距離をつめ、ラックの脇腹へと突き刺さる。

「ぐっ!」

針で貫かれたような鋭い痛み。
役目を果たした爪先はドロリと形状を変え、ラックの血と混じって地へ広がった。

「くくく、痛いかラック。
 だけどナイフの痛みはそんなもんじゃねーぞ。
 じっくりと、教えてやるよ」

再び延びる血の切っ先。
肩を狙われたのを察したラックは、上半身をひねりギリギリで躱す。

「上手じゃないか。
 まあそれがいつまでつづくかな、くく」
(やばい、足が固定されてる状態では、そう長くは避けきれない。
 この足を固定している血をなんとかしなければ)

ナイフの柄を思い切り打ち付ける。
ガイン、ガインと硬いものを打ち付ける衝撃が手に伝わる。
とても血が固まったものとは思えない硬度である。

「そう簡単には壊れねーよ。
 毎日鉄分は気をつけて摂取してるからな、くくく」

しかし何度も打ち付けている内にヒビが入り始めた。

「ちっ」

ジョイフルは舌打ちをすると、素早く攻撃を繰り出す。
ラックは血の鉤爪が右足に突き刺さる寸前で、足を掴んでいる血の塊を破壊し、後方へ転がり避けた。

「・・・血が薄かったか。
 まあいい、お前が散々俺を痛めつけてくれたお陰で、この部屋は俺の血だらけだからな。」

ラックは迂闊に踏み込めずに居た。
ジョイフルは離れた箇所にある血を操作することが出来る以上、血を踏むことは自殺行為。
そうした時、足場は限られている。

(奴は血の結界に守られている。)

この結界を破るのは困難だ。
だからといってこの距離では、ラックの攻撃は届かない。
ジョイフルが先程飛ばしてきた血の鉤爪でじわじわ削られるのがオチだ。

(・・・あせるな。)

ラックは深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。

(正面突破を考えてどうする。
 俺は傭兵でもなけりゃ冒険者でもない。
 相手の裏をかき、搦め手で戦うのがスタイルだろ。)

落ち着いて周囲を見渡す。

「おいおいどうしたラック。
 もう降参か?」

ラックは視線をジョイフルへと戻すと、ニヤリと笑った。

「いや、お前を倒す方法を思いついたところさ」
「ほう?
 この状況で・・・ただの強がりかな?」
「だと思うなら、さっさと攻撃してこいよ。
 すぐにその勘違いを正してやるよ」
「ああ、お望みどおり挑発に乗ってやるよ!」

地面に散らばっていた血溜まりから、数多の血の槍が出現した。
ジョイフルが指をパチンと鳴らすと、それらは意思を持ってラックを攻撃しだした。

弾丸のように浴びせられる攻撃をラックは転がるように避ける。
とてもその顔に余裕は見えず、反撃できるとはジョイフルには思えなかった。

回避行動は一分も経たない内に終わる。
ラックの足がもつれ、地面へ転がってしまった。

その隙を逃すジョイフルではない。

「はーっは、鬼ごっこは終わりのようだな!!」

全力の攻撃をラックへ浴びせる。
地面へ転がったラックは態勢を整える間もなく、弾幕の中に姿を消した。
血しぶきが辺りを覆う。

勝負ありと確信したジョイフルには笑みが浮かんだ。

「くくくく、少しばかり遣りすぎたようだな。
 ミンチになってなきゃいいけど」

ゆっくりと血の煙が晴れていく。

「心配しなくてもいいぜ、ジョイフル。
 てめえの攻撃は目覚ましにはちょうどよかったみたいだ」


攻撃された場所にいたのはラックではなく、一匹の獣。

ここ最近ちーちゃんに飼いならされて、その威厳は地に落ちていたが、その伝説は誰もが知る恐怖の魔獣。

「ぐぅっるるるるるる・・・」

かつて一国を恐怖のどん底へ落とし込んだケルベロスの姿がそこにあった。






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