おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第3章 偽りの王

ラックとジョイフル6

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ジョイフルは、腰にぶら下げた瓢箪から、3cm四方のキューブ状の赤い「何か」を数個取り出す。

弾力があるようにも見え、それでいて堅そうでもある不思議な物体。

「これは王様にたのんで作ってもらった、俺の血を凝縮させたキューブ。こんな小さく見えるが、一粒でおれ一人分の血液が込められてる。
 これだけの量作り出すのに、数年はかかる大事なもんだが仕方ねえ」

キューブを空中へ放り投げる。

「リリース!」

大量の血液が空から雨のように降り注いだ。
如何に素早いケルベロスといえど、隙間ないそれを交わすのは不可能。

その部屋にいる全員が赤い血にまみれた。

(ジョイフルの血液操作と、この密室は相性が良すぎる。しかし…)

それでもまだケルベロスに分はあると、ラックは思っていた。
いかなる攻撃を加えようと通らないのだから、量を増やしたところで優劣に変わりはないはずだと。

しかしそれは間違いであった。

自分の体が動かないことにラックは気づいた。それはケルベロスも同様。

「すでにおまえ等は俺の結界の中に捕らわれている。」

何が起こったのかは分からないが、大量の血液が作用して体を動かなくしているのは間違いない。
ケルベロスはもう一度咆哮した。

その作用により一瞬拘束が解けたが、数瞬もすれば再び動けなくなる。

「無駄無駄、こごが見晴らしのいい草原ならまだしも、密室。
 俺の血液はおまえ等の周りに留まり続ける。逃げることは適わない。そして…」

ジョイフルは両手を大きく掲げる。

「これがおれの大技だ。」

ジョイフルの周りを漂っていた血液が、巨大な円錐状へと変化する。
大人の二倍はあるだろうその円錐の先端はケルベロスへとむけられる。

「くらえっ、『血祭』!」

回転しながら迫り来る円錐。
迎え撃とうとするが、霧状にまとわりつく血液がそれを阻害する。
ケルベロスは半ば無防備の状態で、ジョイフルの攻撃を受けてしまった。

「ギャウゥウン!」

甲高い鳴き声をあげながら、ケルベロスは腹部に大きな穴をあけ後方へ吹き飛ばされる。
地面へ落ちると体を震わせたのち、パタリと気絶した。

「くはははは、やったぞ!
 あのケルベロスを俺は倒した、くははは!」
「うそだろ、おい、ケルベロス!」
「ああ、おまえもいたなラック。
 もういい、しばらく眠ってろ。
 後でゆっくり処刑してやるから」

ジョイフルが手をかざすと、ラックは呼吸ができなくなり、その意識を深い闇へと落ち込ませた。



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