おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第3章 偽りの王

怒りの鉄拳

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部屋の中に静寂が訪れる。

ジョイフルは少しフラつきながら、ラックへと近づく。
倒れているラックへおもむろに蹴りを入れる。

「このっ、分かったか、俺の力をよっ!
 やっぱりお前は逃げたんだっ、あの時!
 じゃなきゃ、俺に勝てたはずだもんなっ!」

ガシッ、ガシッと蹴り込むが、気絶しているラックに反応はない。
ジョイフルの息が切れるばかり。

「…う、うーん」
「ちっ、起きやがったか」

一連の騒動により、ちーちゃんが眠りから目を覚ました。
未だ寝ぼけ眼であるのか、目をこすりうつらうつらとしている。

ジョイフルは面倒くさそうに、ちーちゃんへと体を向ける。

「しょうがねぇ、先にこいつを王様のとこに連れてくか」

カツカツと近づくジョイフルに気づいたちーちゃんは顔をあげる。

「…あれ、お兄ちゃん、だーれ??」
「………」

無言のジョイフル。
その後ろに倒れるラックと、ケルベロスがあった。
どちらも怪我でボロボロになっているのが、ちーちゃんの目に映った。

「お兄ちゃんがやったの?
 二人を怪我させたのはお兄ちゃんなの!?」

すくりと立ち上がりちーちゃんが凄む。

「あん?
 それがどうした、お前には関係ないことだ。
 おとなしくしてな」

ジョイフルは血液を操り、ちーちゃんの四肢を拘束した。

「関係あるもんっ!!」

だがそれも、ちーちゃんの一喝ではじけ飛ぶ。

「…おいおい、どういうこった。
 俺の拘束が解かれるなんてよ、ああん?」

自らの魔法が小さな子供に解かれたことで、ジョイフルは少しばかり苛ついた。
ローミンからちーちゃんの事は聞いているものの、目から入る姿がそれを納得させないでいた。
だから彼はねじ伏せようと思った。

血液を針状にして飛ばす。
だが、ちーちゃんの体に当たるものの何の影響も与えていない。
ちーちゃんはチラリと血の針を見ると、再度ジョイフルを睨んだ。

「これでラックお兄ちゃんたちを傷つけたんだね!」
「おいおい何なんだよお前。
 ふざけんじゃねえよ、たかだかガキが俺の魔法を」

ケルベロスとの戦闘ですっかりハイになりきっているジョイフルは、ローミンの言葉も忘れ、ちーちゃんを倒すことに意固地になっていた。
すっかり逆上したジョイフルは、先程ケルベロスに対して放った攻撃を構築し始めた。

血の円錐が頭上に浮かぶ。

「お兄ちゃんたちがどれだけ痛かったか、教えてあげる!」
「やってみやがれ、糞ガキが!!!」

ジョイフルの叫びとともに円錐は解き放たれる。
ちーちゃんの体の数倍もあるそれは、小さな体を飲み込む。


・・・様に見えた。

円錐はちーちゃんに当たり、粉々に砕けていた。
そんな攻撃をものともせずに、まるで意にも介せず、ちーちゃんはジョイフルへと近づく。

最大の攻撃がまるで通じていない様子に、ジョイフルもその異常さにようやく気づいた。

「くそっったれ!!!」

なりふり構わず魔法を使用するが、そのどれもがちーちゃんの歩みを止めることは出来ない。
いよいよ目の前まで近づくと、ジョイフルは体を強張らせた。

「おい、やめろ・・・」

ちーちゃんは腕を振り上げ、ジョイフルを睨みあげる。

「・・・・・めっ!!」

その一声と共に、拳が唸りを上げ、ジョイフルの腹へと吸い込まれる。
本能で部屋中の血液を圧縮させ腹部へ防御を展開させる。
大砲すら防ぎかねないその防護壁も、ちーちゃんの前では紙一枚分にも満たなかった。

「っくっそーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

ちーちゃんのパンチは血の壁を突き抜け、ジョイフルを壁の外へと吹き飛ばす。




パラパラと崩れ落ちる壁から、外界の青空が見える。
そして再び部屋に静寂が訪れた。
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