おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第4章 異世界からの訪問者

魔王について

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「おい貴様っ、そのへんでやめよっ!」

アリスは少年に近づくと、その肩を強く引いた。
騒動を傍観していた冒険者たちは、新たな乱入者におもしろくなりそうだと笑みを浮かべた。

(ったく、これだから冒険者は野蛮と言われるのだ。)

アリスは周囲の様子に辟易しながらも、再び少年と向き合った。
少年はムッとした表情で肩を掴んでいるアリスを睨む。
こう言っては冒険者とは思えない容貌、それがアリスの第一印象。
明確に言葉で表現するのは難しいが、野性味といった鋭い戦意が感じられない。
逆に、商人のように幼い頃から外にも出ず机と向かってばかりいたような幼さを感じた。

「・・・肩の手、離してくんないかな、お姉さん。」
「お前も、受付の方へ詰め寄るのはよしてもらおう。
 見ろ怯えているではないか。」
「・・・分かったよ。」

不満気に少年は肩に乗る手を撥ね退け、受付カウンターから離れた。

「でも、その受付嬢も悪いんだぜ。
 俺の質問に答えてくんねーんだからさ。」
「・・・そうなのか?」

アリスはちらりと受付嬢を見る。
視線を向けられた受付嬢は一瞬びくりと身体を震わせると、頭をブンブンと振った。

「違うんです、けっして意地悪してるわけじゃないんです!
 ただ、そのー、そちらのかたがー・・・」
「なんだ言いよどんで?
 いいから続きをいってみろ。」
「あのですね、そのぉ、そちらの方が、魔王を討伐なさると仰って・・・。
 それで居場所を教えろと・・・。」

受付嬢が説明すると、組合は一瞬静まり、その後大爆笑に包まれた。
突然の爆笑に勇者タキタは戸惑いながら周囲を見回した。
なぜ笑われているか理解出来ていないようだ。

もう一人ぽかんとした表情を浮かべている人間がいた。
ちーちゃんである。

「ねえねえ、なんでみんな笑ってるの?」
「ん・・・あぁ、ちーちゃんにはわかんないか。
 例えばさ、肉屋さんがドラゴン退治するぞーっていったらおかしいだろう?
 あの兄ちゃんはそんな感じの事をいったのさ。」
「・・・おかしいかな??」

ちーちゃんの脳裏には、あの肉屋が思い浮かんでいた。
そんな事を知らないラックは、自信のあった例え話が通じずたじろいだ。

「えっ!? いや、ん、まあ、うん・・・あっれー?
 まあとにかく、出来もしないことを言ってるってことさ。」
「ふーん・・・ちーちゃん、よくわかんないやっ!」
「・・・そうですか。」

ラックは肩を竦めつつ、自称勇者の方を見る。
彼が言ったであろう「魔王を倒す」という事について、呆れて失笑も出なかった。
魔王という者について無知すぎるのだ。

魔王という存在は確かに強大であり、人類の敵である。
その存在を倒すことは人類国家共通の問題であろう。
しかしあくまで対国家間の戦いであって、個が魔王を倒すことなど通常はあり得ない。
確かに物語の中でかつて世界を統治しかけた魔王を倒したという勇者はいたが、それは遠い昔の話。
現代においては、連合魔王討伐軍が編成されており、国家を跨ぎ魔王軍と戦いを繰り広げられている。
魔王を倒すのは多勢の武なのである。
子供でも知っていることだ。

だと言うのに、一介の冒険者が魔王を倒すなどというものだから、周囲で笑いが起きるのだ。


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