月の光に照らされた夜に。

梧 哉

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 あぁ、と空を見上げてため息をつく。今日は、あの日か、と。





 茶色に尻尾の先だけ白い猫が夜の公園を歩いている。街灯はあるが、その光を浴びないように歩いているようだ。
 空を見上げた猫は、すぐに顔を下ろして走り出した。





 とん、と軽い音をたてて塀の上から地面へと着地した猫は、大きな屋敷へと入っていく。
 庭を抜けてバルコニーの真下までくると、近くにある木に登ってから、そのバルコニーへと飛び移った。

「お戻りになられたようですね。少しお待ちください、足をお拭きいたします」

 その言葉に、猫は小さく頷いた。





 遮光のカーテンがひかれた室内、そこにいるのは、侍女と猫。

「今日はどちらまで?」
「いつもの公園よ」
「あまり遠くへは行かないでくださいね」
「わかっているわよ。私だって命は惜しいもの」

 足を拭き終えた侍女に、猫は目を閉じる。

「もう外には出ないから、下がっていいわ。今日もありがとう」
「わかりました。おやすみなさいませ」
「おやすみなさい、よい夢を」

 侍女が部屋を出て行くのを眺めやり、猫はベッドへ飛び乗った。

「嫌いよ、こんな身体からだ

 それでもこれは、紛れも無い彼女のもの、なのだ。

「こんな身体じゃ、誰もわたしを好きになってなんかくれないわ」

 人とはかけ離れたわたしなんて。
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