月の光に照らされた夜に。

梧 哉

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 少し時間がさかのぼる。



 ライナスはプラント伯爵夫人に呼び出されていた。
 この屋敷には執務室が2つあり、大きな執務室をライラが、小さい執務室を夫人が使っていた。去年までは使用者が逆だったが、本格的な執務をライラがするようになったため、執務量が多いライラが大きい部屋を使用することになった。

「ライナスです」

 ノックをし、入室の許可を待つ。

「来たわね。入って」
「失礼します」

 執務机に向かっていた彼女は、手に持っていた書類を置いて腰をあげる。

「あと1時間もすれば、私は王宮へ向かうわ。旦那様と一緒にしばらく王都にいることになるけれど、その間、ライラのことをお願いね」
「はい」
「ライラの体のことは知っているのでしょう? それでも貴方の気持ちは変わらないのね?」
「当たり前です」

 打てば響くような返事に、彼女は満足そうだ。

「旦那様からも許可がおりているわ。……ライラをよろしくね」
「ありがとうございます」

 頭を下げたライナスに、彼女は一枚の紙を手渡した。

「これは……」
「ジェフリー伯爵家からの書類です」
「この書類は旦那様が?」
「そうよ。私のところで止めていたのだけれど、旦那様は貴方の気持ちに気付いていたわ。この夜会の間がチャンスだな、と笑っていたわ」
「お見通し、というわけですね…」

 まだまだだな、とライナスは苦笑する。

「遠慮はいらないわ、旦那様の公認だもの。式も早めにした方がいいかもね」
「さすがにそれは早いのでは?」
「私のときもそうだったもの。……満月後の一週間は、私たちの体に変化があるの。私はその一週間でライラを身ごもった」

 あれからもう18年経ったのね。

 彼女はふんわり幸せそうに微笑む。

「泣かせたら許しませんからね」
「お嬢様を泣かせるのは少しそそられますが、やめておきます」

 本当に貴方はライラが好きね。

 胸中でつぶやき、彼女は真っ直ぐにライナスを見やる。

「ライラがいいと言えば、あとは貴方に任せます。大事にしてやって?」
「もちろんです」

 ちらりと壁掛け時計に視線を向けたライナスに気づく。

「ライラの休憩時間ね」
「はい。今日は顔色がよくありませんでしたから、早めの休憩をと」
「昨夜、旦那様の言いつけどおり外に出ていたようだから、身体がだるいでしょうね、あの姿になったあとは特に」
「そのようですね」

 猫の姿になって、満月の光を浴びる。その行為をさせるように指示したのは、猫になったときにだけ使用できる力が衰えないようにだ。月の満ち欠けに応じて、その力は左右される。
 衰えた力を補完するため、月の力が強い満月の日にその光を浴びているのだ。

「貴方ならライラを任せられる。……お願いね」

 言って、無言で頭を下げたライナスに彼女は微笑んだ。
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