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忌み子と花売り④
しおりを挟む「それで?」
「なんだ?」
「説明するって言ってたろ?」
宿泊先の宿の部屋(二人で一部屋)に入り、食事を済ませたり、部屋着に着替えたりして落ち着くとゾムは言った。
「あぁ村長のことか」
「そうだよ、フランクリンって何者だ?」
私は、少し耳を澄ませる。
隣の部屋にはソラナが泊まる。こちらの話がそちらに漏れたり、盗み聞きされないように音で気配でソラナが部屋にいることを確認する。
…大丈夫か
「フランクリン家ってのは、世界の五大旧家の一つだ」
「五大旧家?」
ゾムは首を傾げる。
「…お前、よくそんなんでアサシン出来てたな」
「なんだよ!そんな有名人なのかよ!」
「有名っていうか…あぁそうか」
私はようやく合点がいった。
「…お前は知らないんだもんな」
「何をだよ」
「…」
私は少し考える。
「同じアサシンとして特別に教えてあげるよ。私のようなアサシン…特定の忠誠を誓う相手がいるアサシンにとっての脅威って何だと思う」
「は?なんだよ急に」
「いいから」
「そりゃ…捨てられる…とか?」
「忠誠を誓う相手が他のアサシンに殺されることさ」
ゾムは目を見開く。
「私のようなアサシンの忠誠度はかなり高い。捨てられても殺されても文句なんか言わないし、脅威だとも思わん。ただ、誰か他の人物にその人物を殺されるのは絶対に嫌だ」
「それで…?」
「それで、特定の相手がいるアサシン達はとある同盟を組んだんだ」
「同盟?」
「同盟に加盟し、情報や国の状況は教える。そのかわり、私の主に手を出すな、っていう集まりさ」
「なるほど…情報を提供しリスクを回避しにかかるってことか」
「あぁ。その同盟には特定の名がない。だから、それをもじって『774』と加盟者たちは呼んでる」
「名無し…ね」
「同盟には結構名のあるアサシンが参加している。そんな中でいつも議題にあがるのは『五大旧家の動向』なんだ」
「それほどまでに脅威だと?そんなふうには見えなかったがね…」
「脅威…というか…」
「なんだよ」
私は少しの間、口をつぐむ。
「…アサシン達も五大旧家には手を出したくないんだ」
「は?」
「五大旧家の力は中々に強い。五大旧家の誰かが殺されたらそれこそ、世界の一大事だ。現状は落ち着いてるし、問題はないんだがな」
ゾムはうーんと首をひねる。
「そんな話、俺は聞いたことないぞ?五大旧家に同盟なんてさ」
「五大旧家くらい知っとけよ」
私は机からメモ用紙を持ってきて、中央に円、少し離してそれを囲むように上下左右に円を書く。
「いいか、ある五大旧家の一人がおさめている国を中心に四方を囲むように他の4つの五大旧家がおさめる国が存在している」
私は周りを囲む円の中に名を書き記していく。
「北のオリオーダン家、東のフランクリン家、南のウィドリントン家、そして西のアットウェル家。それくらいは覚えておけ」
「へぇ、つまりノビオはその一家の奴と」
「多分な…。全く、一番面倒な奴と会ったかもな。フランクリン家は旧家である事を誇りに思ってる節がある。昔からの決まりとかに厳しいというか…。変に突けばコチラにも飛び火しかねない」
「じゃあ、何もしないのか?明らかにこの村がユウが知る状態と変わったのにアイツは関わってるぞ?」
「何もしないわけ無いだろ。とりあえず、ミール国に帰ってからだな…。ココでは何もできん」
私はそれだけ言うとふうっと息を吐いて、椅子にもたれかかった。
「疲れたのか?」
「いや…そういうわけでは…」
ゾムの言葉に適当に答えると、ぐいっと腕を引かれる。
「嘘が下手だなぁユウは。書類整理して、すぐに出発したんだから疲れてないわけ無いだろ?てか、寝てないだろ」
その言葉にギクリと身体が揺れた。
そう、私はここ数日寝ていない。それほどまでに書類があったわけではないのだが…なるべくノアの負担にならないようにと思い、あれこれやっていたら…気がつけば朝なのである。
一体なぜなんだろうか…?最初は時計が狂っただけだと思ったが…太陽も出てたしなぁ…
そんなこと考えてる間に、ゾムはテキパキと布団を敷き、準備を整える。
灯りを薄暗くするとゾムは布団に寝転がる。
「ほら、寝ろよ」
「…は?」
私は寝転がるゾムを見る。
「なんで布団1つだけ敷くんだよ…自分で敷けと?」
「一緒に寝よう!」
ゾムは布団の端に寄りポンポンと空いたスペースを叩く。
「本気で言ってる?」
「おう!」
ゾムは満面の笑みである。
…自分で布団を敷くのも面倒だし…いいか…
私はおとなしく、ゾムの隣に寝転んだ。
「んふふ…♪」
と笑いながら、ゾムは私との距離をつめる。私の胸に顔を埋めるような距離である。
「なんだよ…」
「いいじゃん」
ゾムはキュッと私の服を掴んだ。
反論しようとしたが、目を閉じ眠る体制に入ったゾムに声をかけるのは申し訳なく思い口をつぐむ。
服の外側から感じる暖かな体温を感じていると、こちらの瞼も下がってくる。
それに抵抗する気も失せ、私は目を閉じた。
カタッ…
そんな小さな音を耳にして、私の意識は浮上した。
タッ…スタッ…
近く…ではないが、遠いというほど遠くもない距離からその小さな音はする。
それにこの音には聞き覚えがある。
スタッ…スタッ…
それは足音。小さい子どもの…ソラナの足音だ。
カチャ…タッ…タッ…
部屋を出た?
私は目を開き、身体を起こす。ゾムが起きないように注意をはらいながら音なく歩き扉を開けソラナが向かった方向、宿の玄関の方へと進んだ。
一定の距離を置きながらソラナのあとをつける。
こんな夜中にどこへ…?
空には月がのぼり、明るくはあるが…やはり視界は悪く、少なくとも子供が出歩いていい時間ではない。
ソラナは迷い無く、村の奥へ奥へと進んでいく。
この先にあるのは…あの寂れた寺ではなかっただろうか。
そんな場所へ今頃何をしに…?
ソラナはやはり寺に向かっていた。
寺の手前で立ち止まるソラナは真っ直ぐに寺の戸を見ている。
「ねぇ、起きてる?」
ソラナが何やら話し始めた。
キシッと寺がきしむ音がした。
「聞いて!今日来たお客さんね、この前お花を全部買ってくれた優しいお兄さんだったの!」
私のこと?
私は物陰に潜みながら様子をうかがう。
「あの人にお客の相手をしろって言われたときは不安で不安で…今日なんてこなければいいのにって君に言ったけど、わたし、お兄さんにまた会えて嬉しかった!」
君?
「ねぇ…わたし、お兄さんなら大丈夫だと思うの。説明すればお兄さんなら…わたし達に協力してくれると思う。お兄さん優しいし…あんな大人達とは違うもの」
サァと風が吹く。
「明日…お兄さんが帰っちゃう前にお話してみる。お兄さんね、あんなに若いのに国の偉い人なんだよ!だから…きっと…わたし達の力になってくれる」
キシッとまた寺から音がした。
「明日もまた来るね!待ってて、絶対に君を助けるから!」
ソラナは来た道を小走りで戻っていく。
ソラナの姿が無くなったのを確認して私は道へ出た。
チラリと寺を見ると
「!」
そこには、戸の間から私を見る瞳があった。
「誰かいるのか!」
声をかけても返事はない…。
瞳も無くなっていた。
この村には…何かある。
見えないところで何かが起こってる…
私の直感がそう告げていた。
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