Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり⑧

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Side オリヴァー


あぁ…

やっぱり彼はボクの運命の人だ。

まさか、彼からボクを探してくれるなんて!!


姿を現したボクに驚いたような表情を見せる彼。

自然と口元が緩む。

ボクは彼に近づき、抱きついた。


細身なのにしっかりと筋肉がついていることがわかる。

胸に顔を埋める。
彼の匂いが強くなる。

「やっぱり…」

彼の心臓の音を聞きながらボクは口を開く。

「君もボクを探してくれたんだね!やっぱり、君はボクの求めていた人だ!」

ボクは彼を見上げる。


「さぁ…早く…









ボクを殺して」












Side ユウィリエ


「殺して?」

「そうさ!」

「…嫌だよ。そんなの」

オリヴァーは心底意外と言いたげに私を見る。

いやいやいやいや…

「嫌に決まってるだろ!なんでお前を殺さないといけないんだ!!」

「だってその為にボクを探してくれたんだろ!」

「は?」

どうやら彼は何か勘違いしているようだ。

さて…どう説明すべきか…



「ねぇ…お願いだよ…」

オリヴァーは私に巻き付けていた腕に力を込める。

「どうして駄目なんだ!」

「なんの理由もなく人殺しなんてできるかよ!!」

ルナあたりが聞いたら『どの口が…』と言ってきそうだ。

「ボクは…」

その時気づいた。
彼は…


震えている。



「ボクは生きている価値がないんだ!!誰もボクを必要としない!誰もボクに気づかない!!死んだって誰も悲しまない!!何も無い人間なんだ!!」




大声で張り上げられた声。

オリヴァーは私から腕を離し、ズルズルとそのまま床に座りこんだ。
















あのまま、床に座らせるわけにも行かないため、オリヴァーを抱え上げ、私に与えられた部屋へ運んだ。

「いい加減泣き止めよ…」

未だに泣き続けるオリヴァーに頭を抱える。

「…」

オリヴァーは涙を流しながら、何か言いたげに口を開閉させる。

「言いたいことがあるなら言え。話くらいは聞いてあげる」

オリヴァーは私をちらりと見てから、視線を外し、遠くを見ながら話し始めた。


「ボクには…何もないんです…。
何も…。」


「さっきも同じようなこと言ってたな」

「…物心ついたときには父親はいなかった。ボクは…姉と母さんと暮らしていた」

どうやら、話す気になったようなので、口を挟まず耳を傾けることにした。

「父親は死んだわけではなかったけど…母さんは『あなたのお父さんはとても偉い人なのよ』としか教えてくれなかった。

三人での暮らしは…とても貧しかった。

母さんは朝から夜まで働いて、家にいることのほうが少なかった。それくらい…貧しかった。

でも、幸せだった。


なのに…」

オリヴァーはうつむき、震えだす。

「気がついたら…誰もいなくなってた…。

母さんも姉さんも…帰ってこなかった。

ボクは…ずっと待ってた。でも…帰ってこなかった。


ボクは…今まで面識もなかった叔母さんに引き取られて…


まるで…召使みたいにこき使われて…

友達もできなくて…イジメられて…

でも、それも飽きたのか、ボクは存在が無いように扱われた。


元々…気配が薄かったのもあって、近づいても気づかれなくなった。


居場所がなくなって…



誰もボクを必要としない、って気づいて



この世に生きている必要が感じられなくて


死んでしまいたかった」


オリヴァーは手首を擦る。

「まさか…!」

私はその手を掴み、軍服の袖を捲った。

手首に無数の傷。
自殺未遂の痕跡。

「自殺しようとしても…死ねなかった。

誰かに殺して欲しかった。

でも…誰に頼めばいいのか分からなかった。

ここの人たちには頼めない。ボクに仕事をくれた恩人だし…声をかければボクに気づいてくれるけれど…ボクが近づいても気づいてくれない人たちだから

ボクはボクに気がついてくれる人に殺されたかった。



そんな時に君が現れた!

君はボクの気配に気がついてくれた!

ボクを探してくれた!

ボクにはもう死んで哀しんでくれる人もいない!


ボクは…君に殺されたい!」


真剣な目で見つめられ、そう言われた。


さて…どうするべきか…。


「君が死にたいのはわかった。でも、殺せない。君はまだ生きるべき人だから」


「なんで!!ボクには何も無いのに!」


「君が死んだら悲しむ人がいるよ」

「いない!!そんな人!!」

「いるんだよ」


私は彼の肩に手を置き、ジッと見つめた。


「君が死んだら悲しむ人がいるよ」


静かに諭すように私は言った。


「君のお姉さん…レオノル=ランプリングを私は知っている」


「え…」


あのことは…今の彼には言うべきではないだろう。でもこれだけは伝えておいてあげたかった。


「レオノルは生きてる。今も君を探しているよ」


「そんな…」


「今回の戦争が終わったら私が必ずレオノルに会わせてやる。だから、生きろ」


私はそれだけ言い、部屋の出口へ向かう。
ドアノブに手をかけながら、オリヴァーに言う。

「落ち着いたら部屋を出な。私はフレディのところに行く」

頷くのを確認して、部屋を出た。



やるべき事がまた増えてしまった。
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