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女帝と戦争と死にたがり⑩
しおりを挟むーMOTHER内部にて
Side ???
ワタシは窓の外から移り変わる景色を見ていた。
次々と景色が移り変わっていく。
こうして、景色を見るのは好きだ。
通る道は森ばかりであまり変化はないように見えるが、時折見える小動物や鳥の鳴き声を聴いたり、空を眺めるのが私の楽しみの一つだ。
今は夜。
澄んだ空気の森の中を走るこの国の窓からは輝く星々が見える。
「綺麗…」
思わず言葉が漏れた。
こんな景色をあの子もどこかで見てるだろうか。
ワタシは胸元のペンダントを握りしめる。
あの子は無事なんだろうか。
何処にいるのだろうか。
「どこに居るの…」
早くあなたを見つけて、この手であなたを抱きしめたい。
よく一人で頑張ったねと褒めてあげたい。
トントンッ
部屋の戸が叩かれる。
ハッとしてペンダントから手を離し
「どうぞ」
と入室を促す。
「失礼します」
ピッシリと軍服に身を包んだ女が入ってくる。
「ウェンディ、なんの用かしら」
「ハッ!定期報告に参りました、主。ハービニー国に向けての侵攻は順調に進んでいます。予定通り、明日の昼には着くかと」
「…そう」
「不安ですか」
ワタシの声音に違和感を感じたようで、ウェンディは聞いてきた。
全く…よく気がつくのも考えものね…。
「…そうね。不安なのかもしれないわ。ワタシが女帝になってから初めての戦争だし、相手はあのフランクリンがおさめるハービニー国。最近、戦争からは遠退いていた国とはいえ油断はできない」
「そのとおりです。が、我々は負けません」
ウェンディはしっかりと私を見る。
「今までいた兵の強化には力を入れてきましたし、新兵も多くいます。まして、際だって力のある兵もいます。それに、新たな兵器も作りました。我々が負ける訳ありません」
「…そうね」
ワタシはウェンディに微笑みかける。
「ありがとう、ウェンディ。戦争、絶対に勝ちましょう」
「もちろん、それが貴方の望みとあれば」
深く頭を下げて、ウェンディは部屋を出ていった。
もう一度、外を見る。
月が見えた。
まるで私を見て嘲ているような曲がった三日月。
笑いたければ笑えばいい。
「ワタシは勝たなきゃいけないの…」
キュッとペンダントを握りしめた。
ーハービニー国のとある部屋にて
Side ???
あぁ…明日から始まるのか…
窓の外の三日月を眺めながら、ワイングラスを傾ける。
計画はうまく行くだろうか。
アイツがヘマをするとは思わないが、少し不安になる。
大丈夫だ…。大丈夫だ…。
自分に言い聞かせる。
ジッと三日月を見つめる。
この月が新月になる頃には、自分の命はこの世に無い…はずだ。
「見納めか」
フッと笑いながら、ワイングラスの中のワインを飲み干した。
Side フレデリック
なんとなく眠ることができなくて、布団に腰掛けながら、窓の外を見ていた。
眠ることができないなんて…
「自分で思っているより…興奮してるのかもな、俺」
こうして戦争に参加するのは久々だ。
昔はアサシン『青蜂』として、あちこちの名も知らない人達を殺していた。
あの時はそれが当たり前で、興奮なんてしてなかったのに。
今日…いや、もう昨日か…の会議の内容を思い出す。
ユウィリエが集めた情報(きっと、この国に来る前に黒猫に頼んだんだろう)の内容を聞く限り、俺も今回は戦場に出ることになりそうだ。
戦場に出ながら兵たちの報告を聞いて指示を出す、それが今回の俺の役回り。
全く…忙しい役が回ってきたものだ。
ユウィリエがいるおかげで、戦いの負担は少なくなるだろうが、明日からは寝る時間もないほど忙しくなるだろう。
俺はサイドテーブルに置かれたソレに手を伸ばした。
ユウィリエがくれたナイフだ。
大きめのヒルト。
細身の持ち手には滑らないようにするためであろう、赤い紐が巻きつけられている。ユウィリエの手に合わせられているからだろう、握ると少し違和感がある。
刃は20センチほどの長さのクリップポイント。
この城で使われているナイフよりは重さがあるが、動かすのに不便を感じる程ではない。
マジマジとナイフを見る。
考えてみれば、ユウィリエとはかなり長い付き合いだが暗殺に使用している武器について語り合ったり見せ合ったりした事はなかった。
風のうわさで、『あの国の国王はナイフで殺された』と聞き、『そう言えばアイツ殺すって言ってたなぁ』『使ってるのはナイフなのか』といった具合に知った気がする。
こうして見ると、暗殺のために色々と工夫されていることが分かる。
今回の戦争でも、このナイフを使うのだろう。
戦場で暴れる彼の姿が目に浮かぶ。
何本のナイフを持ち込んだのかは知らないが…そのうちの一本を俺に渡してきたユウィリエ。
どういう意味なのかはよく分かっている。
『後悔はするな』
口には出さなかったが…ユウィリエはそう言いたいのだろう。
隠しているつもりだが…アイツは俺の迷いに気がついているのだろう。
そして誰よりも理解しているだろう。
全く…困ったものだ。
どうして気づくんだ。
どうして理解するんだ。
俺とは全く違うくせに。
そのせいで何度も衝突したってのに。
…分かってる。
アイツも言ってたじゃないか。
『私とお前はまるで違う人種だ。相容れない部分も多くあったし、そのせいで幼い頃はお前と何度も衝突してきた。
だが、1つだけお前と私に共通している部分があるとも思っていた。
それは、主を思う思いの強さだ!』
そう、それだ。
主を思う思いの強さが同じだからこそ気づかれた。
同じだからこそ、理解された。
…後悔か
「せいぜい、あがいてやるさ」
手に持っていたナイフが月の明かりで七色に輝いた。
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