Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり⑪

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Side ユウィリエ


4日目


「おっ!見えてきたな」

私はオペラグラスから顔を離して言った。

♪~

ちょうど時計が12時を伝えるメロディを奏でる。

「律儀なことで。ピッタリ12時にご到着か」

ピピッ
と耳につけていたインカムが音を鳴らす。

『ユウ、見えてきた』

「おー、フレディ。私もいま確認したよ。MOTHERはもう少ししたら止まるだろ」

『あぁ。そろそろコチラも動く。降りてこい』

「はいよ」

私は荷物を詰めた紅いバックパックを背負い、歩き出した。












国の城門を出て、しばらく歩いたところに所にいくつものテントが建てられていた。
ココが本拠地となるのだろう。

私は、テントの中でも一際大きなテントの中へ足を踏み入れた。


「やっと来たか」

「おー」

呆れたように私を見るフレデリック。

「なんだ?その荷物に格好は」

「お前のところの軍服は動きづらくてな。上着以外は着てるから許してくれ」

フレデリックは肩をすくめてみせる。何も言わないところを見るに良しとしてくれたのだろう。

私は今、昨日まで来ていたハービニーの軍服の上着とマントを脱ぎ、かわりに赤いパーカーを着ている。
まあ…最初は目立つだろうが、戦っていれば目立たなくなるだろう。
戦場は赤く染まっていくだろうし。

「んで、コレには武器ね。替えのナイフとか、手榴弾とか、使えそうなもんは詰め込んどいた」

フレデリックはジッとこちらを見た。
何か言いたいという意味のようなので、近づき、耳を傾ける。

「お前、何本のナイフ持ち込んだ」

小声で聞いてきた。

「急な話でな…ある分もらってきたが、40本が限界だった」

私も小声で答える。

「もつか」

「…武装無しの人間なら10本で50人殺れた。まあ…5本のナイフは使いモンにならなくなったが…。でも、今回は武装集団だからな…。100人殺れたらいい方かな」

「分かった。なるべく、ナイフは使わず…相手の武器を奪うとかして戦ってくれ」

「あいよ」

タッ…と遠くで足音が聞こえたため、私はフレデリックから離れ、自然な距離を取る。

「元帥!地図をお持ちしました」

どこの隊の兵士か分からないが、息をきらして丸めた大判の地図を持ち、言った。

「ありがとう、広げてくれる」

「はっ!」

地図の4辺に重し代わりの石を乗せながら、テーブルに地図を広げる。

それを確認するとフレデリックはインカムを操作し

「MOTHERの兵が見えた人は方向、だいたいの人数の報告を」

耳元でも同じ話が流れる。
私もインカムを操作し、全体に声が聞こえるようにしておく。

「さっき、Nの方向にMOTHERの本体が見えた」

私も報告する。

フレデリックは頷き、地図上に黒いブロックを置く。
コレが本体ということだろう。

「MOTHERの動力を考えると、もう止まって最初の突撃兵がバラけたはずだ」

『SW方向に敵兵確認!50人ほど見えます』

『NE方向にも見えます!同じく50人ほどです!』

『敵兵確認!NW方向です』

『敵が近づいてきています!!』

フレデリックは報告を聞いて、地図に印をつけていく。

3方向を囲まれているわけか…。

「よし、銃器部隊の人達は敵へ向かって狙撃開始。各隊、侵攻を開始してくれ」

「全部隊出すのか?」

「MOTHERは次々と兵を投下してくるだろう。その度に派遣するとなると前に出た兵達が危険になるからな。大人数でなるべく、個人の負担を減らしながら戦う」

「なるほど」

私は地図に視線を向ける。
何だろうか…この違和感…。

「あ…」

そうだ。
これだ、違和感。

「どうした?」

「昔、師匠が言ってたんだ。MOTHERは用心深い、策士であるって」

「ん?」

「4方向から敵を囲み、武力の分散を図り、女でも戦えるよう作戦が組まれてるって」

「!」

「怪しいのは…ココ」

「誰か、SE方向の確認を!!」

数分後、ピピッと音がし

『SE方向、20人ほどの人影が見えます』

「やっぱりか」

『ですが、まだ遠くにいます。オペラグラスでようやく見える距離です』

「私が行こう」

「お前が?」

私が言うと、フレデリックは目を細めた。

「今侵攻している兵を戻すよりもはやいだろ」

「…」

「20人くらいなら余裕だ」

「まぁ…そうだろうが…」

言わんとすることは何となく察しがつく。

「フレディ、お前はまだ出るべきじゃない。昨日見せた、あの5人。あいつ等と相対するときは力を借りたいがそれまでは私に任せとけ。武器に限りはあるが、お前よりは余裕があるしな」

「…そうだな。任せるよ」

一度頷き、テントの出入り口へ向かう。

「15分くらいしたら他の所の様子教えてくれ。不利そうな所に加勢する」

「了解」

私はテントから出て、走り出した。



















………

20人の兵が歩いているのが肉眼で見える。

仮にこの20人を一隊と呼ぶなら、その中で一人だけ角ばった軍帽をかぶっている奴が隊長だろうか。
その後ろに、剣を腰から下げた10人ほどの女兵士と4人の銃を構えた女銃士。
ただ、銃士は初心者のようで、動きながら背に構えた銃がカチャカチャと音を出しているし、一人隊から離れてふうふうと息をきらしている。

可哀想に…
多分、MOTHERの兵団に入って日が浅く、初めての戦争なのだろう。
それなのに…こんな危険なところに配属されるなんて

「ま、ハービニーも人のことは言えないか…」

遠方射撃の銃士以外は戦場に出ているわけだし…。


せめて、楽に終わらせてやろう


私は、その遅れて歩いている銃士の背後に忍び寄り、後ろから首へ向かってナイフを刺しつけた。

「ッグッ!!」

首元にまである鎧のせいで思ったとおりにナイフが刺さらず殺すに至らなかったようだ。

だが、血はダラダラと鎧の間からあふれ出しており、女のうめき声も聞こえている。

本来なら一撃で殺せたのに…
流石はMOTHER製の鎧というべきか。
男との戦いでも耐えれるように作り込まれているようだ。
今回はそれが仇となってあるが…。

「誰だ!!」

と、前を歩いていた兵たちから声が上がる。

気づかれたか
彼女達が近づく前にと私は刺したナイフを抜き、再度突き刺す。

今度こそ、殺した。

殺した名も知らない銃士の持っていた銃を手にする。

軽いがしっかりとした造りなことが伺えた。

「銃はあんまり好きじゃないんだけどな…」

近付いてくる他の兵たちへ向かって照準を合わせ発砲する。

あんなに硬かった鎧をものともせず銃弾が貫通してバタバタと兵が倒れていく。

「流石、MOTHER製の改造銃…威力が高い」

銃弾をすべて撃ち終わる頃には、立っていたのは隊長(仮)だけだった。

「クソっ!!」

ハンドガンで私を狙う彼女だが、手が震えているようでかすりすらしない。

「すまんなぁ…恨みはないんだよ」

私は一気に間合いを詰めて、ナイフを刺しつけた。
今度はきちんと鎧の間にナイフを入れて、一刺しで絶命させることができた。

「…」

ナイフを抜き、刃を見る。
ガッタガタに凹凸ができてしまっている。

「こりゃ駄目だな…」

やはり、鎧を着たやつを刺すのは難しい。
今回は直撃させてしまったとはいえ…刃が駄目になるペースは普段よりも早いと考えていいだろう。

私はナイフをバックパックにしまう。
それから、倒したMOTHER兵士が持つ武器を見る。

剣士たちが持っていた剣は様々で両手剣に片手直剣、細剣まである。
ただ、短剣やナイフの類は見えない。

一本、細剣を手に取り、振ってみる。
まぁ…銃よりはマシか。

「借りてくね」

と返事をしない屍に一言言う。


ピピッ


とインカムから音がした。

15分まだ経ってないんだがなぁ

「どうした、フレディ」

『ユウ!今大丈夫か』

「ついさっき、終わったよ。15分後って言ったのに随分せっかちな連絡じゃないか」

『今すぐ、NE方向の兵に合流してくれ!』

「NE方向?あそこは、ラルフがいるところだろ?」

『そのラルフからの連絡だ!隊の8割が負傷で動けないらしい』

「なんだって!…分かった。今から向かう」

『よろしく。』

私は走り出した。


まだ、あの5人が姿を現したとは考えられない。
もしかすると…


「新戦力か」


急がねば…。


とにかく、足を忙しなく動かした。
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