自己顕示欲の強い妹にプロデュースされる事になりました

白石マサル

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第五章~過去との決別~

努力の有無

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 俺は藤原を連れて、いつも楓と話している理科室にやって来た。
 藤原を先に入らせ、後から入った俺は入り口の前に陣取る。
 逃げられない様にするのと、万が一暴力を振るってきたらすぐ逃げられる様にだ。

「お、俺に何か用かよ?」

 少し怯えた様子で聞いてくる。

「分かってるだろ?」
「な、何の事だかわからないなぁ」
「これを見ても同じ事言えるか?」

 そう言って俺は制服をはだけさせて身体を見せる。
 そこにある無数のアザを見て

「な、なんだよ! 復讐しようってのか!」

 と声を荒げる。

「別に復讐しようって訳じゃない。今後俺に関わらないで欲しいだけだよ」

 俺がそう言うと

「な、何を偉そうに言ってるんだよお前は! 楓ちゃんを俺から奪った癖に!」
「は? 俺が楓をお前から奪った?」
「そうだよ! 俺と楓ちゃんは付き合ってたんだ! それをお前が横から奪って行った!」

 どうやらコイツの頭の中では楓と付き合ってた事になってるらしい。
 ほとんどストーカーじゃないか。

「それは違う。お前は楓に告白してフラれてるんだよ」
「あれは楓ちゃんの照れ隠しなんだよぉ!」
「そんな訳ないだろ。ちゃんと現実を見ろ!」

 俺も流石にイライラしたので声を荒げる。
 その事に少し怯えたのか、藤原は少し後ずさる。

「お前は楓にフラれた。その事実をキチンと受け入れろ!」
「う、うるさぁい! 楓ちゃんはクラスで浮いていた俺にも優しく声を掛けてくれたんだ! お前みたいなリア充イケメンに何が分かるんだよぉ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶ。
 薄々気づいていたけどこいつもぼっちだったのか。
 そこに楓に優しく声を掛けられたと。
 ぼっちなら惚れても仕方ないな。元ぼっちの俺のお墨付きだ。
 だが、それとこれは違う。

「お前の気持ちは痛い程分かるよ。でももうやめようぜ?」
「何が分かるってんだよぉ! くそくそくそ! 結局女は顔なのかよ!」

 その言葉に俺の中の何かが切れた。

「ふざけんな! 自分で努力もしない奴が他人を批判すんじゃねぇ!」
「な、なんだよ。今度はお説教かよ、これだからリア充は嫌なんだ」
「リア充リア充うるせぇんだよ!」

 俺の怒気の籠った叫びで萎縮した様に黙る。

「お前は俺の事知らないらしいから教えてやるよ! 俺も去年までぼっちだった。誰にも相手にされてこなかったよ」
「そ、そんなの嘘だ!」
「嘘じゃねぇ! 俺も昔はお前みたいにリア充爆発しろとかおもってたよ! だけど、俺はある出来事のお蔭でリア充に成る為に色んな特訓をして今の自分になれたんだ! 文句があるなら努力してみろよ!」

 俺が一気にまくし立てると

「そ、そんなの信じられる訳ないだろ! いい加減な事言うな!」

 そう叫び、近くにあった椅子を蹴飛ばした。
 そして目をギラつかせながら俺に迫って来る。
 ヤバイ! 逃げないと!
 と思い入り口のドアに近づいた時

ガラガラッ

 と俺が開ける前に開いた。
 そして中に入って来たのは部活に行ってるはずの水樹だった。

「水樹! どうしてここに?」
「いや、友也が怖い顔して教室から出てったから気になって着いてったんだよ」

 急な水樹の登場で困惑してるのは俺だけじゃなく藤原も困惑していた。
 しかし藤原は後に引けないのか水樹にまで食って掛かる。

「な、何でお前が出てくんだよ! お前には関係ないだろ!」
「俺には関係ないだと?」
「そ、そうだよ! 俺とソイツの問題なんだよ、でしゃばるなよ!」

 そう言われた水樹はグイッと俺を引き寄せて

「関係ねぇ訳ないだろ! 友達がこんな目に遭ってるのに黙ってられるか」

 そう言って水樹は俺の身体のアザを見せつける。

「流石に此処までされたら幾ら俺でも許せねぇよ」

 怒気は籠っているが静かなそのセリフに藤原は怯えながら窓際まで逃げる。

「なんだよ、自分がやられるのは嫌なのか?」
「や、やめろ! こっちにくんじゃねぇ!」

 藤原の悲痛の叫びも虚しく、水樹は藤原の胸倉を掴む

「お前、友也が言ってた事信じられねぇようだから教えてやるよ。友也は確かに去年まで誰とも関わろうとしてなかった。だけどアイツは努力して此処まで来てるんだよ! 正直凄ぇよ、どんだけ努力したんだって話だよ! それに比べてお前はなんだ? 何の努力もせずに影でコソコソやる事しかできねぇのか! 友也の言う通り努力してみろよ!」

 そう言って突き飛ばす様に手を離す。
 藤原はその勢いで尻もちをつく。

「そんなの分かってるよ、努力しないと変われないって事くらい」

 さっきまでの威勢は完全に無くなってしまった。
 俺は水樹の隣まで行き語り掛ける。

「だったら努力しようぜ? 俺だって変われたんだからきっとお前も変われるよ」

 そう言うと藤原は焦点の合ってない目で俺達を見上げ

「ハッ、努力するのにだって勇気がいるんだよ。俺にはそんな勇気はない。だからお前が羨ましかった。俺が望んだ世界を手に入れたお前が羨ましくて、憎かった」

 投げ捨てる様な言葉に水樹は

「だったら分かるだろ? 友也がどれだけ努力したか」
「……」
「お前のやってる事は最低だ、それを自覚しろ」
「……」

 水樹の言葉に何も反応を示さない。
 しかし水樹は構う事なく言葉を続ける。

「お前がこれからどうするかなんて興味は無いが、二度と友也に関わるな」
「……わかったよ」

 震える声で答える
 そこに水樹は更に追い打ちをかける。

「次は無ぇからな」

 と言って

「友也もそれでいいよな?」

 と、さっきまでの怒りの表情ではなく、いつもの水樹の表情で言ってくる。

「ああ、俺もそれが目的だったしな」
「うし、一件落着。そんじゃ行こうぜ」

 そう言って俺達は理科室を後にした。
 しかし水樹があんなに怖かったとは驚きだ。
 今度からあまりイジらない方がいいのかも……。
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