自己顕示欲の強い妹にプロデュースされる事になりました

白石マサル

文字の大きさ
73 / 167
第六章~選択~

決着?

しおりを挟む
 俺は今、川の桟橋に向かって走っている。
 急がないと楓が帰ってしまう。

 自販機から桟橋まではそれほど離れていないが、時間ギリギリだ。
 
 漸く桟橋が見えて、楓の姿も確認出来る。
 楓も俺に気づき手を振ろうとして、その手は中空で止まった。

 そして視線は俺から外れる。
 視線は俺の横を走る水瀬南に向けられていた。

 桟橋の中央に楓が佇んでいた。
 その表情には悲しみと困惑が混じっている。

 俺は敢えて楓の近くには行かず、数メートル手前で立ち止まる。
 しかしミナミは楓の隣まで行き、楓と並んで俺を見つめている。

 最初に声を挙げたのはミナミだった。

「約束通り此処まで来たんだからちゃんと聞かせてね」

 その言葉を聞いた楓が驚いている。

「え? 南が選ばれたんじゃないの?」
「最初は私もそう思ったんだけど、トモがどうしても二人同時に聞いて欲しいみたい」

 そう。俺は最初に自販機に行ってミナミと会ったが、答えはまだ伝えていない。
 俺の出した答えはどうしても二人同時に聞いて欲しかった。
 なので、ミナミに無理を言って此処まで付き合って貰ったのだ。

「友也君、どういう事?」

 と楓が聞いてくる。
 俺は姿勢を正し、二人を正面に捉えて言う。

「俺が出した決断をどうしても二人同時に聞いて欲しかった」

 戸惑う二人を余所に、俺は深く深呼吸をし、二人を見据えて言葉を続ける。

「俺は春からリア充を目指して頑張って来た。そして学校一のアイドルの楓と付き合う事が出来た。それどころかにまで好意を抱かれる様になった。夏休み前から始まったアピール対決も凄く楽しかった」

 二人は俺の言葉を神妙な面持ちで聞いている。

「俺は楓の事が大好きだ!」

 楓は涙を流している。
 南は俯いて震えているのがここからでも分かる。
 だが、俺が伝えたい事はまだ終わっていない。

「でも、南の事も楓と同じ位大好きになってた!」

 南は顔を上げてこちらを見る。

「楓が好きだ! 南が好きだ! だから今はどちらとも付き合えない」

 アピール勝負が決まった時は楓以外の選択肢は無かった。
 だが、柚希に言われ逃げる事無く南の気持ちと向き合った。

 そして気づいたら南の事を、楓と同じくらいに好きになってしまっていた。
 こんな気持ちのままどちらかと付き合うなんて事は俺には出来なかった。

 俺の懺悔にも似た言葉を聞いて、最初に口を開いたのは楓だった。

「二人とも同じ位好きだから付き合えないって事?」
「ああ、不誠実な事はしたくない」

 今度は南が口を開く。

「私がここで身を引けば楓と付き合う?」
「いや、付き合わない。例え南が身を引いたとしても俺の気持ちは変わらない」

 どちらかが身を引くという事は犠牲になるという事だ。
 そんな事をされてまで付き合おうとは思わない。

「確認なんだけど、私と南、両方好きって事でいいんだよね? 嫌いとかじゃないよね?」

 と楓が確認してくる。
 俺が二人を嫌う? そんな事はあり得ない!

「二人とも大好きだ! でも、付き合えない」

 俺の言葉を聞き、楓は「はぁ……」とため息を吐いた後

「要するに友也君が優柔不断って訳だ。もっと言えばヘタレちゃったんだね~」

 と俺にクリティカルヒットを浴びせる。
 そして続けてこう続けた。

「この先、二人の内どちらかの気持ちが強まれば付き合えるのかな?」
「俺自身、このままじゃダメだと思ってる。だから答えはちゃんと出すよ」
「その所為でどちらかが泣くとしても?」
「ああ、だから俺に時間をくれないか?」

 楓は何やら考えている。
 一方、南は瞳を輝かせ

「だったら今よりもっと好きになって貰えるようにアピールすればいいって事でしょ?」

 と南らしいポジティブな考えが飛び出した。
 そして南は楓に向かって

「アピール対決の延長戦だね! そんな風に悩んでる間にトモは貰っちゃうから!」

 と言って俺の元まで来て腕を組む。
 わざとらしく胸を当てて。
 それを見た楓が

「ふう、しょうがないか。今まで以上に積極的に行くから覚悟しておいてね!」

 と言って楓も俺の元まで来て、南とは反対側の腕に絡みつく。

「ごめんな、俺が優柔不断な所為で」
「私はそんな友也君を一年の時から知ってるから大丈夫だよ」
「わ、私だってトモの事大好きだからこんな事で諦めないよー」

 そう言って二人は火花を散らす。
 そして頷きあって二人同時に頬にキスをする。

 俺が戸惑っていると

「今のは今回答え出せなかった事のお仕置きね♪」

 と言って楓が微笑む。

「やっと南って呼んでくれたね。私も負けないから覚悟しててね♪」

 と言って南も微笑む。

 こうして俺の優柔不断によって、アピール対決は延長戦に入った。



 しかしこの状況を中居達にどう説明しよう。

 流石にこれ以上は隠し通せなそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...