自己顕示欲の強い妹にプロデュースされる事になりました

白石マサル

文字の大きさ
103 / 167
第8章~宵越しの祭り~

自信を持って

しおりを挟む
 俺達が驚いていると、水樹は得意気に

「友也の歌の上手さは俺が保証するぜ」

 と言いながら肩を組んできた。
 堪らず俺は

「いやいやいや、無理だから!」

 と俺が拒否していると、バンドの人も

「水樹君が言うなら上手いんだろうけど、ステージに立った事ないんでしょ?」

 そうだよ、いきなりステージで歌える訳が無い。
 カラオケとは違う。

 だが水樹は

「俺の時だって初めてだったぞ? それに本番迄練習すれば大丈夫だって」
「そりゃそうだけどさ……」

 いくら練習したって無理だ。
 ステージで歌う度胸なんて元ぼっちの俺にあるはずがない。

 そうだよ!
 元ぼっちがステージで歌って誰が得するんた? 
 
 みんな水樹に歌って貰いたい筈だ。
 このバンドの人だって水樹を頼りにしてきたんだ。

「歌は俺が教えるから水樹がステージに立った方がいい」
「この曲目なら友也の方が絶対上手いって」
「そうじゃなくて、みんなは水樹に歌って欲しいんだよ」
「友也?」
「俺みたいな奴がステージに立っちゃダメなんだよ」

 と言い終わるや否や、水樹は俺の胸ぐらを掴んだ。
 そして俺を睨みながら

「俺みたいな奴ってどういう意味だよ! まさか自分が元ぼっちだからその資格が無いなんて思ってるのか?」

 ヤバい! すげぇ怖い! 
 だけど

「そうだよ! 俺なんかより水樹が歌った方が盛り上がるだろ!」
「っ!? ちょっとこっち来い。純は待っててくれ」

 と言ってかなり強目に引っ張られ、非常階段の所まで連れてこられた。

 そして水樹は俺に問いかける。

「友也、まだ自分がイケて無いなんて思ってるのか?」
「そんな事は無いよ。去年よりずっと学校が楽しい」
「だったら何であんな事言ったんだ?」
「たまに……水樹達には敵わないなって思う事があるんだ。妹にさえそう思ってしまう瞬間がある」

 俺がそう言うと水樹は壁に寄りかかりながらため息と吐く。
 きっと呆れられたのだろう。
 と考えていると

「あのな友也、そんな事は誰しもが持ってるもんなんだよ。俺だってそう思う時がある」
「水樹が?」
「ああ、例えば中居だな。俺にはあんな真っすぐに物事を考えられない」
「中居は凄いよな」
「それに田口、俺にはあんなキャラは出来ない」
「やる必要ないだろ」
「それに友也、お前もだ」
「俺?」
「ああ。前にも言っただろ? お前の努力は誰よりも俺が認めてる」
「でも……」

 俺が黙っていると更に水樹は

「それに、お前の事が好きな新島や水瀬の気持ちはどうなる。お前の事を認めてるから好きになったんじゃないのか? それをお前は否定するつもりか?」

 水樹に言われ、二人の笑顔が脳裏をよぎる。
 こんな俺を好きでいてくれる。

 俺がどちらか選べない優柔不断な奴でも好きで居続けてくれている。
 
 俺は……。
 俺はなんて幸せ者なんだろう。

「水樹、俺は……」
「分かってくれたか?」
「ああ、二人の想いを踏みにじりたくない」
「それでこそ友也だ。さすが俺の好きな女をかすめ取っただけはある」

 と言って肩をポンと叩く。
 
 え? 今水樹は何て言った?

「んじゃ教室戻ろうぜ」

 と言って歩き出す水樹を引き止める。

「待ってくれ! 水樹が好きな女って?」
「あー、つい喋りすぎたな」

 と言って頭をかいている。
 そして

「実は新島の事が好きだったんだ。皆には内緒な?」

 と言い再び歩き出す。

「ちょ、冗談だよな?」

 と問いかけると

「さぁ? どうだろうな」

 とはぐらかされてしまう。
 
 水樹が好きだった相手が楓だった?
 そんな素振りは一度も見せた事ないじゃないか。

 俺を勇気づける為の嘘なのか?
 それとも……。


 教室に戻ると、さっきの言い合いの所為か皆から注目を浴びた。
 バンドの人の所まで行くと

「水樹君、大丈夫なの?」

 と不安そうに声を掛けている。
 それに対し水樹は

「全然問題ない。さっき言った通り友也に出て貰う」

 と言って軽く背中を叩かれる。

「俺でよかったら力にならせてくれ! 頼む!」

 頭を下げて頼むと、純と呼ばれている生徒は

「分かった。とりあえずどれくらい歌えるのか確認したいから今から部室まで来てもらっていいかな?」

 俺はチラリと水樹を見ると

「準備もあらかた終わってるから大丈夫だ。あと、やっぱり少し不安だから水樹も付いてきて欲しい」

 と言うと

「まぁ俺が推薦したしな。ちゃんと付き合うよ」

 と言ってくれたので、俺達はそのまま軽音楽部に向かった。


 部室に着くと

「早速で悪いんだけど、この曲歌ってもらえるかな」
「オッケー」

 スピーカーから曲が流れ、それに合わせて歌った。

 やはりカラオケと違って声があまり響かない。
 部室でこれじゃあステージだと後ろまで聞こえないかもしれない。

 それよりもバンドメンバーはどう思っているだろう。
 やはり今のじゃ厳しいかもしれない。

「えっと、どうだった?」

 と聞くと

「すげぇ! 音程もバッチリだし声量も申し分ない。それどころか最高だよ!」
「でも全然声が響いてなかったし、まだまだ練習しないと」
「いやいや、あれだけの声出しといて満足してないってどんだけだよ!」

 おお、なんだか凄く持ち上げてくれてる。
 俺のやる気を出させる為だろうか?
 と考えていると、水樹が

「友也は自己採点が厳しいんだよ。まぁカラオケで聞いた時程のインパクトは無かったな」

 と水樹が言うと

「マジで! これ以上上手くなるとかヤバイって!」

 と興奮している。
 そして

「今度は俺達の演奏に合わせて歌ってくれないか?」

 と言ってきたので

「生演奏は初めてだからよろしく頼む」

 そして今度はバンド演奏に合わせて歌った。
 
 全ての曲が終わった後

「本格的に軽音部に入ってくれないかな?」


 とスカウトされてしまったが丁寧に断った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...