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第10章~彼氏彼女の事情~
遭遇
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やっと期末試験が終わったという事で、久しぶりに沙月と二人でデートだ。
今はターミナル駅で沙月の事を待っていると、沙月が改札から出てくるのが見えた。
沙月も俺に気づいた様で小走りで俺の所までやって来る。
「おはようございます、お待たせしてすみません」
「大丈夫だよ。それにまだ時間じゃないしね」
「有難うございます」
と律儀に頭を下げる。
するとほのかにシトラスの香りがした。
恐らく沙月が香水を付けてきたのだろう。沙月のイメージにピッタリに感じた。
服装も冬らしくベージュのニット帽に赤と緑のチェックのマフラーを巻いてクリスマス感を出している。
オフホワイトのチェスターコートに紺色のミニスカートに黒のニーハイとの絶対領域が眩しい!
普段とは違う服装にやっぱり沙月は可愛いと再認識した。
「どうかしましたか?」
そう言いながら沙月が顔を覗き込んでくる。
俺は心臓を高鳴りを悟られない様に
「い、いや、何でもない。行こうか」
「はい!」
と言いながら歩き出すと、沙月が手を握って来る。
手を握るのも最初は緊張したが、今では繋ぐのが当たり前になっている。
「この間のケーキ美味しかったですね」
「そうだな。それにしても沙月と柚希はホントに仲が良いんだな」
「当たり前じゃないですか、将来の妹なんですよ!」
「ははは、そうだな。これからも柚希の事を頼む」
「はい、任されました!」
と言って謎の敬礼をする。
「ケーキの事話してたらお腹空いちゃいました」
「じゃあ映画まで時間あるし何か食べるか」
そう言って手ごろな店を探して歩いていると、コインパーキングに一際目立つ真っ赤なスポーツカーが止まっていた。
何処かで見た様な気がするが気のせいだろう。
クリスマスが近い事から街並みもクリスマス一色になっていた。
そんな中クリスマスの装飾を一切していない店があった。
その店の前で立ち止まり
「この店はクリスマスの装飾してないな」
「珍しいですね。あ! メニューが置いてありますよ」
「本当だ。イタリアンかぁ。どうする沙月」
「ここにしましょう! ケーキもありますし!」
「それじゃあここにするか」
店内は大小合わせて12テーブルあり、壁には装飾として食器が飾られている。入り口から遠くにあるバーカウンターには高そうなワインボトルがズラリと並んでいる。
高校生の俺達には場違いかなと思っていると、店員が優しく話しかけてきて二人掛けのテーブルに案内された。
メニューを渡され「ご注文が決まりましたら御呼び下さい」と言って他のテーブルへ向かって行った。
「なんか大人な雰囲気ですね」
「そうだな、落ち着く感じがする」
等と言ったが、こんなオシャレな店は初めてなので雰囲気に飲まれそうになる。
それを誤魔化す為にメニューを見ていると
「友也さん友也さん」
沙月が焦った様に声を掛けて来た。
「どうした?」
「と、隣! 隣見てください」
「ん? 隣がどうかし……」
沙月に促され隣を見ると、そこにはバイト先の店長である真弓さんが居た。
居ること自体には驚かないのだが、ピシッ!っとスーツを着た男性と一緒だったのだ。
いつも気丈に振る舞い、スーツでキメている真弓さんが可愛らしい服装をしていた事にも驚いた。
「い、いつから居たんだ?」
「さっき入って来ました。どうしましょう?」
「どうしましょうって言われても」
「やっぱりデートですよね?」
「だと思うぞ。店長があんな格好してる位だからな」
沙月と二人でチラッと真弓さんの方を見たらバッチリ目が合ってしまった。
真弓さんはこの世の終わりの様な表情をした後、直ぐに視線を外した。
「ヤバイな」
「ヤバイですね」
次のバイトのシフトはいつだったかなー、まだ死にたくないなー。
なんて考えていると、隣の話声が聞こえてきた。
「どうしたんだい真弓、隣の方がどうかしたかい?」
「え? べ、別に何でもないですよ?」
「でも、いつもと様子が違うじゃないか」
「そ、それは……」
「分かった。僕が注意してくるよ」
「「「えっ!?」」」
俺と沙月、真弓さんの声が綺麗に重なった。
不信に思った彼氏が真弓さんに向かって
「何か僕に隠してるのかな?」
「か、隠してるとかじゃ……」
「だったら話せるよね?」
真弓さんは一度チラリと睨んでから観念した様に白状する。
「実は、隣の席の二人は私の店の従業員なんです」
「なんだ、そういう事だったのか」
「黙っていてごめんなさい」
「そういう事情なら仕方ないさ」
俺はメニューを見ながら聞き耳を立て、どうやら丸く収まった事に安心する。
万が一彼氏との仲が悪くなったりしてたら後でとばっちりを受けそうだったからだ。
これで一安心と思いメニューを見ていると
「やぁ君達、少しいいかな?」
そう言って突然彼氏が話しかけて来た。
嫌な予感を覚えつつも応対する。
「はい、何でしょうか?」
「君達は真弓さんの店のスタッフかい?」
「はい、いつも店長にはお世話になってます」
「提案なんだけど、僕達と一緒に食事をしないかい? 当然僕の奢りだから心配しなくてもいいよ」
そう言われ、真弓さんを見ると、全力で首を左右に振っていた。
あんな必死な真弓さんは初めて見るな。
「お誘いは嬉しいのですが、折角のデートの邪魔をしたくないので」
「邪魔なんかじゃないさ。それに、普段の真弓さんの事も聞きたいしね」
「いえ、ホントに大丈夫なんで」
「学生が遠慮する事はないさ。あ! 君、すまないけど席を移動させて貰ってもいいかな?」
こっちの話を全く聞かないで、近くに居た店員に席を移動できるよう頼みだした。
こうなったら諦めるしかない。
出来るだけ真弓さんを持ち上げよう! と沙月とアイコンタクトをとる。
4人掛けのテーブルに移動すると、早速彼氏が
「好きな物を頼んでいいからね。“僕の奢り”だから」
「有難うございます。えっと、それじゃあ僕は日替わりランチをお願いします」
「わ、私も同じのをお願いします」
真弓さんの前で下手な事は出来ないので、無難に日替わりランチを頼む。
沙月はいつもの元気がどこかへ吹き飛んでしまっていて口数も少なくなっている。
ここは男の俺がリードしないとだよな。
「自己紹介が遅れて申し訳ありません。佐藤友也といいます。真弓さんにはいつもお世話になってます」
「あ、私は桐谷沙月です」
「おっと、僕は長野健也だ。友也君に沙月くんだね、よろしく」
「よろしくお願いします」
自己紹介が終わると、そこから先は長野さんの独壇場だった。
一流の企業に勤めていることや、学歴からルックスまで、あらゆる自慢話を聞かされた。
それは料理が来てからも続き、俺と沙月は愛想笑いをするのに精一杯だった。
食事が一通り済むと、今度はこちらに質問が投げられた。
「君達はこの後の予定は決めてあるのかな?」
「はい、映画を見る予定です」
「奇遇だね、僕達も映画に行く予定だんたんだよ。折角だし一緒にどうだい?」
「それは流石に迷惑になるので遠慮させてください」
「ははは、別に一緒に映画を見ようって言ってる訳じゃないんだ。映画館まで一緒にって事さ」
その映画館までの道中もデートの内だろ! と思ったが断ると後が怖いので
「そ、それでしたら映画館までご一緒します」
「うんうん、やっぱり素直が一番だね」
宣言通り長野さんが支払いをしてくれてお礼を言うと、満足そうな顔をしていた。
真弓さんは真弓さんで、殆ど喋っていないのが気になる。
一体どれ程の猫を被ればこうなるのか知りたい。
前に真弓さんと長野さん、その後ろに沙月と俺という形で映画館に向かう。
途中途中で長野さんが振り返って話題を振ってくるので、もはやデートという雰囲気ではなくなっていた。
沙月にはまた今度埋め合わせしないとな。
と考えていたら、こちらに振り返った長野さんが他の通行人にぶつかってしまった。
申し訳ない。と言って再び歩き出そうとする長野さんを、ぶつかった相手が引き止める。
「ちょっと待てやコラァ!?」
長野さんがぶつかった相手は運悪く、所謂ヤンキーという物だった。しかも二人組。
しかし長野さんは臆する事なく対応する。
「なんだい? 謝罪ならしただろう」
「あぁ? テメェ舐めてんのか? あぁん!?」
「ふむ、舐めている訳ではないんだが、君はどうしてそこまで怒っているのかな?」
「はぁ? お前マジふざけてんじゃねぇぞ!」
きっと長野さんは素なのだろうが、その態度は火に油を注いでる様にしか見えない。
このままじゃヤバイと思い助けに入る。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。長野さんもキチンと謝罪しないと駄目ですよ」
「あぁ? なんだテメェ! コイツのツレか?」
「ええ、まぁそんな所です。この度は申し訳ありませんでした」
「オメェに謝られてもしょうがねぇんだよ!」
「ソイツが舐めた態度取ってっからムカついてんだよ!」
俺が長野さんに取りあえずちゃんと謝る様に言うが、長野さん拒否しつづける。
そんな長野さんに興味を無くしたのか、隣に居た真弓さんに絡みだした。
「結構可愛いじゃん。あんな奴放って置いて俺等と遊ぼうぜ」
「キャッ! 止めてください」
この期に及んでまだ猫を被っているセリフに鳥肌が立つ。
だがこのままじゃヤバイと思い止めに入ろうとすると、もう一人のヤンキーが沙月に目を付けた。
「この子めっちゃ可愛いじゃん!」
と言って沙月の肩に手を伸ばした。
沙月に触れる寸での所でヤンキーの手首を掴む。
なんだテメェ!? と何やら騒いでいるが、今の俺には関係ない。
「俺の彼女に触るな!」
そう言って相手の手首を捻り、そのまま背後に周って関節を極める。
一連を見ていたもう一人が
「なにやってんだテメェ!」
と叫びながらこちらに来ようとしたが、その場で転んでしまった。
「あら、ごめんなさい」
どうやら真弓さんが足を引っかけたらしい。
ヤンキーはそれに激情して罵声を浴びせる。
「何しやがんだクソババァ!?」
「あ? なんて言った小僧」
あ、ヤンキー終わったな。
今の一言で被っていた猫が何処かへ消えた。
その後の事はとても人に聞かせられる内容ではないので割愛したい。
ただ一言だけ言うなら
般若は存在した!
これだけだろう。
そして今は真弓さんが長野さんに説教している。
「自分の彼女が絡まれているのに助けに入らないとは何事か!」
「すみません」
「それに友也達のデートに割り込んで邪魔するんじゃない! 自分がやられたら嫌だろう」
「すみません」
「確かにステータスは高いが自分中心に考えすぎな所も直せ!」
「すみません」
言いたい事を言って満足したのか、真弓さんは
「友也、沙月、行くぞ」
そう言って「真弓さん待って~」と追い縋る彼氏を置き去りにして歩きだした。
俺と沙月は今の真弓さんに逆らえる訳も無く後を着いていった。
暫く歩いてコインパーキングの近くで真弓さんが急に立ち止まり
「やってしまったぁーー! 折角の玉の輿だったのにーー!」
と言ってその場にしゃがみ込んでしまった。
その状態で俺にしがみ付き
「でもしょうがないよな? あんな軟弱な所見せられたら誰だってムカつくよな?」
「お、落ち着いてください」
「沙月はいいよなぁ。ちゃんと友也が守ってくれて」
「ま、真弓さん、落ち着きましょ?」
「うぅ、どうせ私なんて誰も守ってくれないんだ」
そう言って顔をうずめて落ち込んでしまった。
俺と沙月は落ち込んだ真弓さんを立ち直らせるのに1時間程慰め、映画は諦めた。
余談だが、コインパーキングにあった真っ赤なスポーツカーは真弓さんの車だった。
今はターミナル駅で沙月の事を待っていると、沙月が改札から出てくるのが見えた。
沙月も俺に気づいた様で小走りで俺の所までやって来る。
「おはようございます、お待たせしてすみません」
「大丈夫だよ。それにまだ時間じゃないしね」
「有難うございます」
と律儀に頭を下げる。
するとほのかにシトラスの香りがした。
恐らく沙月が香水を付けてきたのだろう。沙月のイメージにピッタリに感じた。
服装も冬らしくベージュのニット帽に赤と緑のチェックのマフラーを巻いてクリスマス感を出している。
オフホワイトのチェスターコートに紺色のミニスカートに黒のニーハイとの絶対領域が眩しい!
普段とは違う服装にやっぱり沙月は可愛いと再認識した。
「どうかしましたか?」
そう言いながら沙月が顔を覗き込んでくる。
俺は心臓を高鳴りを悟られない様に
「い、いや、何でもない。行こうか」
「はい!」
と言いながら歩き出すと、沙月が手を握って来る。
手を握るのも最初は緊張したが、今では繋ぐのが当たり前になっている。
「この間のケーキ美味しかったですね」
「そうだな。それにしても沙月と柚希はホントに仲が良いんだな」
「当たり前じゃないですか、将来の妹なんですよ!」
「ははは、そうだな。これからも柚希の事を頼む」
「はい、任されました!」
と言って謎の敬礼をする。
「ケーキの事話してたらお腹空いちゃいました」
「じゃあ映画まで時間あるし何か食べるか」
そう言って手ごろな店を探して歩いていると、コインパーキングに一際目立つ真っ赤なスポーツカーが止まっていた。
何処かで見た様な気がするが気のせいだろう。
クリスマスが近い事から街並みもクリスマス一色になっていた。
そんな中クリスマスの装飾を一切していない店があった。
その店の前で立ち止まり
「この店はクリスマスの装飾してないな」
「珍しいですね。あ! メニューが置いてありますよ」
「本当だ。イタリアンかぁ。どうする沙月」
「ここにしましょう! ケーキもありますし!」
「それじゃあここにするか」
店内は大小合わせて12テーブルあり、壁には装飾として食器が飾られている。入り口から遠くにあるバーカウンターには高そうなワインボトルがズラリと並んでいる。
高校生の俺達には場違いかなと思っていると、店員が優しく話しかけてきて二人掛けのテーブルに案内された。
メニューを渡され「ご注文が決まりましたら御呼び下さい」と言って他のテーブルへ向かって行った。
「なんか大人な雰囲気ですね」
「そうだな、落ち着く感じがする」
等と言ったが、こんなオシャレな店は初めてなので雰囲気に飲まれそうになる。
それを誤魔化す為にメニューを見ていると
「友也さん友也さん」
沙月が焦った様に声を掛けて来た。
「どうした?」
「と、隣! 隣見てください」
「ん? 隣がどうかし……」
沙月に促され隣を見ると、そこにはバイト先の店長である真弓さんが居た。
居ること自体には驚かないのだが、ピシッ!っとスーツを着た男性と一緒だったのだ。
いつも気丈に振る舞い、スーツでキメている真弓さんが可愛らしい服装をしていた事にも驚いた。
「い、いつから居たんだ?」
「さっき入って来ました。どうしましょう?」
「どうしましょうって言われても」
「やっぱりデートですよね?」
「だと思うぞ。店長があんな格好してる位だからな」
沙月と二人でチラッと真弓さんの方を見たらバッチリ目が合ってしまった。
真弓さんはこの世の終わりの様な表情をした後、直ぐに視線を外した。
「ヤバイな」
「ヤバイですね」
次のバイトのシフトはいつだったかなー、まだ死にたくないなー。
なんて考えていると、隣の話声が聞こえてきた。
「どうしたんだい真弓、隣の方がどうかしたかい?」
「え? べ、別に何でもないですよ?」
「でも、いつもと様子が違うじゃないか」
「そ、それは……」
「分かった。僕が注意してくるよ」
「「「えっ!?」」」
俺と沙月、真弓さんの声が綺麗に重なった。
不信に思った彼氏が真弓さんに向かって
「何か僕に隠してるのかな?」
「か、隠してるとかじゃ……」
「だったら話せるよね?」
真弓さんは一度チラリと睨んでから観念した様に白状する。
「実は、隣の席の二人は私の店の従業員なんです」
「なんだ、そういう事だったのか」
「黙っていてごめんなさい」
「そういう事情なら仕方ないさ」
俺はメニューを見ながら聞き耳を立て、どうやら丸く収まった事に安心する。
万が一彼氏との仲が悪くなったりしてたら後でとばっちりを受けそうだったからだ。
これで一安心と思いメニューを見ていると
「やぁ君達、少しいいかな?」
そう言って突然彼氏が話しかけて来た。
嫌な予感を覚えつつも応対する。
「はい、何でしょうか?」
「君達は真弓さんの店のスタッフかい?」
「はい、いつも店長にはお世話になってます」
「提案なんだけど、僕達と一緒に食事をしないかい? 当然僕の奢りだから心配しなくてもいいよ」
そう言われ、真弓さんを見ると、全力で首を左右に振っていた。
あんな必死な真弓さんは初めて見るな。
「お誘いは嬉しいのですが、折角のデートの邪魔をしたくないので」
「邪魔なんかじゃないさ。それに、普段の真弓さんの事も聞きたいしね」
「いえ、ホントに大丈夫なんで」
「学生が遠慮する事はないさ。あ! 君、すまないけど席を移動させて貰ってもいいかな?」
こっちの話を全く聞かないで、近くに居た店員に席を移動できるよう頼みだした。
こうなったら諦めるしかない。
出来るだけ真弓さんを持ち上げよう! と沙月とアイコンタクトをとる。
4人掛けのテーブルに移動すると、早速彼氏が
「好きな物を頼んでいいからね。“僕の奢り”だから」
「有難うございます。えっと、それじゃあ僕は日替わりランチをお願いします」
「わ、私も同じのをお願いします」
真弓さんの前で下手な事は出来ないので、無難に日替わりランチを頼む。
沙月はいつもの元気がどこかへ吹き飛んでしまっていて口数も少なくなっている。
ここは男の俺がリードしないとだよな。
「自己紹介が遅れて申し訳ありません。佐藤友也といいます。真弓さんにはいつもお世話になってます」
「あ、私は桐谷沙月です」
「おっと、僕は長野健也だ。友也君に沙月くんだね、よろしく」
「よろしくお願いします」
自己紹介が終わると、そこから先は長野さんの独壇場だった。
一流の企業に勤めていることや、学歴からルックスまで、あらゆる自慢話を聞かされた。
それは料理が来てからも続き、俺と沙月は愛想笑いをするのに精一杯だった。
食事が一通り済むと、今度はこちらに質問が投げられた。
「君達はこの後の予定は決めてあるのかな?」
「はい、映画を見る予定です」
「奇遇だね、僕達も映画に行く予定だんたんだよ。折角だし一緒にどうだい?」
「それは流石に迷惑になるので遠慮させてください」
「ははは、別に一緒に映画を見ようって言ってる訳じゃないんだ。映画館まで一緒にって事さ」
その映画館までの道中もデートの内だろ! と思ったが断ると後が怖いので
「そ、それでしたら映画館までご一緒します」
「うんうん、やっぱり素直が一番だね」
宣言通り長野さんが支払いをしてくれてお礼を言うと、満足そうな顔をしていた。
真弓さんは真弓さんで、殆ど喋っていないのが気になる。
一体どれ程の猫を被ればこうなるのか知りたい。
前に真弓さんと長野さん、その後ろに沙月と俺という形で映画館に向かう。
途中途中で長野さんが振り返って話題を振ってくるので、もはやデートという雰囲気ではなくなっていた。
沙月にはまた今度埋め合わせしないとな。
と考えていたら、こちらに振り返った長野さんが他の通行人にぶつかってしまった。
申し訳ない。と言って再び歩き出そうとする長野さんを、ぶつかった相手が引き止める。
「ちょっと待てやコラァ!?」
長野さんがぶつかった相手は運悪く、所謂ヤンキーという物だった。しかも二人組。
しかし長野さんは臆する事なく対応する。
「なんだい? 謝罪ならしただろう」
「あぁ? テメェ舐めてんのか? あぁん!?」
「ふむ、舐めている訳ではないんだが、君はどうしてそこまで怒っているのかな?」
「はぁ? お前マジふざけてんじゃねぇぞ!」
きっと長野さんは素なのだろうが、その態度は火に油を注いでる様にしか見えない。
このままじゃヤバイと思い助けに入る。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。長野さんもキチンと謝罪しないと駄目ですよ」
「あぁ? なんだテメェ! コイツのツレか?」
「ええ、まぁそんな所です。この度は申し訳ありませんでした」
「オメェに謝られてもしょうがねぇんだよ!」
「ソイツが舐めた態度取ってっからムカついてんだよ!」
俺が長野さんに取りあえずちゃんと謝る様に言うが、長野さん拒否しつづける。
そんな長野さんに興味を無くしたのか、隣に居た真弓さんに絡みだした。
「結構可愛いじゃん。あんな奴放って置いて俺等と遊ぼうぜ」
「キャッ! 止めてください」
この期に及んでまだ猫を被っているセリフに鳥肌が立つ。
だがこのままじゃヤバイと思い止めに入ろうとすると、もう一人のヤンキーが沙月に目を付けた。
「この子めっちゃ可愛いじゃん!」
と言って沙月の肩に手を伸ばした。
沙月に触れる寸での所でヤンキーの手首を掴む。
なんだテメェ!? と何やら騒いでいるが、今の俺には関係ない。
「俺の彼女に触るな!」
そう言って相手の手首を捻り、そのまま背後に周って関節を極める。
一連を見ていたもう一人が
「なにやってんだテメェ!」
と叫びながらこちらに来ようとしたが、その場で転んでしまった。
「あら、ごめんなさい」
どうやら真弓さんが足を引っかけたらしい。
ヤンキーはそれに激情して罵声を浴びせる。
「何しやがんだクソババァ!?」
「あ? なんて言った小僧」
あ、ヤンキー終わったな。
今の一言で被っていた猫が何処かへ消えた。
その後の事はとても人に聞かせられる内容ではないので割愛したい。
ただ一言だけ言うなら
般若は存在した!
これだけだろう。
そして今は真弓さんが長野さんに説教している。
「自分の彼女が絡まれているのに助けに入らないとは何事か!」
「すみません」
「それに友也達のデートに割り込んで邪魔するんじゃない! 自分がやられたら嫌だろう」
「すみません」
「確かにステータスは高いが自分中心に考えすぎな所も直せ!」
「すみません」
言いたい事を言って満足したのか、真弓さんは
「友也、沙月、行くぞ」
そう言って「真弓さん待って~」と追い縋る彼氏を置き去りにして歩きだした。
俺と沙月は今の真弓さんに逆らえる訳も無く後を着いていった。
暫く歩いてコインパーキングの近くで真弓さんが急に立ち止まり
「やってしまったぁーー! 折角の玉の輿だったのにーー!」
と言ってその場にしゃがみ込んでしまった。
その状態で俺にしがみ付き
「でもしょうがないよな? あんな軟弱な所見せられたら誰だってムカつくよな?」
「お、落ち着いてください」
「沙月はいいよなぁ。ちゃんと友也が守ってくれて」
「ま、真弓さん、落ち着きましょ?」
「うぅ、どうせ私なんて誰も守ってくれないんだ」
そう言って顔をうずめて落ち込んでしまった。
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4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
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