自己顕示欲の強い妹にプロデュースされる事になりました

白石マサル

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最終章~自己顕示欲~

九死に一生

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 柚希が男と歩いている!
 もう景山の時のような付き合いはしないと宣言していたのに。

 それとも今回は純粋に好きになったのだろうか?
 どう見ても男の方は高校生ではないから男友達ではないだろう。
 くそ! 気になる!

 俺が少し混乱していると

「あれれ? あっちの方向ってホテル街じゃない? 柚希ちゃんも大人なんだなぁ~」
「は? ホテル街だと!」

 田口の胸倉を掴み、我を忘れて問いただしていると

「ちょ、友也さん! 落ち着いてください!」

 と沙月が無理やり間に入って俺と田口を引き離す。

「ご、ごめんよ~。佐藤君がこんなに怒る所初めてっしょ~」
「悪い、取り乱した」

 自分でも驚いた。柚希の事になるとここまで理性を無くすなんて……。

「でも柚希ちゃん本気なんですかね? 本当にホテルに入っちゃうんでしょうか?」
「……悪い沙月、俺は柚希の後をつける」
「大丈夫ですよ! 私も気になりますから着いて行きます」

 俺と沙月が柚希の後をつける算段をしていると

「俺も一緒に行くよ。万が一の時は任せてよ!」

 こうして俺達三人は柚希の後をつける事になった。


 尾行を始めて直ぐ、柚希と男はホテルが密集している路地に入っていった。
 今すぐ走り出して柚希を止めに入りたい衝動を抑えて尾行していると

「あれ? なんだか様子がおかしくね?」
「本当ですね、何か言い争ってる様に見えます」

 確かに二人の言う通り、柚希が何か激しく言っている様に見える。
 どうなってるんだ? もしかして柚希からしてもホテルは予想外だったのか?

「なんか、さっきより激しくなってますね」
「くそ! この距離じゃ何を言ってるか聞こえないな」
「どうする? もう少し近づいてみる?」
「いや、これ以上は隠れる場所も無いし、今は此処で様子を見よう」

 そうは言ったものの、俺の頭はまだ混乱していた。
 前回のようなやり方は止めて、俺の妹として地位を確立するといっていた。
 柚希は良くも悪くも言った事は本当に実行する。
 だからこそ、今見知らぬ男とホテル街に居る事が不可解でならない。

 そんな事を考えながら二人の様子を監視していると動きがあった。
 柚希がこちらに向かって帰ろうとしたのだ。
 だが男は柚希の腕を掴んで無理やりホテルに連れ込もうとしている。

「佐藤君!」
「ああ、行くぞ! 沙月はここで待ってろ」
「は、はい!分かりました」

 俺と田口が隠れていた場所から烈火の如く足り出した。
 あっという間に二人の近くまで近づき

「その手を離せ! クソ野郎!」
「あんまおイタしてっとブッとばしちゃうよ~」

 俺達の存在に気づいた二人は驚愕の表情を見せた後

「な、なんだてめぇらは!」
「俺は柚希の兄貴だよ」
「そんで俺はその兄貴の友人で~す」
「お、お兄ちゃん!」

 俺は不安がる柚希に向けて笑顔で答えると

「そんで? お前は妹に何してんだ? っつーかどこのどいつ……ん?」

 あれ? この男の顔どこかでみたような……。
 確かバイト中だった気が……っ! 思い出した! 景山だ!
 前に一度だけ店に来て、取り巻きから景山って呼ばれてたんだ。
 それで柚希に別れる様に言ったんだった。

「お前、景山だろ? もう妹とは別れたんじゃないのか?」
「っ! くそ!」
「あっ! お、おい! 待て!」

 男の正体が景山と気づくと、景山は掴んでいた柚希の腕を振り払い猛ダッシュで逃げ出した。
 それを見た田口が直ぐに追いかける。
 俺は柚希に駆け寄り抱きかかえる。

「大丈夫か?」
「……う、うん」

 なんとか返事は返って来たが、恐怖で身体が震えている。
 
「ハァハァ、沙月ちゃん、大丈夫?」
「沙月、何で来たんだ!」
「だって、私も沙月ちゃんが心配で……それに男の人は逃げちゃったじゃないですか」
「だからって……まぁしょうがない、沙月は柚希を見ててくれ。俺も追いかける」
「分かりました!」

 景山が逃げた方向に向かうと、何故か田口が逆走してきた。

「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ヤバイって! アイツ完全にイッちゃってるよ~」
「は? 一体どういう……」

 その時、田口が出て来た角からワゴンタイプの車が物凄い勢いで飛び出してきた。
 もしかしてあれに景山が乗ってるのか?

「田口! もしかしてアノ車って」
「柚希ちゃんに絡んでた男が乗ってるよ。それにあのスピードは俺達をひき殺すつもりかも~」
「くそ!」

 慌てて俺も踵を返し、もと来た道を全力疾走で逃げる。
 俺達が走っている間も車はどんどんスピードを上げて迫って来る。
 
 柚希と沙月のいる場所まで戻って来たが、車がすぐそこまで迫っていた。

「田口! 沙月は任せた!」
「りょうかい!」

 俺と田口はそれぞれ柚希と沙月を抱きかかえ、寸での所で車を躱した。
 そのまま走り去っていく車を睨み付け、柚希と沙月の無事を確認する。

「田口ー! 沙月は無事かー?」
「問題ないよ~」
「友也さ~ん、私はなんともないです」

 ふぅ、二人とも無事みたいだ。

「柚希、大丈夫か?」
「……」
「柚希!」
「……んんっ、大丈夫」
「はぁ、良かった」

 田口と沙月も合流すると

「っていうかあの男なんなん? 尋常じゃないっしょ」
「……あの男の名前は景山だ。柚希の元カレだよ」
「えぇっ! マジで!」
「ああ、とりあえず場所を移動しよう。柚希にも詳しく聞きたい事もあるしな」

 俺達は落ち着いて話をするために、近くの喫茶店に入った。
 席に座り、注文を済ませても柚希は俯いたままだった。

「……という感じで別れたんだ」
「はえ~、そうだったんか~」
「私は直接誘われたので、柚希ちゃんがアイツと別れたって聞いた時は安心しました」
 
 忘れもしない! アイツは柚希と付き合ってるにも関わらず沙月にまで手を出そうとしやがったんだ!
 それだけでも許せないのに、今回は柚希を無理やりホテルに連れ込もうとしやがった!


 柚希が俯いたまま話そうとしなかったので、俺が粗方の説明をした。
 説明を終えると、俺達には一つの疑問が浮かぶ。

「柚希、どうして景山と一緒に居たんだ?」

 俺の問いかけにも反応を示さない。
 だが、それでも俺は柚希に問いかける。

「ホテルの前で何を話してたんだ?」
「……」
「俺達が偶然助けに入らなかったらどうなってたか分かってるのか?」
「……」
「アイツは俺達をひき殺そうとしたんだぞ! もう柚希一人の問題じゃないんだ」
「……っ」

 ずっと俯いていた柚希が顔を挙げ、俺達の顔を見回すと

「……ごめんなさい」

 と頭を下げた。
 そしてそのまま言葉を紡ぎ

「お兄ちゃんや皆に迷惑を掛けられないと思って黙ってたけど、景山と別れた後もアイツから着信やメッセージが途絶えなかったの。いくらブロックしてもアカウントを変えて何度でもやり直さないか? って言われてた」

 まさかそんな状況になっていたなんて……。
 

「それで、一回だけ会って話をしようって事になって、それが今日だったの」

 アイツと会ってたのはそういう事だったのか。

「実際に会ったらリラックスしながら話そうって言われて、着いてったらホテル街で、どういう事なのか問いただしたら一回ヤれば気が済むからいいだろ? って言って無理やり連れ込まれそうになった所をお兄ちゃん達に助けられたの」

 柚希は再び頭を下げて

「ありがとうございました」

 と言って涙を流した。

 くそ! 妹がこんな状況になっていたのに気づかなかったなんて兄貴失格だ!
 それに柚希をこんな目に遇わせた景山は許せない!

「柚希! これからはどんな些細な事でも言えよ、俺が絶対守ってやるからな!」
「……お兄ちゃん」

 俺がそう言って柚希と見つめ合ってると、田口がワザとらしい咳払いをして

「ちっちっち! 俺がじゃなくて、俺達がでしょ?」
「ああ、そうだな」
「柚希ちゃん! 私も相談に乗るからね! 何でも話してくれていいからね!」
「そうだな。柚希、お前は一人じゃないんだ。困った事があったら誰でもいい、相談してくれ」
「……うん、ありがとう」

 こうして柚希に新しく心を開ける仲間が増えた。
 
 今まで粘着質に柚希に絡んできた景山が今日の一件で諦めたかどうかは分からないが、今は柚希の心からの笑顔で良しとしよう。
 
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