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大魔獣を退治する
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ユーリス様の顔を見ると、自然と頬がほころんでいくのが分かる。
その後アルの存在にも気がついたようで、私を自分の背中にかばい、アルに対して剣を構える。
「貴様は何者だ!!」
私がアルに剣を向けていたのを見ての咄嗟の判断だろうけど、このような混乱状況にあっても私を守ってくれようとするユーリス様に、不謹慎だけど喜びを覚えた。
「そうかお前がユーリス騎士隊長か、さすがの迫力だな。だが、私のことが分からないとは騎士隊長の名折れだぞ。王城で何度か顔を合わせたこともあるはずだ・・・。気がつかないか?」
「王城で・・・まさか・・あなた様は・・」
ユーリス様は呆然としばらく目の前のアルの顔を見つめていたが、突然足元に膝を着いて、最上級の礼をする。
「アルフリード王太子殿下。先ほどのご無礼をおゆるしください」
私の頭の中は、再びパニックになる。王太子って王様の子供って事だよね、そういえばゆいかちゃんが言っていた、婚約者の王子様ってアルのことなの?!
ユーリス様の背後にいる私は、あまりの衝撃に体中の力が抜けて、剣が手から離れ地面に落ちる。
「アルは、王子様だったの?」なんとか声を絞り出す。
「クラマ。すまない嘘をついていて、だがあの段階で正体を明かすわけにはいかなかった。まだお前の能力についても、よくわからなかったからな。私はアルフリード・ファン・デ・ウェースプ。この王国の第一王子だ。幸い、時間はたっぷりある。ゆっくりと説明させて欲しい。それにユーリス騎士隊長も礼をといてくれ、この状況の説明をしよう」
アルは・・アルフリード王子は、ユーリス様に敬礼をやめさせると、まず順を追って、話し始めた。
その理路整然とした無駄な言葉のない説明で、この私でもすぐに理解できた。この国を二分する勢力のこと、国王陛下が病状に付しており、時期国王争いが深刻になっていること。
アルフリード王子と私が図書館で出会ったのは、ただの偶然であって意図したものではなかったこと。
ユーリス様には私の能力についても、簡潔に要点をまとめて説明した。先ほどあったアルへの不信感が、払拭されていく。
そうだった、アルは・・・いつも私に優しかった。
全てが明らかになった今、私も私のすべきことをしなければいけない。
勇気を持って話そう。そう心に決めた。
「アルフリード王子。分かりました。お話をしていただいてありがとうございました。私があなたのことを誤解していたことは、よく分かりました。逃げ出したことを、お詫びします。
アルフリード王子、ユーリス様、これから私が話すことは、今まで誰にも聞かせたことはありません。はじめに結論から申し上げると、ごめんなさい。私もお二方に嘘をついていました」
私は、淡々とこの異世界に来てから起こったことを、できるだけ順序だてて話した。
自分が聖女と一緒にこの世界に召喚されて、魔力ゼロと判断されて、捨てられたこと。
それでもなんとか頑張って、この世界で生きていこうと決意したこと。
美容魔法で髪と目の色を変えていて、これが本来の自分であること。自分が本当は17歳の少女であること。
大神殿で起こったことを話すときは、少し涙ぐみそうになったけど、こらえてなんとか話しきった。
お二人とも黙って真剣な顔で、私が話すのを聞いてくれていた。私が女だといったときには、特にアルフリード王子様がすごく驚愕した顔になった。
ううぅ・・・完璧男にみえてたから、すごく驚いたんだろうなぁ。私、胸はとってもささやかな感じだから・・・。あ・・自分で言ってて、自分で落ち込む。
ユーリス様もすごく残念だろうな。男のクラマが好きだったのに、実は女でサクラっていう名前だったなんて。
もう、あの溺愛マックススマイルは、見られないんだろうか。なんだか、寂しい。
「クラマ・・・いやサクラというのが本名なのですね。サクラは、じゃあ聖女なの?」
ユーリス様が優しく、語り掛けるように質問する。
私は首を横に振りながら言った。
「違うと思います。セイアレス大神官も違うといいました。それに私、魔力ゼロですし、できることといえば、この時を止める能力だけです」
「でも、その能力は未知なるものだよ。私には君が聖女だとしか思えない。魔力ゼロということで、大神殿を追い出されたことは本当に幸運だった。あそこにいればセイアレス大神官の駒として利用されるだけだ」
ユーリス様が言う。私は、ゆいかちゃんのことを思い出して、急に心配になった。
「あの!聖女様、ゆいかちゃんは、今大丈夫なんでしょううか?聖女様には、そんなひどいことをしないと思って安心していたのですが」
いまだ私が女だって事への衝撃事実で、ずっと固まっていたアルフリード王子が口を開いた。
「聖女は神殿にずっとこもって祈りを捧げているはずだ。だがそれは建前で、おそらく聖女の力を早く発現してもらうために、なんらかの修行はしているとは思うが、彼らにとっての切り札だから、無体な目には遭っていないはずだ。安心しろ。それにユイカはそんなたまじゃない」
それを聞いてほっとした。自分は運よく訓練場で職をみつけ、たくさんの優しい人たちに囲まれて、楽しく生活していた分、負い目があったのかもしれない。
「とにかく今は大魔獣討伐が先だ。ユーリス騎士隊長。手伝って欲しい。サクラお前はここで待っていろ」
アルフリード王子が、前線に立って戦って戦死した騎士様が落としたであろう剣を拾って、肩に担ぎながら言う。
その横を並ぶようにユーリス様が、大魔獣のほうに歩いていく。
「あ・・でも、私だって役に立つと思うんです。ほら前の世界で剣を習ってましたから。意外と強かったんですよ」と剣で素振りをする。二人の生暖かい視線がすごく痛い。
「「いいから、そこで見ていろ!(てください)!」」
あ・・・二人でハモった。
その後アルの存在にも気がついたようで、私を自分の背中にかばい、アルに対して剣を構える。
「貴様は何者だ!!」
私がアルに剣を向けていたのを見ての咄嗟の判断だろうけど、このような混乱状況にあっても私を守ってくれようとするユーリス様に、不謹慎だけど喜びを覚えた。
「そうかお前がユーリス騎士隊長か、さすがの迫力だな。だが、私のことが分からないとは騎士隊長の名折れだぞ。王城で何度か顔を合わせたこともあるはずだ・・・。気がつかないか?」
「王城で・・・まさか・・あなた様は・・」
ユーリス様は呆然としばらく目の前のアルの顔を見つめていたが、突然足元に膝を着いて、最上級の礼をする。
「アルフリード王太子殿下。先ほどのご無礼をおゆるしください」
私の頭の中は、再びパニックになる。王太子って王様の子供って事だよね、そういえばゆいかちゃんが言っていた、婚約者の王子様ってアルのことなの?!
ユーリス様の背後にいる私は、あまりの衝撃に体中の力が抜けて、剣が手から離れ地面に落ちる。
「アルは、王子様だったの?」なんとか声を絞り出す。
「クラマ。すまない嘘をついていて、だがあの段階で正体を明かすわけにはいかなかった。まだお前の能力についても、よくわからなかったからな。私はアルフリード・ファン・デ・ウェースプ。この王国の第一王子だ。幸い、時間はたっぷりある。ゆっくりと説明させて欲しい。それにユーリス騎士隊長も礼をといてくれ、この状況の説明をしよう」
アルは・・アルフリード王子は、ユーリス様に敬礼をやめさせると、まず順を追って、話し始めた。
その理路整然とした無駄な言葉のない説明で、この私でもすぐに理解できた。この国を二分する勢力のこと、国王陛下が病状に付しており、時期国王争いが深刻になっていること。
アルフリード王子と私が図書館で出会ったのは、ただの偶然であって意図したものではなかったこと。
ユーリス様には私の能力についても、簡潔に要点をまとめて説明した。先ほどあったアルへの不信感が、払拭されていく。
そうだった、アルは・・・いつも私に優しかった。
全てが明らかになった今、私も私のすべきことをしなければいけない。
勇気を持って話そう。そう心に決めた。
「アルフリード王子。分かりました。お話をしていただいてありがとうございました。私があなたのことを誤解していたことは、よく分かりました。逃げ出したことを、お詫びします。
アルフリード王子、ユーリス様、これから私が話すことは、今まで誰にも聞かせたことはありません。はじめに結論から申し上げると、ごめんなさい。私もお二方に嘘をついていました」
私は、淡々とこの異世界に来てから起こったことを、できるだけ順序だてて話した。
自分が聖女と一緒にこの世界に召喚されて、魔力ゼロと判断されて、捨てられたこと。
それでもなんとか頑張って、この世界で生きていこうと決意したこと。
美容魔法で髪と目の色を変えていて、これが本来の自分であること。自分が本当は17歳の少女であること。
大神殿で起こったことを話すときは、少し涙ぐみそうになったけど、こらえてなんとか話しきった。
お二人とも黙って真剣な顔で、私が話すのを聞いてくれていた。私が女だといったときには、特にアルフリード王子様がすごく驚愕した顔になった。
ううぅ・・・完璧男にみえてたから、すごく驚いたんだろうなぁ。私、胸はとってもささやかな感じだから・・・。あ・・自分で言ってて、自分で落ち込む。
ユーリス様もすごく残念だろうな。男のクラマが好きだったのに、実は女でサクラっていう名前だったなんて。
もう、あの溺愛マックススマイルは、見られないんだろうか。なんだか、寂しい。
「クラマ・・・いやサクラというのが本名なのですね。サクラは、じゃあ聖女なの?」
ユーリス様が優しく、語り掛けるように質問する。
私は首を横に振りながら言った。
「違うと思います。セイアレス大神官も違うといいました。それに私、魔力ゼロですし、できることといえば、この時を止める能力だけです」
「でも、その能力は未知なるものだよ。私には君が聖女だとしか思えない。魔力ゼロということで、大神殿を追い出されたことは本当に幸運だった。あそこにいればセイアレス大神官の駒として利用されるだけだ」
ユーリス様が言う。私は、ゆいかちゃんのことを思い出して、急に心配になった。
「あの!聖女様、ゆいかちゃんは、今大丈夫なんでしょううか?聖女様には、そんなひどいことをしないと思って安心していたのですが」
いまだ私が女だって事への衝撃事実で、ずっと固まっていたアルフリード王子が口を開いた。
「聖女は神殿にずっとこもって祈りを捧げているはずだ。だがそれは建前で、おそらく聖女の力を早く発現してもらうために、なんらかの修行はしているとは思うが、彼らにとっての切り札だから、無体な目には遭っていないはずだ。安心しろ。それにユイカはそんなたまじゃない」
それを聞いてほっとした。自分は運よく訓練場で職をみつけ、たくさんの優しい人たちに囲まれて、楽しく生活していた分、負い目があったのかもしれない。
「とにかく今は大魔獣討伐が先だ。ユーリス騎士隊長。手伝って欲しい。サクラお前はここで待っていろ」
アルフリード王子が、前線に立って戦って戦死した騎士様が落としたであろう剣を拾って、肩に担ぎながら言う。
その横を並ぶようにユーリス様が、大魔獣のほうに歩いていく。
「あ・・でも、私だって役に立つと思うんです。ほら前の世界で剣を習ってましたから。意外と強かったんですよ」と剣で素振りをする。二人の生暖かい視線がすごく痛い。
「「いいから、そこで見ていろ!(てください)!」」
あ・・・二人でハモった。
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