時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

文字の大きさ
38 / 68

大魔獣を退治する

しおりを挟む
ユーリス様の顔を見ると、自然と頬がほころんでいくのが分かる。
その後アルの存在にも気がついたようで、私を自分の背中にかばい、アルに対して剣を構える。

「貴様は何者だ!!」

私がアルに剣を向けていたのを見ての咄嗟の判断だろうけど、このような混乱状況にあっても私を守ってくれようとするユーリス様に、不謹慎だけど喜びを覚えた。

「そうかお前がユーリス騎士隊長か、さすがの迫力だな。だが、私のことが分からないとは騎士隊長の名折れだぞ。王城で何度か顔を合わせたこともあるはずだ・・・。気がつかないか?」

「王城で・・・まさか・・あなた様は・・」

ユーリス様は呆然としばらく目の前のアルの顔を見つめていたが、突然足元に膝を着いて、最上級の礼をする。

「アルフリード王太子殿下。先ほどのご無礼をおゆるしください」

私の頭の中は、再びパニックになる。王太子って王様の子供って事だよね、そういえばゆいかちゃんが言っていた、婚約者の王子様ってアルのことなの?!
ユーリス様の背後にいる私は、あまりの衝撃に体中の力が抜けて、剣が手から離れ地面に落ちる。

「アルは、王子様だったの?」なんとか声を絞り出す。

「クラマ。すまない嘘をついていて、だがあの段階で正体を明かすわけにはいかなかった。まだお前の能力についても、よくわからなかったからな。私はアルフリード・ファン・デ・ウェースプ。この王国の第一王子だ。幸い、時間はたっぷりある。ゆっくりと説明させて欲しい。それにユーリス騎士隊長も礼をといてくれ、この状況の説明をしよう」

アルは・・アルフリード王子は、ユーリス様に敬礼をやめさせると、まず順を追って、話し始めた。
その理路整然とした無駄な言葉のない説明で、この私でもすぐに理解できた。この国を二分する勢力のこと、国王陛下が病状に付しており、時期国王争いが深刻になっていること。
アルフリード王子と私が図書館で出会ったのは、ただの偶然であって意図したものではなかったこと。
ユーリス様には私の能力についても、簡潔に要点をまとめて説明した。先ほどあったアルへの不信感が、払拭されていく。
そうだった、アルは・・・いつも私に優しかった。

全てが明らかになった今、私も私のすべきことをしなければいけない。
勇気を持って話そう。そう心に決めた。

「アルフリード王子。分かりました。お話をしていただいてありがとうございました。私があなたのことを誤解していたことは、よく分かりました。逃げ出したことを、お詫びします。
アルフリード王子、ユーリス様、これから私が話すことは、今まで誰にも聞かせたことはありません。はじめに結論から申し上げると、ごめんなさい。私もお二方に嘘をついていました」

私は、淡々とこの異世界に来てから起こったことを、できるだけ順序だてて話した。
自分が聖女と一緒にこの世界に召喚されて、魔力ゼロと判断されて、捨てられたこと。
それでもなんとか頑張って、この世界で生きていこうと決意したこと。
美容魔法で髪と目の色を変えていて、これが本来の自分であること。自分が本当は17歳の少女であること。

大神殿で起こったことを話すときは、少し涙ぐみそうになったけど、こらえてなんとか話しきった。

お二人とも黙って真剣な顔で、私が話すのを聞いてくれていた。私が女だといったときには、特にアルフリード王子様がすごく驚愕した顔になった。

ううぅ・・・完璧男にみえてたから、すごく驚いたんだろうなぁ。私、胸はとってもささやかな感じだから・・・。あ・・自分で言ってて、自分で落ち込む。
ユーリス様もすごく残念だろうな。男のクラマが好きだったのに、実は女でサクラっていう名前だったなんて。
もう、あの溺愛マックススマイルは、見られないんだろうか。なんだか、寂しい。


「クラマ・・・いやサクラというのが本名なのですね。サクラは、じゃあ聖女なの?」

ユーリス様が優しく、語り掛けるように質問する。
私は首を横に振りながら言った。

「違うと思います。セイアレス大神官も違うといいました。それに私、魔力ゼロですし、できることといえば、この時を止める能力だけです」

「でも、その能力は未知なるものだよ。私には君が聖女だとしか思えない。魔力ゼロということで、大神殿を追い出されたことは本当に幸運だった。あそこにいればセイアレス大神官の駒として利用されるだけだ」

ユーリス様が言う。私は、ゆいかちゃんのことを思い出して、急に心配になった。
「あの!聖女様、ゆいかちゃんは、今大丈夫なんでしょううか?聖女様には、そんなひどいことをしないと思って安心していたのですが」
いまだ私が女だって事への衝撃事実で、ずっと固まっていたアルフリード王子が口を開いた。

「聖女は神殿にずっとこもって祈りを捧げているはずだ。だがそれは建前で、おそらく聖女の力を早く発現してもらうために、なんらかの修行はしているとは思うが、彼らにとっての切り札だから、無体な目には遭っていないはずだ。安心しろ。それにユイカはそんなたまじゃない」

それを聞いてほっとした。自分は運よく訓練場で職をみつけ、たくさんの優しい人たちに囲まれて、楽しく生活していた分、負い目があったのかもしれない。

「とにかく今は大魔獣討伐が先だ。ユーリス騎士隊長。手伝って欲しい。サクラお前はここで待っていろ」

アルフリード王子が、前線に立って戦って戦死した騎士様が落としたであろう剣を拾って、肩に担ぎながら言う。
その横を並ぶようにユーリス様が、大魔獣のほうに歩いていく。

「あ・・でも、私だって役に立つと思うんです。ほら前の世界で剣を習ってましたから。意外と強かったんですよ」と剣で素振りをする。二人の生暖かい視線がすごく痛い。

「「いいから、そこで見ていろ!(てください)!」」


あ・・・二人でハモった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...