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アルフリードとサクラ

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アルフリードとエルドレッドの戦いは、すぐに決着がついた。
私は一体何が起こったのか理解できないまま、二人の様子を見守った。

互いの体を支えあったまま二人が地面に崩れ落ちたので、思わず近くに駆け寄る。そこには首に剣を突きたてられたままのエルドレッドが目に入る。

「アル!!!」

お腹が痛むのも構わず、アルの頭を膝に抱え込むようにして抱き寄せた。その手には指輪が握られている。青白い顔をして力なく横たわる彼を見て、涙が溢れてきて止まらなくなる。

「アル・・・アル・・・もう少し頑張って・・・」

「サクラ・・・泣くな・・」

やわらかいその金髪は血にまみれ、以前のような輝きを失っていた。その上に私の涙が滴り落ちる。
アルが弱々しい手で私の頬を撫でる。その手の冷たさに、不安が増す。

「サクラ・・・オレはお前が好きだ・・・。お前ががクラマの時から気持ちは変わっていない・・・」

「やめて!!聞かない!!そんな話は聞きたくない!!ごほっ!!」

胸が痛んで咳が出る。血が肺からあがってきたようだ。きっと折れた肋骨が肺に刺さっているのだろう。
その血を見て、悲しそうな目をしながらその手で優しく拭ってくれる。

「すまない。守ると約束したのに・・・」

「・・・アルは私を守ってくれたよ・・」
涙がどんどん溢れて声がかすれる。

「最後にキスをしてほしい・・」

そんなに切ない眼で見ないで欲しい。これが最後なんていわないで欲しい。またいつものように微妙な感じで微笑んで欲しい。

「・・・・・・」
無言で私の頬を撫でるアルの手の上に私の左手を重ね、右手でアルの頬を掴むとかがみ込む様にして自分の唇とアルの唇を重ねた。
体はこんなに冷たくなってきているのに、その唇はまだ温かくて、今にもその命を散らしそうには到底思えなかった。
なのにだんだんと私を撫でる手の力が弱々しくなってくる。
私は何度も、何度もキスをした。
そのキスはどちらのものか分からないけれど、血と涙の味がした。

「・・・死なないで・・お願い・・」

なんとか声を絞り出して、アルの頭を胸に抱え込む。

私は何度も時を動かそうと試みたが、できなかった。

「どうしてっ!!動いてくれないのっ!!」
悲痛な叫びが辺りに響く。どうしよう。アルが死んでしまう。どうしたらいいんだろう。

「サクラ!」

背後から待ち望んでいた、その人の声が聞こえた。
振り向くと涙で曇ってあまり見えないが、あのネックレスをつけたユーリスが心配そうな顔で立っていた。

「ユーリス・・セイアレスを、倒したのね・・・」

「はい」

「おかしいわ、じゃ何故時間を動かせないの?」
ふと気がつく、そうだあの聖女の書物。あれに何か書いてあるかもしれない!!

「ユーリス!!あなたセイアレスが本を持っていたのを見なかった?」

「これのことでしょうか?」
そういって目の前に差し出す。

「セイアレスを倒した後でネックレスをいただいた時、聖衣の下にあるのを見つけました。殿下の腕輪と同じ模様だったので、持ってきました」

「これがあれば、時間が動かせる!!そうすればアルは助かるかもしれない!!」

私は目の涙を拭って、息が苦しいのも忘れてその本を読んだ。
見出しがあり、そこには日本語でこう書いてあった。


・聖女の力の阻防   
これかも・・・と思いながら頁をめくろうとすると、その先にある見出しに目を留めた。
・故由への逆行
これって・・・もしかして・・・夢中になってその部分も読んでみた。かなり硬い文章で書いてあるけれども、おじいちゃんに無理やり読まされた倉島流剣道家に伝わる古い書物からの知識でなんとか意味を推考する。

「なんてこと・・・・」

余りの事に驚きが隠せない・・・とまた咳が口をついてでた。ごほっ!!
血の味が口内に広がる・・・。

ユーリス様が医療魔法でどうにかしようとするのを目で制して、初めて知った衝撃の事実を話す事にした。

その前に、私の能力を阻害している力を解く。
それは思ったよりも簡単だった。能力の阻害を行使した宝飾を持った人物が、その宝飾を身に着けたまま呪文を唱える。
その呪文をユーリス様に伝えると、日本語だったが一度で復唱して見せた。
さすが優秀な騎士様だ。
これで時を動かすことができるようになったのだろうが、私はそうはしなかった。

「アル。私にエルドレッドの指輪を渡して・・・」

私はアルから指輪を受け取り、自分の指にはめながら、訳のわからない表情で見ている二人に説明した。

「この指輪は聖女が身につけることで、過去に戻る能力が発動するらしいの。見てて・・・」

私が言い終わらないうちに、周りの景色がまるでビデオの逆回しのように時間を遡っていく。
破壊されたテーブルや花瓶が・・・崩れた壁や天井が、・・目の前で元の形に戻っていくのを私達は呆然と見ていた。時々、壊れた物の欠片が私たちの体を付きぬけていくが、何も感じない。

「これが・・・聖女の力・・・なんてすごい」

まるで何かの幻想を見ているような時間が過ぎていく。

「3種の宝飾をつけている者だけが、この空間でいられる。そしてある一点の時を決めて指輪を外せば、過去にいた自分に戻れるらしいわ。私達以外の人にはそれまでの記憶は無いけど、宝飾を身につけている者だけは今までの記憶を持ったまま・・・ごほっ・過去に戻れる・・・ごほっごほっ!!」

体の力がだんだん抜けていくのを感じる。頭もぼんやりとしてきた。肺が損傷しているせいでおそらく体内の酸素量が低下したのだろう。支えていられなくなった体はそのまま床に倒れこんでいく。それをユーリス様が抱きとめる。


「サクラ!!」

心配で胸が潰れそうな顔で見るユーリス様に、精一杯の微笑みを返す。


「ここまでが限界かも・・・。また過去で会おうね・・・」


そう呟いて、指輪を抜き取った。
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