時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

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セイアレス 敗れる

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セイアレスとユーリスはサクラに影響が及ばないであろう距離にお互い距離を移した。

「ここならばいいでしょう。貴方にはアルフリード殿下の殺害の罪を負ってもらうことになっています。アルフリード王子の陣営にあるクラウス騎士団団長の弟が殺害犯ということにでもなれば、王子亡き後、アルフリード側の人間は、我々には逆らえないでしょうからね。まさか貴方が聖女の護衛だとは思いませんでしたが、とても都合がいい。感謝しますよ・・・ふふふ」

セイアレスがその整った端正な顔からは想像もつかないような醜悪な笑みを浮かべる

ユーリスがセイアレス大神官を見たのは、ほんの数回の神儀のときだけだった。そのときには、なんて美しい男だと思ったが、その奥にある欲望が一瞬垣間見えたことを思い出した。

「申し訳ありませんが、大神官はお知りで無いかもしれませんが、私の騎士としての能力は騎士団団長であるクラウス兄さんを凌ぎます。まあこのことを知っているのは騎士団の中でもほんの数名ですから、知らないことを恥じる必要はありません。
それに私は今あなたに多大なる怒りを覚えています。サクラを傷つけたことは、許しがたい罪です。償っていただきますよ」

ユーリスが殺気を込めて言い放つ。

セイアレスが大神官であることを知らしめるオレンジ色の聖衣は、ところどころ激しい戦闘で無残にも破れ、血が滲んでいる。聖衣で隠れた部分もおそらくかなり大きい怪我をしていることが、その動きから見てとれた。

戦いに優れた騎士であるユーリスは、まず敵の分析からはじめる。
左大腿部にはおそらく筋肉にまで達する損傷がある。そしてもともと怪我をしていたところを、サクラに噛まれて傷が広がったその右上腕もかなりのダメージがある。

構えている鑓は、見たことも無いものだがかなりの量の魔力を感じる。ということはおそらくこれがセイアレスの武器だ。形状的に敵を物理的に倒す武器ではない・・・ということは魔力を武器に
変えて放出するタイプのもの・・・。

そこまで考えて、いろいろなパターンの戦いをイメージする。
エルドレッド王子の傍にいるサクラが心配だ。早く決着をつけよう。
ユーリスはその大剣を背中から抜き、目の前に構えた。

「いきますよ」と、一言いうなり目にも留まらぬ速さでセイアレスに撃ちかかった。

セイアレスがその攻撃を予想していたかのようにかわし、あらかじめ魔力を練ってあった術式で聖魔鑓から攻撃を放つ。その攻撃は広範囲に及ぶもので、ユーリスがかわせる筈はないと思っていたが、期待に反しユーリスはその攻撃をすべてかわした。

「なぜだ。この攻撃はアルフリードでもかわしきれなかったというのに・・・」

余りの驚きに自然に疑問が口をついてでる。
ユーリスはその質問には答えず、魔力を大剣に込めてセイアレスに向けて放つ。

「・・・・・・っ!!!!」

セイアレスはその攻撃を見切って逃れようとするが、ちょうど怪我を負った左足が思うように動かず、見たことも無いような大きさの魔力の塊が彼を襲った。
ものすごい爆音の後、土煙が立ち込めて視界が遮られる。
ユーリスはそれにも構わず、一瞬の差で何とか攻撃をかわしたセイアレスに向かって正確に、まるで彼がどこにいるのか見えているように次の攻撃を打ち出す。
再び地震のような轟音と揺れが建物を覆いつくす。

セイアレスは混乱していた。第2撃もなんとか聖魔鑓の力で相殺して耐えた。
おそらく残された聖魔鑓の力は後1発で限度だろう。
まさかユーリスが・・・ただの騎士隊長がこんな実力を持っていたとは知らなかった!魔力のエネルギーの大きさでいえば、聖魔鑓のほうがユーリスの剣よりはるかに勝っている筈だ。
なのにどうして私が負けるのだ!!?

爆発の煙が強い風で押し流され、セイアレスとユーリスを浮かび上がらせる。
ユーリスは勝利を確信しているようだった。

セイアレスはユーリスの実力を見誤った。
5年間、ユーリスは騎士隊長になるために血反吐を吐くような訓練を積み重ねて、独自の戦闘スタイルを確立させていた。それは敵の肉体の観察する事により、弱点を知ることだった。
体中の筋肉と骨を観察することで、敵の古傷や体のバランスを知ることができた。戦闘中に動く筋肉の具合で、次の動きを予測することができた。

いくら莫大なエネルギーを持った攻撃だとしても、当らなければ負けない。次の動きが予測できればそれにあわせて攻撃を当てることもできる。攻撃力が小さくとも当れば敵に勝つことができる。
セイアレスは肩で息をしながら、痛恨のこもった目でユーリスを見つめる。

「私に残された手段は、これしかなさそうですね・・」

最後の手段だとばかりに、転移魔法の術式を練る。

「させるかぁ!!!!」

サクラ人質にするつもりだと言うことに気がついて、ユーリスが大剣を振りかぶる。魔力を込めている時間は無いので、そのまま剣をセイアレスの胸に突き立てた。

セイアレスが自分の胸に視線を動かし、その次に目の前で剣を持ち睨み付けてくるユーリスの顔を見て、信じられないといった表情を浮かべた。

「――――――!!―――!」

己の死を肝要できないとばかりに、叫び声をあげようとするがかすれた音が出てくるだけで声にならない。
こんなところで死ぬなんて・・!!生まれたときから膨大な魔力と美貌を兼ね備えた彼は、今まで挫折を知らずに生きてきた。

こんなところで地べたに這いつくばり、死んでいく己など受け入れるわけにはいかなかった。

ユーリスの手が彼の首にかかる。そしてネックレスは外された。

途端にセイアレスの時が止まる。憤怒の表情を浮かべたまま彫像のように固まった彼は、まるで教会にある悪魔との聖戦の絵画から出てきたかのようだった。

もちろん聖者に倒される悪魔のほうだったが・・・。

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