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真実

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突然時が止まって、クラウスはかなり驚いたようだ。彼にとって時が止まるのを経験するのは初めてのことだったからだ。ヘルミーナと一緒になって兵士を倒していたはずが、自分以外の者、全てが動かなくなっている。

先ほどまでの戦いの喧騒が、今は静寂に変わっている。それに・・・一番重大なことは、クラウスの隣で戦いの最中で剣を振りかぶったまま時間を止めて固まっているヘルミーナだった。

クラウスはヘルミーナの横顔をずーっと見つめ続けていた。彼女の脇に立ち、頬を触ってみる・・・何も起こらない。次にその短い髪に手をやる・・・何も起こらない。

これはチャンスではないのか・・・。ヘルミーナが動いているときに同じ事をやると、確実に拳が腹に入る。年齢と同じ年数、苦節30年。ずっと恋焦がれてきたミューズが目の前で動かない状態で止まっている。

クラウスの平常心はとっくに奪われていて、いまなけなしの自制心まで侵そうとしていた。

今ならヘルミーナに好きなだけ触れられる・・。少しだけなら誰も気がつかないだろう。

クラウスは最後の自制心を簡単に手放した。そうしてヘルミーナの体に手を伸ばそうとした瞬間・・・ユーリスの声が静寂の中に響いた。

「兄さん。サクラが時を止めた。そっちはいいから、はやくこっちに来てくれ!」

やはりそうだな・・・だめだな・・・。今度、聖女に個人的に頼んでみるしかなさそうだ・・・。クラウスは一瞬にして天国から地獄に落とされた心に折り合いをつけ、後ろ髪をひかれるように残念な面持ちで場を後にした。

クラウスがいくとそこにはアルフリードに抱きしめられたままのサクラと、その脇にたたずむユーリスがいた。ユーリスがアルフリードに促すと、アルフリードは無言のままサクラを抱きしめる腕を緩めて引き離す。

「アルフリード王子、彼女をそこに横に寝かせてあげてください。アイシスから貰った解毒薬を飲ませます」

「ああ・・・そうだな」

アルフリードはそういうと、彼女を横抱きにしてそのままゆっくりと大事そうにカーペットの上に寝かせた。ユーリスがサクラの上半身を右腕で起こして、左手で握った解毒薬を口に押し込もうとした時、サクラが口を開いた。

「ちょ!!ちょっとまった!!これ、何の薬なの?」

「大丈夫です。これで魔薬の効果は薄れてくるはずです。だから何も聞かないで飲んでください」

意外に元気そうな様子に驚きながらも、なおも解毒薬を飲ませようとするユーリスの手をサクラが一所懸命に押しのけようとする。だが、かなり腕の力も弱くなっているようで、すぐに解毒薬が口にいれられた。

「んんんんん・・・・・!!!」

その解毒薬をサクラは自分の指で取ろうとする。それを慌てて制するユーリス。

「これは君が飲まされていた魔薬の効果を薄める解毒薬です。これを飲まないと君は思考を失ってしまう。大丈夫ですから安心して飲んでください」

なおも薬を吐き出そうとしているサクラの口をユーリスは右手で押さえ、左手で背後から抱きしめてサクラの両腕の自由を奪った。暫くするとサクラが抵抗しなくなったので、右手だけを口元から離す。するとサクラが弱々しそうな声でゆっくりと呟いた。

「・・うぇ・・苦い・・・飲んじゃった・・どうしよう・・・・これ大丈夫なの?・・でも・・」

サクラはかなりショックな様子で呆然としている。アルフリードが近くにきてサクラの頭を撫でながらサクラの目をみつめて言う。

「大丈夫だ、すぐに良くなる。今はまだ魔薬への執着心があるだろうが、時間をかけてゆっくり魔薬を体から抜いていこう。オレも協力する」

サクラはアルフリードの方に目をやると、涙声でいった。


「いや・・・だから・・・私・・。魔薬飲んでないのっ!!!」


「「「・・・・・・・!!!」」」

アルフリード王子に、クラウス騎士団総長、ユーリス騎士団隊長。以上3名共に固まった。
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