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15、たぶん眠れない夜
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「……きっ! んぐ」
叫び声をあげようとした瞬間、シーツがめくりあげられて誰かの手が口に当てられた。同時に聞きなれた声が耳に流れてくる。
「大声を出すな、エマ。俺だ、リチャードだ」
「もごもご……ご、ご主りん様ぁ?」
妙な声になったが、ご主人様は何事もなかったかのように私のベッドに上がってきた。そうして枕元の灯りを当然のように消すと当たり前のように隣に身を横たえる。
(え? え? どういうことなんでしょうか? ご主人様、もしかしてここで眠るおつもりなのでしょうか? というかいつこの部屋に来たのでしょう)
頭の中は?がいっぱい。そもそもこの屋敷の床は歩くたびに不気味な音を立てるのだ。しかも私がこの部屋に入ってから部屋の扉が開いた気配は全くなかった。背中に冷や水をかけられたようにぞーっとする。
「あのっ! あのっ! 一体どうやってこの部屋に? ま、まさか窓から忍び込んだんですかぁ!」
ご主人様のお部屋は私の隣。私への嫌がらせのためならどんな労力もいとわないご主人様なら、あり得ないことではない。すると彼はあっけらかんと答える。
「あぁ、お前が大声で歌いながら洗面所でいる時に普通に扉から入った。それからは部屋の隅の椅子に腰かけてたんだが、お前はびくびくしてたから気付かなかったんだろう。本当に間抜けだな、ふっ」
爽やかな笑顔は素敵なのに、言っていることは結構すごい。
そういえば幽霊が怖いので歌って恐怖をごまかしていたことを思い出す。
それにご主人様が座っていたという部屋の隅の椅子は影になっていて真っ暗で目立たない。しかもグレーのガウンを羽織っているのなら気づかなくても当然だろう。
「そんなに怖がるな。幽霊なんかいないに決まってるだろう。お前は俺が忍び込んできたと思い込んでいたが、俺はずっと前から部屋にいた。今回の事件もそういうことだ。さぁ、寝るぞ」
ご主人様のおっしゃる意味がよくわからない。けれどもそれとは別の疑問が脳裏をよぎる。
(ということは私が寝る準備をしている間、ずっとこの部屋の隅にいたんですね。薄暗いので気が付きませんでした……はっ!)
そうして重大な事実に気が付いてしまった私は、ガバリとベッドに身を起こす。着替えを見ていたということは私の裸も見たということになる。
「も、もしかして、私が寝巻に着替えるところもみんな見てたんですかぁ!?」
「ああ、まあせいぜいAカップだな。もう少し腰にくびれが欲しいところだが、エマなんだからそんなもんだろう」
そんなことはどうでもいいとばかりに言い放つ。
(ひゃぁぁぁ! それって全部見てたってことじゃないですかぁ! なのにどうしてそんなに普通なんでしょうか。信じられません!)
納得できないという顔でみているとご主人様は低い声を出した。
「――さっさと寝ないと俺は自分の寝室に戻るぞ。どうする? それともお前はこの部屋で一人で眠れるのか?」
「い、一緒に寝ます! 眠ります! ありがとうございます!」
大慌てで叫んで、おとなしくシーツの下に潜り込んだ。
客室なので広めだがシングル用のベッド。二人で横になるにはやっぱり狭い。しかもご主人様が余裕をもってゆったりと寝そべっていらっしゃるので、私の隙間はほんの三十センチほど。
(ううぅぅぅ、狭いですぅ。でもここで文句を言ったらご主人様は一人で寝室に戻っていくのは確実です。幽霊の方が怖いので我慢です!)
私は鉛筆のように直立の格好で目を閉じた。
こんなのでは眠れないと思いつつも、すぐに意識が遠のいて眠りに落ちる。するとご主人様の怒りの声で目を覚ました。
「おいっ! どうしてお前はそんなに離れて寝るんだ! もっと俺の方に寄ってこないとシーツに隙間ができて寒い!」
「ふぇ? は、はひぃっ!」
私は寝ぼけながらもご主人様の方に体を寄せた。そうして睡魔に襲われ再び眠りに落ちると、またご主人様のダメ出しが飛んできて目が覚める。
「なんだそれは! ネズミが一歩歩いたくらいだぞ!」
「ふ、ふわぁいっ!」
「違うっ! このくらい近くにこないと寒くて俺が眠れないじゃないか!」
もぞもぞと体を寄せようとすると、ご主人様は乱暴に腕を回して私の体をグイっと引き寄せた。ベッドの中で横になりながら抱きしめられている体勢だ。直立不動に寝ていた時よりも寝心地が悪い。
そこで私はこれはまたご主人様の嫌がらせだと気がついた。
(はっ、さてはご主人様ってば、私が自分より先に眠るのが許せないんですね……こうやって体を締め付けて邪魔しているのです。なぁんて子供っぽい方なのでしょうか)
頬にあたる旦那様の胸は固くて、せっかくの柔らかい高級羽枕の存在が台無しになっていた。なのに悲しいかな睡魔は遠慮なしに襲ってくる。
心の中で旦那様への悪態をつきながら、なんだかんだで結局眠ってしまった。
叫び声をあげようとした瞬間、シーツがめくりあげられて誰かの手が口に当てられた。同時に聞きなれた声が耳に流れてくる。
「大声を出すな、エマ。俺だ、リチャードだ」
「もごもご……ご、ご主りん様ぁ?」
妙な声になったが、ご主人様は何事もなかったかのように私のベッドに上がってきた。そうして枕元の灯りを当然のように消すと当たり前のように隣に身を横たえる。
(え? え? どういうことなんでしょうか? ご主人様、もしかしてここで眠るおつもりなのでしょうか? というかいつこの部屋に来たのでしょう)
頭の中は?がいっぱい。そもそもこの屋敷の床は歩くたびに不気味な音を立てるのだ。しかも私がこの部屋に入ってから部屋の扉が開いた気配は全くなかった。背中に冷や水をかけられたようにぞーっとする。
「あのっ! あのっ! 一体どうやってこの部屋に? ま、まさか窓から忍び込んだんですかぁ!」
ご主人様のお部屋は私の隣。私への嫌がらせのためならどんな労力もいとわないご主人様なら、あり得ないことではない。すると彼はあっけらかんと答える。
「あぁ、お前が大声で歌いながら洗面所でいる時に普通に扉から入った。それからは部屋の隅の椅子に腰かけてたんだが、お前はびくびくしてたから気付かなかったんだろう。本当に間抜けだな、ふっ」
爽やかな笑顔は素敵なのに、言っていることは結構すごい。
そういえば幽霊が怖いので歌って恐怖をごまかしていたことを思い出す。
それにご主人様が座っていたという部屋の隅の椅子は影になっていて真っ暗で目立たない。しかもグレーのガウンを羽織っているのなら気づかなくても当然だろう。
「そんなに怖がるな。幽霊なんかいないに決まってるだろう。お前は俺が忍び込んできたと思い込んでいたが、俺はずっと前から部屋にいた。今回の事件もそういうことだ。さぁ、寝るぞ」
ご主人様のおっしゃる意味がよくわからない。けれどもそれとは別の疑問が脳裏をよぎる。
(ということは私が寝る準備をしている間、ずっとこの部屋の隅にいたんですね。薄暗いので気が付きませんでした……はっ!)
そうして重大な事実に気が付いてしまった私は、ガバリとベッドに身を起こす。着替えを見ていたということは私の裸も見たということになる。
「も、もしかして、私が寝巻に着替えるところもみんな見てたんですかぁ!?」
「ああ、まあせいぜいAカップだな。もう少し腰にくびれが欲しいところだが、エマなんだからそんなもんだろう」
そんなことはどうでもいいとばかりに言い放つ。
(ひゃぁぁぁ! それって全部見てたってことじゃないですかぁ! なのにどうしてそんなに普通なんでしょうか。信じられません!)
納得できないという顔でみているとご主人様は低い声を出した。
「――さっさと寝ないと俺は自分の寝室に戻るぞ。どうする? それともお前はこの部屋で一人で眠れるのか?」
「い、一緒に寝ます! 眠ります! ありがとうございます!」
大慌てで叫んで、おとなしくシーツの下に潜り込んだ。
客室なので広めだがシングル用のベッド。二人で横になるにはやっぱり狭い。しかもご主人様が余裕をもってゆったりと寝そべっていらっしゃるので、私の隙間はほんの三十センチほど。
(ううぅぅぅ、狭いですぅ。でもここで文句を言ったらご主人様は一人で寝室に戻っていくのは確実です。幽霊の方が怖いので我慢です!)
私は鉛筆のように直立の格好で目を閉じた。
こんなのでは眠れないと思いつつも、すぐに意識が遠のいて眠りに落ちる。するとご主人様の怒りの声で目を覚ました。
「おいっ! どうしてお前はそんなに離れて寝るんだ! もっと俺の方に寄ってこないとシーツに隙間ができて寒い!」
「ふぇ? は、はひぃっ!」
私は寝ぼけながらもご主人様の方に体を寄せた。そうして睡魔に襲われ再び眠りに落ちると、またご主人様のダメ出しが飛んできて目が覚める。
「なんだそれは! ネズミが一歩歩いたくらいだぞ!」
「ふ、ふわぁいっ!」
「違うっ! このくらい近くにこないと寒くて俺が眠れないじゃないか!」
もぞもぞと体を寄せようとすると、ご主人様は乱暴に腕を回して私の体をグイっと引き寄せた。ベッドの中で横になりながら抱きしめられている体勢だ。直立不動に寝ていた時よりも寝心地が悪い。
そこで私はこれはまたご主人様の嫌がらせだと気がついた。
(はっ、さてはご主人様ってば、私が自分より先に眠るのが許せないんですね……こうやって体を締め付けて邪魔しているのです。なぁんて子供っぽい方なのでしょうか)
頬にあたる旦那様の胸は固くて、せっかくの柔らかい高級羽枕の存在が台無しになっていた。なのに悲しいかな睡魔は遠慮なしに襲ってくる。
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